第15話 主人公の外見描写ってどうするの?
主人公の外見描写ってどうするの?
小説は単なる文字ですから、書こうと思えばいくらでも書き込めます。
たった一瞬のことを10万字に表せるのです。
そこで気になるのは「どこまで描写したらいいの?」だと思います。
絵師さんが困らない程度には詳しく
あなたがもし「小説賞・新人賞」を獲るつもりがなかったら、好きに書いていいのです。
しかし多くの方は「小説賞・新人賞」を目指しているでしょうから、それを基準にしてお話しします。
家族構成やどこに住んでいるかなど、基礎設定は設定だけしておいて、まったく書かないこともあります。
物語がどこまで及ぶかわからないので、まったく設定しないのは場当たり的です。
では外見・ルックスはどうでしょうか。
主人公の一人称視点の場合、設定はしても披露する場がなかなかありません。
なぜなら「心の中で自分の外見について発言するような人はまずいない」からです。
そんなのはせいぜいナルシシストくらいでしょう。
小説の冒頭に「俺は二十三歳の男だ。わずかに額を隠す程度の黒い短髪にサイドを刈り上げたツーブロック。瞳も黒色で、日焼けした肌が黒光りしている。黒いスーツを身にまとい、青いストライプのネクタイを締め、黒い革靴を履いている。」などと書くのはひじょうに馬鹿らしいのです。
なぜこんな書き方をしてしまうのか。
それこそ「一人称視点では主人公の外見が書けない」からです。
ではまったく書かなくてよいのかというと、こちらも否定的です。
なぜなら、ライトノベルにする際、表紙絵を書くのはプロの絵師さんだからです。
さすがプロであり、書かれた表紙絵はあなたの小説を何倍にも魅力的にします。
では絵師さんはどのように表紙絵を書いているのでしょうか。
あなたの作品を細かく読んで、主人公や魅力的な登場人物の外見を拾えるだけ拾います。
そうしなければ、本文の描写と表紙絵とが食い違う可能性があるからです。
たとえば「漆黒の瞳をしている」のに表紙絵では映えを意識して「真紅の瞳」で描いたとします。
となると、表紙絵の「真紅の瞳」に魅力を感じてライトノベルを購入したのに、本文を読むと「漆黒の瞳」だった。
これって詐欺ですよね。
ではどちらに罪があるのか。
一般的に「絵師さんが悪い」と言われます。
きちんと本文を読んでいないだろう、と。
今回の例では本文で「漆黒の瞳」と明示してあるのですから、それを反映しなかった「絵師さんが悪い」とされるのです。
では、主人公の外見がまったく書かれていなかったら。
その場合、「絵師さんが困ります」。
主人公を魅力的に描こうと思っても、肝心となる外見・ルックスについての記載がいっさいないのです。
こうなると絵師さんは「絵として見栄えがするキャラクター像」で描かざるをえません。
そして第二巻で実は「ブラウンの頭髪」だったと書く。しかし第一巻の表紙では「亜麻色の頭髪」だったりする。色の違いだけでなく、ロングとショートとボブなど、こちらも書かれていなければ、絵師さんは見栄えだけで描かなければならないのです。
この場合、第一巻で外見をまったく書かなかったあなたに非があります。
だから、絵師さんが迷わないよう、そして読み手が外見・ルックスを思い浮かべられるよう、主人公の外見・ルックスは書かなければならない情報なのです。
主人公が「男子高校生」だとして、「詰め襟」「学ラン」なのか「ブレザー」なのか「私服」なのかは学校によっても異なります。それをまったく書かなければ、絵師さんは困るしかないのです。
そんな難儀な作品の表紙絵を描くのは、たとえお金のためであっても敬遠するのが普通です。
いつもと変わらないものは書けない
三人称視点なら、主人公の外見は書き放題です。
今どんな服を着ているのか、どんな靴を履いているのか、髪や瞳の色は……。
ですが、小説とくにライトノベルは一人称視点が主軸です。
一人称視点では主人公の心の中から描写しているため、主人公にとって普通のことをあえて書くのも変な話。あなたはいつも「烏の濡羽色の髪」などと考えているでしょうか。「淡いブラウンの瞳」なんて思っているでしょうか。
それはあなたにとって当たり前であり、取り立てて書き出すまでもありません。
いちいち意識するとしたら、相当コンプレックスを抱えているか、逆に相当自信を持っているかする場合くらいです。
たとえば「いつも前髪がパツンパツンで気になってしょうがない。」は主人公のコンプレックスに属しますから、一人称視点でも書いて不思議のない描写です。
「筋の通った鼻筋」というのも、主人公が自信を持っているパーツだろうから、書いても不思議はありません。
それ以外で、たとえば「まつげが長く麗しい流し目を向けた。」と書くのはどうでしょうか。自分で「麗しい」とか言い切ってしまってだいじょうぶでしょうか。
自信にしては過剰ですし、コンプレックスを抱えているようにも見えません。
なにかが変な文章になっています。
たとえば「通夜がしめやかに行なわれている。俺も着慣れない喪服を身にまとって来客に対応している。」ような場合。
いつもと違うから「喪服を着ている」と書けるわけです。
毎日会社へ出勤しているとすれば、毎日スーツを着ているでしょうから、取り立てて「俺はスーツを着て電車に乗っていた。」なんて書く必要はありません。
それこそ、「いつもは私服なのだが、今日は取引先との打ち合わせがあるためスーツを着て電車に乗っていた。」のであれば、いつもと違うから「スーツを着て」と書けるわけです。
だからといって、書いていないから「服を着ていない」と解釈する人はまずいません。
そんなことをしていたら、小説投稿サイトの倫理規定に引っかかる可能性もあります。
そもそも「書いていない」=「服を着ていない」にはならないからです。
「いつもと変わらないものを殊更描写する必要はない」わけです。
腕ずくで描写するしかない
それでも書かないと絵師さんには伝わらないので、なんとか外見・ルックスをねじり込ませなければなりません。
ではどう書けばよいのでしょうか。
いちばん簡単なのは、他のキャラクターにしゃべらせてしまう方法です。
「あなたの癖のある赤い髪は、誰を挑発しているのかしら?」
なんてキャラクターにしゃべらせたら、読み手も「主人公は癖のある赤い髪をしているんだ」と理解できます。
万事このように書くわけにはいきませんが、ひとつの書き方ではあります。
また鏡を見る、写真やビデオを観ると、外見に意識が向かうものです。
たとえば異世界ファンタジーなら、剣を持っているでしょうから、「剣を引き抜いて顔の前に立てた。」と書けば、その後に「刀身には松明で照らされた黒い髪が無造作に垂れているのが映し込まれている。」とすれば説明できますよね。
こういうわずかな隙間を狙って、主人公の外見・ルックスをねじり込んでいくのが、書き手の腕の見せどころなのです。
上記では剣を鏡に見立てましたが、異世界ファンタジーで鏡がない場合もありますよね。その場合は水面を覗いたり、神事に用いる銅鏡を観たりと、知恵を使って無理やりねじり込ませましょう。
それくらい、一人称視点で主人公の外見・ルックスを描写する方法はないのです。
小説が書けるかどうかは「一人称視点」を読めばわかる。
心の中を主人公ひとりに絞り込めるかどうか。
主人公の外見をどのように表現しているのかどうか。
このふたつを見るには「一人称視点」が最適なのです。
ということは、心の声を主人公だけに絞り、主人公の外見をいかにして描写するか。それが何次選考を通過する鍵を握っているのかもしれませんね。
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