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「お願い、連れて行かないで!! 亮さんやサクラにとっては、お姉ちゃんと一緒に居た方が幸せに決まってる! だけど、私が嫌なの、あの二人に逢えなくなるなんて」


 ほんの少し前、自分から離れようって決心したくせに、二度と逢えなくなるかもしれないという恐怖に心が冷えた。

『ママ、あのね』と私の手を握るサクラ。

『この先を、みぃちゃんとサクラと歩いて行きたい』、やっと伝えてくれた亮さん。

 

「大切にするから! お姉ちゃんの分まで私が二人のこと守るから……、連れて行かないで。私を二人の側にいさせて下さい」


 お願いします、と必死に頭を下げた。

 海風がひゅうひゅうと音を立てては遠ざかる。

 しばらくの沈黙の後で。


「やっと言ってくれた。ありがと、みぃちゃん」


 頭の上にのった手がまた私を優しく撫でる。


「伝えに来てくれて、ありがとう。それが聴きたかったのよ、私」

「お姉ちゃん……、」

「お姉ちゃんの分まで幸せになってね、ずっと見守ってるよ。みぃちゃんのこともサクラや亮ちゃんや、お父さんやお母さんのことも」


 リビングに飾っている笑顔のお姉ちゃんの写真が目に浮かぶ。

 大好きな、のほほんと笑っている顔。

 病気で苦しかっただろうに、いつだって笑ってた我慢強くて皆が大好きな我が家の太陽みたいなお姉ちゃん。


「幸せになる、ね」

「うん、絶対だよ? 約束したんだから」


 絡めた小指は少しずつ、姉の色を消していく。

 見上げた笑顔もいつしか夕暮れに溶けていく。


「お姉ちゃん? お姉ちゃん!!」


 まだ、話したいこと、伝えたいことあるよ?

 サクラが初めて歩いた日のこと。

 初めて言葉を話した日のこと。

 リビングのお姉ちゃんの写真を指さして『ママ』って言ったんだから!

 パパってなかなか、言ってくれなくて亮さんはヤキモチ妬いちゃってね。

 あ、そうだ、この間ピアノを習い出したの。ホラ、お姉ちゃんもやりたがってたじゃない? だからサクラに託してみた。

 運動神経は亮さんの血をひいたみたいよ、すっごく足が速くてね?

 そうそう! 頭もいいの、賢いんだから!

 これは私がちゃんと教えてたからかもしれないけどね。

 あとね、あと――。

 お姉ちゃん、お姉ちゃんっ、私、お姉ちゃんが大好きなんだよ、ずっとずっと――――。

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