5

「サクラ、可愛いでしょ?」

「可愛いよ! お姉ちゃん、ソックリに育ったよ」

「抱っこ、したかったなあ」


 一度も抱っこすることなく亡くなってしまったお姉ちゃんは、その時だけ悔しそうな泣き出しそうな顔を見せた。

 働きながら子育てをする亮さんをサポートして、両親と私が代わる代わるサクラを育てた。

 サクラは物心ついた時から私のことを『ママ』と呼ぶ。

 私が生んだわけじゃないのに、どうしようもなく愛しい存在だ。

 もしかしたら亮さん以上に愛しい、大切な、娘だ。


「当然の成り行きだったと思う、ううん。必然? 成るべくして成った、うん、そう!」


 ブツブツと独り言ちてしっくりする言葉を探し当てたお姉ちゃんは、にっこりと笑って。


「亮ちゃんにプロポーズされたんでしょう? お父さんもお母さんも賛成してくれた、そうでしょ?」

「ごめんなさい、お姉ちゃん、私やっぱり、」


 ずっと迷っていたの。

 お姉ちゃんに悪い、でもサクラや亮さんのことは愛しい。

 だけど――。


「私、やっぱり家を出るよ。二人とは離れて、どこか遠くで暮らそうと、」

「それはダメ!!」


 いつになく厳しい姉の声が食い気味に響く。


「お姉ちゃん?」


 そっと顔を上げて姉を見上げると何度も何度も首を横に振る。


「みぃちゃんはもういっぱい我慢してきた。頑張ってきた。そんな、みぃちゃんのことを亮ちゃんは好きになったの。サクラも頼りにしてるの。ねえ、みぃちゃんは? みぃちゃんは二人と離れてしまってもいいの?」


 何も答えられずにいる私に、お姉ちゃんは悲しそうに瞳を伏せて。


「だったら、返してもらうよ? 亮ちゃんもサクラも。いい? ねえ、みぃちゃん?」


 なにを、言っているの? と驚く私の前でお姉ちゃんは淡々と言い放つ。


「だって、私、嫌だもん。亮ちゃんやサクラが、いつかみぃちゃん以外の人と幸せになるなんて。私ね、すっごく独占欲強いんだよ? でも、みぃちゃんならって思ったけど残念」


 砂浜の上に立ち上がると秋色めいた空を見上げて、お姉ちゃんはポツリとつぶやいた。


「今、亮ちゃんとサクラ、二人でドライブしてるみたい、すっごく楽しそう。私も混ざりたいな」

「え?」

「いいよね? みぃちゃんがいらないって言うなら、私があの二人を一緒に連れてく。それでいいんだよね?」


 ね? と私を見下ろしたお姉ちゃんの顔は無表情で。


「……ダメ、やめて、お姉ちゃん!!」


 言おうとしている意味がわかり怖くなって叫んだ。

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