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「ごめんは言わないでね、みぃちゃん。私は、みぃちゃんの心の声が聴きたいの。それを待ってたのよ」


 止めてしまった私の手を、お姉ちゃんの白く透き通るような手が包み込む。

 優しい優しいその冷たい手に唇を噛みしめた。

 言わなくちゃ、私が話してくれるのをお姉ちゃんは待っていてくれたんだ。

 だから会ってくれたんだから。

 零れそうになる言葉を、堰き止め固く結んでいた唇を解く。

 何度か深呼吸をしている間、お姉ちゃんは私を覗き込み何もかも悟った顔で微笑んで待っていてくれる。


「お姉ちゃん、私ね、亮さんのことずっと好きだったんだと思う」

「うん、知ってる」


 歯を零して嬉しそうに笑うお姉ちゃんに戸惑う。


「どうして、笑ってるの?! 亮さんは、お姉ちゃんと結婚してるんだよ?! なのに」

「それはもう五年も前の話。私が、亮ちゃんを一人に……、ううん。亮ちゃんとサクラを残してきたのは私のせい。みぃちゃんは二人をずっと支えてくれたでしょ? 亮ちゃんはまた笑えるようになったし、サクラもスクスクと育った。ありがとう、みぃちゃん。私、みぃちゃんには感謝しかないんだよ」


 どうして? なんで、そんな風に笑っていられるの?

 お礼なんか言わないでよ。

 お姉ちゃんの大事な人たちを、私奪おうとしてるんだよ?


「亮さんは、きっと今でも」

「うん、ちょっとは私のことも想ってくれてるかもね、それは嬉しいよ! でも、私、みぃちゃんを好きになった亮ちゃんのことも大好きよ」


 ああ、やっぱり……。

 お姉ちゃんは、もう全部わかっていたんだ。

 ギュッと目を閉じたら涙が頬を伝う。

 再会した時のように、お姉ちゃんは私を抱きしめて優しく頭を撫でてくれる。

 

 こっそり悔し泣きをする私を抱きしめて慰めてくれた小さい頃みたいに。

 私が泣き止むまで、こうしてくれたんだった。


「ほら、お姉ちゃん、おバカだから。お父さんやお母さんの反対押し切って亮ちゃんと結婚したじゃない? 百歩譲って結婚までって言われてたのに。子供だけは作っちゃいけないよって言われてたのに、ね?」


 亮さんが大学を卒業し就職してすぐ、姉と結婚したいと挨拶に来た。

 姉の身体の弱さを説明しても一歩もひかない二人に、両親は『心配だから家に同居すること』『どうか子供だけは作らないで』と条件付きで結婚を認めて間もなくだった。

 一つの命が宿ってしまった。姉と亮さんの大事な一人娘、サクラだ。

「どうしても生みたい」と皆の反対を押し切ったお姉ちゃんは。

 あの日、誰にもサヨナラさえも言わないままで。

 サクラを生んでそのまま、眠るように旅立ってしまった。 

 微笑み安らかなその顔は、幸せそうだったんだ――。

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