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▽▽▽
「みぃちゃんの家庭教師さんって、私と同い年だよね? ごめんねえ、お姉ちゃんってば、みぃちゃんより頭良くないから教えられなくて」
夏だと言うのに、一切の日焼けがない透けそうなほどの白い肌。
長い絹のような髪の毛を両耳にかけて、なぜだか私以上に亮さんが来る時間を気にしている。
「同い年の男の子と話せるの楽しみ!!」
「話すのはいいけど勉強の邪魔はしないでね、お姉ちゃん」
姉の大学は短大だったし、高校も女子高だったからだろう。
町に遊びに出掛けることもできなかった姉には、まるで動物園の珍しい動物が遊びに来るような感覚なのではないだろうか?
「私も、みぃちゃんと一緒に勉強教えてもらえないかなあ。高校の時の勉強もあやふやだし」
しきりにいいなあ、みぃちゃんいいなあ、と病み上がりの姉が言うもんだから。
「部屋にいて、一緒に聞いている分にはいいんじゃない?」
なんて言ってしまったのが、今思えば運の尽き、自業自得、後悔しても遅かった。
私の部屋に足を踏み入れた亮さんの目が姉に止まったまま、動かなくなる。
「はじめまして、みゆの姉のマヤです。勉強してるとこ、見学させてください」
「はじめまして、浅田 亮です。みゆちゃんの家庭教師を、させていただいております」
へへっと笑うお姉ちゃんに、亮さんは優しく微笑んむ。
お姉ちゃんも嬉しそうで。
二人とも耳を真っ赤に染めながら――。
私は二人に気づかれないように、爪が食い込むくらい拳を握りしめた。
△△△
「だから、あの時のことは謝っちゃダメなの、お姉ちゃんは!」
申し訳なさそうに眉尻を下げるお姉ちゃんにプイッと顔を背けて足元の砂を棒切れでかき混ぜた。
「そうやって、みぃちゃんがいっつも私を甘やかすから、どっちがお姉ちゃんだったかわからなかったよね」
「うん、それはそう思う」
「あ、やっぱり?」
「うん」
クスクスクスクス笑い合っていたら、まるで五年前に戻ったみたいな気分。
「でもね、みぃちゃん」
「うん?」
「私、やっぱり、みぃちゃんのお姉ちゃんだから。だから、みぃちゃんには幸せになって欲しいの。私の分まで」
指先の棒切れを深く深く砂に沈めながら、何度も首を横に振る。
お姉ちゃんより幸せになんてなれない、なっちゃダメなの。
「どうして? じゃあ、どうして、みぃちゃんは私に会いにきてくれたの? 会いたがってくれたの?」
私の否定する様子に哀しそうに顔を歪ませるお姉ちゃん。
喉の奥、小石を飲み込んでしまった私はそれを取り出せない。
うまく取り出せなくて声が潰れてしまったようで代りに涙が落ちてきた。
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