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「亮ちゃんは元気? 頑張ってる?」


 姉の表情が一瞬寂しそうに見えた。

 きっと姉が置いて行ってしまった人たちの中で、一番大事な存在だったろうから。

 本当であれば、ここに来るのは亮さんが良かったんだと思う。

 だけど、亮さんは私に「俺は大丈夫だから、みぃちゃんが行っておいで。マヤに会えたら、よろしく伝えて『俺は元気だよ』って」と。

 今のお姉ちゃんと同じくらいに寂しそうな笑顔で、私を見送ってくれた。


「うん、俺は元気だよ、だってさ」


 あの寂しそうな表情だけは教えてあげたくないって思ってしまう、なんだか悔しいから。

 だって、亮さんったら本当に酷かったんだもの、お姉ちゃんがいなくなってからしばらくの間は。

 すぐメソメソしちゃうし、時々深酒してしまうし、ぼんやりとどこか遠くを――、きっとお姉ちゃんを思っていたのだと思う。

 最近、やっと昔の亮さんみたいに戻ったんだよ。活発で頼りがいのある優しい亮さんに。


「そっか、元気ならいいや。勝手してごめんね、って皆に伝えてくれる?」

「嫌だよ、自分で伝えに来ればいいじゃん。ホント、お姉ちゃんって勝手! 昔から、勝手すぎる」

「うわーん、みぃちゃんにまでそう言われちゃったら、私泣いちゃう」

「泣かないくせに」

「うん、泣いてない」


 嘘泣きをしてみせた姉は、ペロリと舌をだして笑った。

 その顔に、増々腹が立って、足元に落ちていた棒切れで砂浜にお姉ちゃんの似顔絵をわざと不細工に描いてみる。


「でも、私が勝手できたのは、みぃちゃんがいつだってしっかりしてくれていたからだよ。本当は、お母さんやお父さんに甘えたい時だって、たくさんあっただろうに……。ごめんね、今も頑張ってるよね? 知ってるよ」


 ハッとして姉の顔を見た。

 全てを見透かしたような顔で、ごめんねと微笑んでいるのを見たら。

 私は必死に首を横に振る。

 確かに私、あの頃はお姉ちゃんばかりズルイって思ってた。

 生まれつき虚弱体質で私の半分ぐらいしか学校に行けてなかったお姉ちゃん。

 そのせいか、運動会や遠足や修学旅行の前夜には必ず高熱を出してしまいお休みとなってしまう。

 楽しみな気持ちが大きすぎて、体に負担をかけてしまうのだろう。

 おかげで同じ日に私も遠足があったって、朝から姉の世話でバタバタなお母さんの作る弁当はどこか手抜きだった。

 唐揚げを作ってくれるって言っていたのに、それがチキンステーキ弁当に変わっていたりして……。

「みぃちゃん、ごめん! 私の分のおやつ、帰ってきたら食べてね」と熱に苦しみながら、謝るお姉ちゃん。

 優しいお姉ちゃんなのに、そういう時は少し妬ましかった。

 いつだって旅行や遊びに行く場所も姉の体調を気遣って近場だったりして。

 またお姉ちゃんばっかり、って悔しくなったのも確かだった。


「みぃちゃんが大切にしていたものにも、気づけないようなバカな姉だったよね、自分が嫌になるなあ」


 その言葉に、お姉ちゃんは何もかもわかっているのだと確信した。

 私たちが会えなかったこの五年のことを。


「亮さんのこと言っているなら、謝ったりしないで、お姉ちゃん」

「だって、気付いてたら私、」

「亮さんのこと好きにならなかった? 違うでしょ? 亮さんだって、そう。覚えてるよ、二人が初めて会った日のこと」


 私が高二の時、家庭教師をしてくれたのが亮さんだった。

 その頃、姉は大学を休学し、入院をしていた。

 亮さんと初めて顔を合わせたのは、私が家庭教師をしてもらってから三か月も過ぎた頃だったと思う。


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