声を聴かせて
東 里胡
声を聴かせて
1
――今、どこにいますか? お姉ちゃん――
丘の上の白い電話ボックス、受話器を耳に宛てて姉からの返事を待つ。
受話器の向こう、長い長い沈黙の後、風の音がヒュウウっと聴こえた気がした、その後で。
コンコンと背後の出入り口を叩く音。
滲んでいた涙を慌てて拭い「あ、代わります」といつの間にか順番を待っていた人を振り返る。
そこに姉が、いた――。
ふわりとした笑顔を浮かべて私に手を振っていた。
「お姉ちゃんっ」
会いたかったその存在に驚き、電話ボックスを飛び出して姉に飛び込むように抱きついた。
「なになに? みぃちゃんってば! どうしたの?!」
私が泣いていることに驚いた姉は、泣き止ませるように優しく頭を撫でてくれる。
「だって、お姉ちゃんが、急にいなくなったりするから」
「ごめん、ごめん。ちゃんと言ってから行くつもりだったんだよ? でもなあ」
お姉ちゃんは、私の手を握り丘を下り始める。
眼下に見える海に向かって。
「久しぶりだね、みぃちゃん。お母さんやお父さんは元気にしてる?」
「うん。今は、二人とも元気よ。でも、お姉ちゃんがいなくなってから、しばらくの間は落ち込んでたよ? やっぱり、お姉ちゃんが何も言ってくれなかったからって」
「あー、申し訳ない。ホンット、申し訳ない」
突然私たちの目の前から、三歳年上の姉が消えて五年。
なにも変わらない、朗らかで能天気な姉が秋の砂浜に座り込み笑っている。
なんだか、とっても腹が立つ。
ここに来たら会えるかもって思ってた。
会ってちゃんと話をしなきゃって思っていたのに。
あんなにも思いつめてここに来たのに、マヤ姉はそれを露ほども知らないような顔で、屈託なく笑うのだ。
五年ぶりに会えた嬉しさよりも『全く、もう』という気持ちの方が勝ってしまう。
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