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「みぃちゃん! 大丈夫? みぃちゃん?!」
私の名を呼ぶ声、温かな手が肩を揺する。
電話ボックスの中で、受話器を耳に宛てたまま、座り込み壁にもたれ掛かり眠ってしまっていたようだ。
ぼんやりと開けた先にいるはずのない人がいた。
「亮さん、なんで?」
今朝、新幹線の駅で別れたはずの人が心配そうな顔で私を覗き込んでいる。
「サクラがね、ママに会いたいってめちゃくちゃ駄々をこねるからさ」
「サクラが?」
亮さんが指をさした先、駐車場に停まっている見慣れた車の窓は開いていて。
後部座席のチャイルドシートで眠っているサクラの姿が見えた。
「二人で、来てくれたの?」
「うん」
はにかむように笑う亮さんに私も微笑み返す。
「嘘、サクラじゃない。俺が、みぃちゃんに会いたかった。一人で行かせるんじゃなかった、ってすぐに後悔して、それで」
プロポーズを受けた日、すぐに返答できない私は「風の電話」を思い出した。
東北にあるこの電話は、もう二度と逢えない大切な人と心で話ができるという。
謝りたかった、お姉ちゃんに謝って。
謝ったら罪悪感とかそういうのが無くなるんじゃないか、なんて。
その話をしたら、亮さんは悲しそうに頷いて了承してくれた。
電話の話をした時、もしかしたら亮さんが行くんじゃないかって思った。
そしたら私も同じように悲しい顔をしたのかもしれない。
だって、お姉ちゃんは絶対に反対するような人じゃないって、どこかで私たちは、ちゃんとわかっていたから――。
「風の電話」は、心で話すものなんだと、電話機の横に書いていた。
どこにも線の繋がらない黒電話を取り、受話器を耳に宛てて、静かに目を閉じ 耳を澄まして。
風の音が又は浪の音が 或いは小鳥のさえずりが聞こえたなら 私の想いを伝える。
お姉ちゃんの分まで、私が二人を幸せにするって――。
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