令和4年2月19日
今日は朝から娘その1がいない。
我が家は俺と嫁さん、娘2人の4人世帯である。娘その1が
昨晩めしを食いながら、栞はずっと今日のお出かけのことを楽しそうに話していた。俺は留守番だが、ちゃんとおみやげを買ってきてくれるそうだ。
さおりによれば、保育園のころから仲良しのいっちゃん一家が、車で2時間くらいのとこにあるいっちゃんパパの実家に遊びに行くのにご一緒させてもらうという。図々しい気がしたけど、先方からぜひというお誘いがあったらしく。どうやらいっちゃんが、栞が一緒なら行くそうじゃなければいやだとゴネたとかで。さおりには、お誘いというよりお願いなんですが、という感じでいっちゃんママから電話があって、その場で栞に聞いたら即答だったので「うちので役に立つならお連れください」と返事したらしい。
そんなわけで昨日の夕方、さおりは栞と一葉を連れて、スーパーのちょっと先のケーキ屋さんまで手土産にする焼き菓子を買いに行った。そして、その帰りにフミさんと会ったよ、というのを俺は今、洗濯物を畳みながら聞いている。昨晩から浴室乾燥をかけ続けていた分なので、居間にハンガーごと引き上げてきたときはほかほかしていた。一葉が観る英語のDVDをセットしてる間にちょっと冷めたけど。
「なんか言ってた?」
俺はソファ前のカーペットに座り、栞のパンツを広げながら聞いた。ゴムがぼろぼろだ。というかこのソフトクリーム柄のやつよく見るな。多分しょっちゅう穿いてるんだろう。台所の方からは水の音がする。朝使った器やなんやを軽くすすいでいく音。食洗機に器を並べる音も合わせてテンポよく。
「なんかって?」
「ああ、いや、昨日は午前中に車の点検持ってきてくれたんだけどさ。接客立て込んでて……」
「かずちのこと話してたかってこと?」
さおりは俺のことを「かずち」と呼ぶ。中高と一緒だったのだが、そのころはほとんど話すことがなくて、呼ばれても「笹井くん」だったと思う。
付き合い始めてしばらくして呼び方が笹井くんから一典くんに変わり、かずくん、かずちゃんときて今に至る。結婚したのは「かずち」に変わってからだ。あとで聞いたら、さおりとしては笹井くんから一典くんに変えた時点で「笹井に変わる覚悟」を示したつもりだったそうなのだが、そんなの言ってくれないとわからないって。
とにかく、現・ササイサオリ氏は水を止め、俺の問いかけに対してちょっと唸ったあと「別に何も言ってなかったなあ」と答えた。
「ていうか、私が聞いてないし。聞かないと何も言わないじゃん。フミ」
「そうなんだけどさ。でもそんなら何話したのよ」
「え。私は卒業以来だったからさあ。普通に、元気してたー? とか、なんでお店始めたのとかそんな話だよ」
俺は一葉のパンツ(2枚目)を畳む手を止めて顔を上げ、まじで、と言った。
「俺それ知らんわ」
「だってかずち聞いてないでしょ」
さおりが食洗機を閉め、スイッチを入れた。最近買ったやつだけど、安かったからか結構大きい音がする。俺はその、低くてリズミカルな音を聞きながら、フミさんのことを思い浮かべた。
昨日も会ったのに、どんよりぼやけている。たぶん食洗機の音のせいだ。
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