第17話 二水烈火

ある日、山田さんからメールが来た。

「草太がいなくなったんだ!見つけたらすぐに知らせて」

草太は学校にも来ていないらしく、いつもの食堂の隅っこにもいなかった。不審に思った僕は彼がいそうな場所を洗いざらい訪ねてみることにした。毎日の食堂訪問は欠かさずに、そして他にも彼が行きそうな場所、あの時の用水路とか、、、だが草太は見つからなかった。

しばらくして鼎先輩も姿を消した。警察も動き出したある日、ピロリン、という着信音が鳴る。僕の携帯電話にメールが来たようだ。

「お前の大切な人たちは私たちが預かった。返して欲しければあの時と同じ、事務所のK室まで1人で来い。警察や他人に言いふらしたら人質の命はない」

どうやら事態は最終局面を迎えているらしい。僕は目的地まで駆け足で向かった。

その道中の電車内、僕は二水夫婦に育てられていたときの記憶を回想していた。彼らは幼い子供を誘拐しては、自分の好みに育て、気に入らなければ殺すような快楽殺人者だった。僕はそんな彼らにさらわれ、偶然彼らの思い通りに立ち回ったのだろう。僕は彼らと共依存の関係にあった。極度の愛情を受け、それに報いるように立ち振る舞った。そんな光景を見ていたのは彼らの実の娘、楓だった。彼女は僕を妬ましく思っていただろう。二水夫婦の目をかいくぐり、たびたび僕に暴力を振るっていた。そしてその少女がスターライトの『かえで』だということは最近になってようやく気付いた。


そしてK室にて、、、


「よう、ダメ息子。やっと来たか」

そこで待っていたのは殺し屋と思わしき黒スーツを身にまとった男たち、そして、かえでさん、いや二水夫婦の実の娘、二水楓だった。

「楓さん、僕はあなたに謝らなきゃならないことがあります」

「は?なんだよそれ」

「僕はあなたが苦しんでいたのを見て見ぬふりをしていました。それに彼らの蛮行を止められなかった。僕にも責任の一端があります」

「何言ってんだよ?私はあんたの反省なんか聞きたくない。私が聞きたいのは、あんたの悲鳴だけだ!行けっ!」

その掛け声と同時に複数の男たちが僕目がけて襲いかかって来た。一太!と言おうとしたが、もう彼はいない。僕は殺し屋にタコ殴りにされていた。

「グッ、ガッ、、、!」

「はは、言い様だな。しばらくそいつらと遊んでろ!」

「2人は、、、」

「お、どうした?まだ喋る元気があったか?なら追加で私も、、、おらっ」

「2人は、、、どこですか、、、」

「そうか、人質の居場所を知りたいか?あいつらならN室の椅子に縛ってあるよ。万が一にもお前が生きてたら行ってくれば?まあ、再会はあの世になるかもな」

「ググっ、、、」

手も足も出ないとはこの事だろう。僕の意識は闇の底に落ちかけていた。


寂しいよ、僕、、、


いや、寂しくなんかない、、、


痛いよ、、、


痛くなんかない、、、早く2人を助けなきゃ、、、


でも僕には力がない、、、力が欲しい、、、


なら受け入れろ、自分の育ての親が人殺しだってことを、、、


そうだ、僕は全てを受け入れてはいなかった。自分は彼らとは違う、別の生き物だと考え込み、現実を否定していた、、、


それを受け入れて、、、


全てを肯定して、、、


「僕は、、、」

「お?どうした、死にかけのガキ!今度こそトドメを、、、」

「僕は人殺しの息子、二水烈火だ!」

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