第13話 記憶のフタ
僕は朝の日課になりつつある山田家のお宅訪問をしていた。待ち合わせ場所は出来るだけ彼の家の近く、可能なら家に直接行けばいいと思ってのことだった。
「おや、烈火くん、久しぶり!今日はどうしたの?」
ちょうど通勤する山田さんと鉢合わせた。
「兄さん、僕が頼んだんだ」と草太が顔を出す。それから草太は山田さんに事情を説明する。
「そうか、道に慣れるまでとは言え、そんなことまでしてくれるとは、大助かりだよ!ありがとう、烈火!」
僕は感謝された。そう、感謝、、、そう言えば、僕は今まで人に感謝されたことがあっただろうか。いや、あったとして、それを全く覚えていないのはおかしい。両親に育てられていた頃の記憶が混濁しているようだ。引っ張れ、引っ張り出せ、あの頃の記憶を、、、
「うわあぁぁ!」
「ど、どうしたの、烈火くん?突然、悲鳴なんて、、、」
「大丈夫ですか、先輩?具合が優れないなら今日は休みますか?」
「あ、いや、大丈夫大丈夫。気にしないで、それじゃあ行こっか」
僕は衝撃的な光景を思い出した。思い出してしまった。もしかしたらそれは思い出さない方が身のためかも知れない。
その日の夜、僕はある夢を見ていた。僕は両親にこんな報告をした。
「きょうはともだちのけしごむ、ひろってあげたんだ!すごいでしょ、すごいでしょ」
すると彼らは血相を変えて
「なんて事をしたんだ!いい事は私たちにだけすればいい!!私たちにだけだ!!!」
と絶叫した。そうだ、僕はこうやって、善行を積めば積むほど叱られ怒鳴られていたんだ。感謝された記憶が消されていたのはこのせいか、、、
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
バン、バン!
「どうしたの、烈火!?大丈夫!?」
気がつくと僕は反省しながら叫び、目覚まし時計を叩き壊していた。
「大丈夫、、、でもないですね、この様子だと、、、」
僕は重要な記憶のフタが開くのをうっすらと感じていた。
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