第14話 橘 一姫

 横浜よこはま市立しりつ柚子美ゆずみ中学校ちゅうがっこう三年さんねん三組さんくみ教室きょうしつ

 高麗澤こまざわ 毅彦たけひこるクラスだ。

 そのクラスに今日きょう転校生てんこうせいがやってた。

 名前なまえたちばな 一姫いつき

 性別せいべつおんな

 髪型かみがた黒髪くろかみでショートボブ。

 かお童顔どうがんおさない。

 

 「(身長しんちょうは、ひゃく四九よんじゅうきゅうセンチ。体重たいじゅうは、あるかた重心じゅうしんのバランスからさっするに、三九さんじゅうきゅうキロってところか。筋肉質きんにくしつではないが、体幹たいかんバランスがい。姿勢しせいい。スリーサイズは、うえから八十はちじゅう五七ごじゅうなな、ヒップはこっからじゃわからねー。いずれにせよ、理想りそうちかいバランスだな。)」

 毅彦たけひこはそうおもっていた。

 毅彦たけひこ身長しんちょう体重たいじゅう、スリーサイズまでわかる能力のうりょくがある。

 たたか相手あいて情報じょうほうなかで、もっとはやられるもの外見がいけんである。

 ゆえ毅彦たけひこ相手あいて外見がいけんだけで身長しんちょう体重たいじゅう、スリーサイズや手足てあしのリーチを見抜みぬけるよう訓練くんれんしたのだ。


 「(手足てあしながさは、普通ふつうか。体型たいけいだけではからないが、たしかになにかの武術ぶじゅつをやっている。)」

 毅彦たけひこ一姫いつき分析ぶんせきをしていると、

 「じゃあたちばなさんのせきは、高麗澤こまざわくんとなりね。」

 と、担任たんにん松本まつもと 佳奈かなった。


 毅彦たけひこ教卓きょうたくから一番いちばん右奥みぎおく窓際まどぎわせき

 そのひととなり現在げんざい空席くうせきになっているのだ。

 理由りゆうは、かくクラスの生徒せいとまった直後ちょくご三年さんねん三組さんくみなかから急遽きゅうきょ転校てんこうすることになった生徒せいとたらしい。

 ゆえ毅彦たけひことなり空席くうせきだったのだ。


 一姫いつきがそのせきすわった。

 とても綺麗きれい姿勢しせいだ。

 いつもつくえ頬杖ほおづえをついてまどそとながめている毅彦たけひことは大違おおちがいである。

 毅彦たけひこ頬杖ほおづえをついてまどそとながめてるのにはわけがある。

 それは、友達ともだちないという現実げんじつからそむけるためだ。

 教室きょうしつなかてると、だれかの友達ともだちだれかの友達ともだち仲良なかよはなしをしている姿すがたいやでもはいる。

 それをけるための防御ぼうぎょ手段しゅだんである。

 以前いぜんにもれたが、毅彦たけひこきらわれているわけではない。

 とにかくイケメン。

 とにかくうつくしい。

 とにかくまぶしい。

 容姿ようしだけではなくこえもまたイケメン。

 ゆえちかづくことすらおそおおい、というのがほか生徒せいと毅彦たけひこ近付ちかづかない理由りゆうだ。


 となりすわった一姫いつき横目よこめつつ、毅彦たけひこはこうおもった。

 「(武術ぶじゅつをきっかけに、友達ともだちになれないだろうか......。)」

 毅彦たけひこ友達ともだちしがっていた。


 ホームルームがわり、授業じゅぎょう開始かいしまでやく十五じゅうごふん

 いち時間じかん理科りかであり、今日きょう理科りかしつでの授業じゅぎょうなので教室きょうしつ移動いどうしなければならない。


 クラスメートの女子じょし生徒せいとたち一姫いつきう。

 「ねぇ、理科りかしつ一緒いっしょこうよ。場所ばしょおしえてあげる。」

 そうわれた一姫いつきは、

 「ありがとう。ちょっとって。」

 とってから、

 「高麗澤こまざわくんこうよ。」

 と、毅彦たけひこことさそってくれたのだ。


 「!!」

 毅彦たけひこ見開みひらいて一姫いつきほういた

 そんなことわれたのははじめてだった。

 おもわず呼吸こきゅうまった。


 毅彦たけひこがこちらをいた瞬間しゅんかん一姫いつきのぞいた女子じょし生徒せいとたち毅彦たけひこまばゆいばかりのうつくしさゆえかおそむけてしまった。

 そして、

 「じゃ、じゃあ、さきってるね。」

 とって教室きょうしつからてしまった。


 それを毅彦たけひこは、

 「おい、いかけなくていのか?」

 と、一姫いつきった。


 一姫いつきは、

 「なんで?これでゆっくりきみはなし出来できるよ?」

 「!?」

 

 一姫いつき毅彦たけひこつくえにドッカリとすわり、毅彦たけひこかおちかづけてわるみをかべながら小声こごえで、

 「{きみ、あたしのことてたでしょ。うえからしたまであたしの身体からだ全部ぜんぶ。}」

 とった。


 「!!」

 毅彦たけひこ無言むごんおどろいていた。


 「{もしかして、あたしとエチエチしたくなっちゃった?そんなんじゃないよね?エッチなてくれてたらまだかったんだけど、きみはもおおおっといやらしかったよ?}」

 「............ 。」

 毅彦たけひこなにかえせない。


 「{きみだけにどうしてもいたくてこの学校がっこうたの。おなじクラスになれてちょうラッキー。毎晩まいばんきみことだけをかんがえて、どんなふうたたかったらたおせるのかなぁって、ずっとおもってたの♡か・た・お・も・い♡}」

 一姫いつきほおあからめ、あま吐息といきあらくしながらあやしいみをかべた。


 「{たちばなさん、まさか......}」

 毅彦たけひこがそういかけると、


 「{身長しんちょうひゃく七十ななじゅっセンチ、体重たいじゅう五八ごじゅうはちキロ。身体からだね。そうだよ、あたしも貴方あなたおなじ。いたかったよ、毅彦たけひこくん♡これからいっぱいこぶしかたおうね♡}」

 「{やっぱねこかぶってやがったのか。だがおれきみとはちがってあぶない人間にんげんじゃないぜ。}」

 「{うそなぐいたい衝動しょうどうにはさからえないでしょう?貴方あなた、あたしたち武術ぶじゅつ女子じょしあいだじゃ、喧嘩けんかきで有名ゆうめいよ?}」

 「{だがとき場所ばしょわきまえるさ。放課後こうかご、デートしようぜ?}」

 毅彦たけひこもまた、凶悪きょうあくみをかべながら小声こごえった。

 

 たちばな 一姫いつき毅彦たけひこ予想よそうどお武術ぶじゅつまなんでいる。

 予想外よそうがいなのは、その可憐かれん似合にあわず、戦闘狂せんとうきょうだったということだ。


 「オッケー。それはそうと、いまからあたしのことは、『いっちゃん』ってんで?仲良なかよくしようよ。あたしは毅彦たけひこくんってぶから。」

 「かまわない。おれ友達ともだちがいないから、そういうの大歓迎だいかんげいだぞ。」

 先程さきほどまでの一触いっしょく即発そくはつ雰囲気ふんいき突然とつぜんえ、毅彦たけひこかなしきカミングアウトをした。


 「え、そうなの?イケメンなんだからモテそうじゃない......。あたしごのみよ♡」

 だが一姫いつき雰囲気ふんいきあやしいままだ。

 毅彦たけひこ相手あいてだとのままでいられるのかもしれない。

 毅彦たけひこ自分じぶんおなじタイプの人間にんげんだからだろう。


 「はや理科りかしつ案内あんないしたまえ、毅彦たけひこくん。」

 「そ、そうだな。授業じゅぎょうおくれちまう。」


 一姫いつきはピョンッと毅彦たけひこつくえからりて、教科書きょうかしょとノートを準備じゅんびした。


 毅彦たけひこ一姫いつきあやしいやりりがおこなわれてるあいだ、クラスには二人ふたりしかなかったわけではない。

 ほか生徒せいと当然とうぜんた。

 二人ふたり様子ようすていたほか生徒せいとたちは、「たちばなさんってあの高麗澤こまざわくんおくしてないな、すげー。」とおもいつつ、「あの二人ふたりにはあんまり近付ちかづかないようにしよ。」とおもった。


 午前ごぜん授業じゅぎょうわって昼休ひるやすみ。

 毅彦たけひこがいつものよう一人ひとり弁当べんとうべようとしていると、ガタンッと、みぎからつくえ毅彦たけひこつくえにぶつかってきた。

 「一緒いっしょにごはんべようよ!」

 一姫いつきだった。


 「あ、うん。」

 毅彦たけひこすこ緊張きんちょう気味ぎみこたえた。

 

 「(い、一緒いっしょにごはんをべる......これは......最早もはや友達ともだち同士どうしっても過言かごんではないのでは!?)」

 毅彦たけひこ真面目まじめけわしいかおでそうおもっていた。

 まるで仁王におうぞううんかおつきであった。


 そのけわしいかお一姫いつきは、

 「(な、なんだ?毅彦たけひこくん、こんなけわしいかおでいっつもごはんべてるの!?おこってるのかな......。)」

 とおもっていたが、毅彦たけひこおこってなどいない。

 むしよろこんでいるのだ。

 はじめての友達ともだちができるかもしれないと、ワクワクしているのだ。

 ゆえ仁王におうぞううんフェイスになっているのだ。

 はたからればただのこわかおのヤバいやつだが。


 「そ、そのお弁当べんとうはおかあさんがつくってくれてるの?」

 一姫いつきおそおそいた。


 スゥーッともとかおもどった毅彦たけひこは、

 「いや、これは自分じぶんつくってきた。おれかあちゃんいつも仕事しごといえないから。」

 「そうなんだ、すごいね。(かった。もとかおもどった。)」

 「い、......い、い、い......いっちゃんの弁当べんとうは?」

 「なんでそんな緊張きんちょうしてんのよ。」

 「だ、だって、ひとをあだぶなんて......それはもう......と、友達ともだち......じゃないか......。」

 「?なにってんの?へんなの。この弁当べんとうとうさんがつくってくれるんだ。」

 「へぇー、すげー。おれ去年きょねんまではそうだった......。」

 

 んだ表情ひょうじょう毅彦たけひこて、それ以上いじょうかないようにした。


 「ねぇ、そうえば、放課後ほうかご何処どこれてってくれるの?」

 一姫いつきがそうった瞬間しゅんかんほかのクラスメートがみみてた。

 じつひるになってからみんな二人ふたりはなしぬすきしていた。

 あの絶世ぜっせい美男子びなんし気軽きがるはなけるなんておそおおこと

 それを平然へいぜんとやってのける一姫いつき毅彦たけひこがどんな会話かいわをするのか、みんなそわそわしながらいていた。

 そしたら一姫いつきが「放課後ほうかご何処どこれてってくれるの?」と来たもんだ。

 ほとんどの女子じょしが、「(おめぇごときが高麗澤こまざわくんうわけねーだろ!!)」とおもっていた。

 たしかに一姫いつき可愛かわいい。

 だが絶世ぜっせい美少女びしょうじょってほどじゃないし、クラスでも一番いちばん可愛かわいいわけでもない。

 その程度ていどやつ毅彦たけひこれしく会話かいわをするなど、万死ばんしあたいする。

 クラスの女子じょしたち一姫いつきたいして嫉妬しっとけていた。

 

 そんな女子じょしたちらないで、毅彦たけひこはこうった。

 「二人ふたりっきりになれる絶好ぜっこう場所ばしょがあるんだ。そこでたのしもう。むまでな。」


 バキバキッ!!!

 クラスの女子じょしたちっていたはしにぎったおとがした。

 

 しかし二人ふたりにはそんなおとなどみみはいらない。

 二人ふたりみみはいるのはおたがいのこえのみ。

 二人ふたりはいるのはおたがいのかおのみ。

 つめいながらたのしそうにはな二人ふたりはまるで恋人こいびと同士どうしようだった。


 「ふふっ♡あたしこういうのはじめてだからすっごいたのしみ♪」

 一姫いつきがそううと、

 「じつおれもなんだ。いつもはたりばったりではじまるからさ。」

 と、毅彦たけひこった。


 その毅彦たけひこ言葉ことば女子じょしたちは、

 「「「(こ、高麗澤こまざわくんって、まさか、ヤリチン!?)」」」

 とおもっていた。

 彼女かのじょらないのだ。

 毅彦たけひこがバリバリの喧嘩けんかきという事実じじつを。

 そしてこれから二人ふたりがすることが、喧嘩けんかだなんてゆめにもおもっていなかった。

 

 

 



 

 

  

 

 

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