第13話 転校生

 「たっだいま〜!」

 高麗澤こまざわ 美蘭みらん青木あおきヶ原がはら樹海じゅかいからかえってた。

 時刻じこくよる十一じゅういち三十さんじゅっぷん

 平日へいじつよるということもあって、道路どうろいていたため、わりとはやかえってくること出来できた。


 「おお、ねえちゃんおかえり。随分ずいぶんおそかったね。」

 美蘭みらんほうかおけてそうったのは、美蘭みらんじつおとうと高麗澤こまざわ 毅彦たけひこである。

 いまはパジャマ姿すがたでリビングで座布団ざぶとんすわってテレビをていた。


 このおとうと以前いぜんにもったが、超絶ちょうぜつイケメンである。

 そんな超絶ちょうぜつイケメンにうしろからぎゅむっと超絶ちょうぜつ美少女びしょうじょきついてう。

 「マジつかれた〜。おなかへった〜。」

 

 おとうと右側みぎがわ首筋くびすじかおをうずめる美蘭みらん

 その美蘭みらんあたまやさしく右手みぎてでながら毅彦たけひこは、

 「まだよるめしってねーのかよ。」

 とった。


 「............。」

 美蘭みらんなにわずおとうと首筋くびすじかおをうずめつづける。

 おとうと大好だいすきな美蘭みらんむかしからこんなかんじだ。

 

 毅彦たけひこべつあね大好だいすききってほどではないが、むかしからこうなのでれてしまっているし、いやではない。


 「今日きょうおれ、ハンバーグつくったんだけど、べる?」 

 毅彦たけひこがそううと、

 「べるー!」

 と美蘭みらんった。


 「じゃ、風呂ふろでもはいってて。」

 そうって毅彦たけひこがった。


 「あぁ、もうちょっとギュッてさせて。」

 「いいだろもう。」

 「まだ充電じゅうでんりないの!」

 「いいから風呂ふろはいってい。」

 「むぅ〜......。」


 美蘭みらんあきらめて風呂ふろかった。


 「なによ、最近さいきん全然ぜんぜんかまってくれない。むかしはお風呂ふろだって一緒いっしょはいったのに。スキンシップがりないんだうちのおとうとは。」

 じつおとうと恋愛れんあい感情かんじょうむきしなあねはブツブツと文句もんくいながら風呂ふろはいる。

 

 「べ、べつにあたしは、恋愛れんあい感情かんじょうとか、そんなんじゃないしぃ?だだの......姉弟愛きょうだいあいだしぃ?毅彦たけひこさみしいかなぁとおもってくっついてるだけだしぃ?べつに、あまえたいとかおもってないしぃ?」

 身体からだあらいながらでなんかひとごとはじめた。

 本当ほんとうおとうとたいして恋愛れんあい感情かんじょうしかない。


 「............もしかして......もう彼女かのじょとか......いたりしちゃうのかな......。」

 身体からだあらってるめ、想像そうぞうしてしまう。


 たとえば美蘭みらんが、

 「ただいま〜。」

 とかえってても、『今日きょう彼女かのじょいえまってくる。』と手紙てがみいてある。


 たとえば学校がっこうやすみの

 「一緒いっしょものこうよ。」

 と美蘭みらんっても、

 「はぁ?おれ彼女かのじょとデートだから。」

 とって、おとうとていってしまう。


 たとえば美蘭みらんいえて、おとうとかえってきたとき。

 美蘭みらんが、

 「おかえ............」

 いかけた瞬間しゅんかん

 「ちょっとらかってるけど、ゆっくりしていきなよ、一姫いつき。」

 「うん、ありがと、毅彦たけひこ♡」

 と、いえ彼女かのじょれてて、さらに、

 「あぁ?なんだよねえちゃんたのかよ。明日あしたよるまでいえからてってくんない?」

 とわれ、されてしまう。


 そしてたとえばある毅彦たけひこが、

 「ねえちゃん、おれ一姫いつきとのあいだ子供こども出来できちゃったから、すわ。バイビー!」

 とって突然とつぜんってしまい、二度にどえなくなってしまう。


 そんなこと想像そうぞうしたら、なみだあふれてきた。

 

 「いや............いや............そんなの......あたしの......あたしの毅彦たけひこだもん............あたしが一番いちばん、あのこときなんだもん......。」

 小声こごえつぶやきながら、気付きづけば号泣ごうきゅうしていた。


 一方いっぽう毅彦たけひこは、ハンバーグにかけるソースをつくっていた。

 

 「今日きょうのはいつもより上手うま出来できたんだ。きっとねえちゃんもよろこぶぜ。」

 

 毅彦たけひこやさしいおとうとである。

 三年さんねんまえ、まだ美蘭みらん中学ちゅうがく一年生いちねんせいとき

 美蘭みらんあたま何故なぜかハンマーげのハンマーがんできて直撃ちょくげきした。

 美蘭みらんあたまからながして気絶きぜつしていると、当時とうじ小学しょうがく六年生ろくねんせい毅彦たけひこは、美蘭みらんをおんぶして病院びょういんまでれてった。


 美蘭みらん風邪かぜなどで体調たいちょうくずすと、いつもまって看病かんびょうしてくれた。

 そういうときは、いつもとなり布団ふとんいて、つないでてくれた。

 毅彦たけひこ自分じぶん風邪かぜ伝染うつるかもしれないのに、美蘭みらんが「さむい。だっこ。」とえば美蘭みらん布団ふとん自分じぶんはいり、美蘭みらんことやさしくきしめてくれた。


 毅彦たけひこはそんなやさしいおとうとだ。

 おとうとなのにあねあまやかしてあげていた。

 

 そのおとうとほかおんなられるなんて、美蘭みらんにはえられない。


 「(だいたいだれよ、一姫いつきって。)」

 と、美蘭みらんおもった。

 この一姫いつきという少女しょうじょ美蘭みらん勝手かって想像そうぞうした毅彦たけひこ彼女かのじょである。

 どんな少女しょうじょかは不明ふめい

 美蘭みらん想像上そうぞうじょう世界せかい人間にんげんである。


 なんだかいやこと想像そうぞうしてしまった美蘭みらんは、風呂ふろからあがって毅彦たけひことおそろいのパジャマに着替きがえる。


 美蘭みらん風呂ふろからあがったタイミングをさっして、毅彦たけひこはハンバーグをはじめる。

 美蘭みらんがリビングにはいると、とてもかおりがしてきた。

 空腹くうふくでもあるため、余計よけい食欲しょくよくをそそられる。


 「ねえちゃん、もうすぐけるよ。」

 リビングにはいって美蘭みらんかって毅彦たけひこった。


 「............。」

 美蘭みらんうつむきながら毅彦たけひこるキッチンにた。

 あねくら表情ひょうじょうくびかしげる毅彦たけひこ


 「ねえちゃん?」

 毅彦たけひこがそうこえけると、ギュッと美蘭みらん毅彦たけひこ正面しょうめんからきついた。


 「ぅおい、どうしたの。」

 毅彦たけひこおどろきながらった。


 「............毅彦たけひこ......。」

 美蘭みらん毅彦たけひこ首筋くびすじかおをうずめながらつぶやいた。


 「ん?」

 「毅彦たけひこはさ、彼女かのじょ、いるの?」

 「いないけど。」

 「本当ほんとうに?」

 「本当ほんとうおれモテねーし。そもそも学校がっこうじゃ友達ともだちすらいねーし。」

 「それはかなしすぎない?」

 微笑びしょうかべながら美蘭みらんった。

 

 そして毅彦たけひこはコンロのし、美蘭みらんやさしくきしめながらう。

 「おれなにわるいことしてないぜ?」

 「学校がっこうで、喧嘩けんかとかしてない?」

 「しないしない。そんなやつばっかだったらおれもちょっとはたのしめるんだけどな。でもだれってこない。おれはどっかのくにのお嬢様じょうさまなんかか?」

 「自分じぶんからこえけにかなきゃ。」

 「それやってるんだけどさ、みんなおれからとおざかってくのよ。おれきらわれてんのかな。」

 「あんたって......はたからればうつくしいからね。近付ちかづがた雰囲気ふんいきがあるんじゃない?」

 「うつくしいって......それおれのせいじゃないだろ。」

 「でもあたしはきよ?そんな毅彦たけひこことが。」

 「そうかい。そろそろハンバーグいていいかい?まだ途中とちゅうなんだけど。」

 「もうすこしだけこのままきしめて。」

 「今日きょう随分ずいぶんあまえんぼモードじゃん。」

 「あたしは毎日まいにちおとうととこうしたいよ?でも最近さいきんあんたないし。」

 「おいおい、普通ふつうかんがえて、じつあね毎日まいにちきしめるおとうとがどこにんだよ。」

 「たっていじゃん。おねぇちゃんを毎日まいにちあまえさせてあげるおとうとが、世界せかい一人ひとりぐらいたっていじゃん。」 

 「てもいけどおれじゃなくてくね?」

 「ダメ、あんたじゃなきゃダメなの。」

 「んだよそれ......。」

 「毅彦たけひこ......。」

 「ん?」

 

 美蘭みらん毅彦たけひこ身体からだからかおはなし、上目うわめづかいでう。

 「どこにも......かないでね?」

 「え?予定よていいけど?」


 美蘭みらんはにっこりとわらい、

 「はんばーぐべたい。」

 とった。


 「美味おいしいのが出来できるからっててよ。」

 毅彦たけひこがそううと、二人ふたりとも密着みっちゃくしていた身体からだはなした。

 美蘭みらんはおとなしくリビングの座卓ざたくまえすわる。

 毅彦たけひこ料理りょうり再開さいかいした。


 「(いままで気付きづかなかったけど、ねえちゃんって意外いがい可愛かわい性格せいかくしてんだな。)」

 毅彦たけひこ素直すなおにそうおもった。


 「へいおまち!」

 毅彦たけひこ美蘭みらんにハンバーグをした。


 「うまそー!!」

 大量たいりょうのごはんがはいった茶碗ちゃわん右手みぎてち、左手ひだりてはしちながら美蘭みらんった。

 ちなみに美蘭みらん左利ひだりききである。

 毅彦たけひこおなじく左利ひどりきき。


 時刻じこく午前ごぜんれい三十さんじゅっぷん

 おそよるごはんを美味うまそうにべる美蘭みらん

 そんなあね微笑ほほえみつつテレビをてる毅彦たけひこ

 

 今日きょうげつ曜日ようび

 二人ふたりとも明日あした当然とうぜん学校がっこうである。

 はっきりって、毅彦たけひこきている必要ひつようかった。

 だが何故なぜきていたのかとうと、るのが早過はやすぎたのだ。

 よるべようとしていたハンバーグを夕方ゆうがたにはべてしまった。

 それから風呂ふろはいり、みがいて夕方ゆうがたてしまったのだ。

 部活ぶかつめた毅彦たけひこ学校がっこうわれば帰宅きたくするのみ。

 友達ともだちない毅彦たけひこかえってもとくにやることいのではやめによるごはんをべてしまったのだった。

 そしてきてみればまだよる十一じゅういち

 テレビでもようとおもったのできていたのだ。


 そしていまはリビングで美蘭みらん一緒いっしょる。

 美蘭みらんにごはんをつくったならさっさとればいいのにまだ毅彦たけひこ美蘭みらんそばにいる。

 それは毅彦たけひこ自身じしん、たまの姉弟きょうだい二人ふたり時間じかん大切たいせつにしたいとおもっているからだ。


 「毅彦たけひこ、これうんまい!」

 美蘭みらんった。

 「そりゃかった。ねえちゃんはよくうからな、おおきめにしといたよ。」

 「うん、素晴すばらしい!」


 母親ははおや仕事しごと滅多めったいえかえってない。

 父親ちちおやくした二人ふたりにとって、いま現在げんざいいえ家族かぞくはおたがいのみ。

 父親ちちおやきていたときはいっつも三人さんにんはなしていた。

 やさしかった父親ちちおやはもうない。

 だからこそ毅彦たけひこ余計よけい姉弟きょうだい時間じかん大切たいせつにしたくなった。

 たとえ明日あした学校がっこうで、よるおそくても、「おかえり」といたい。

 いえ建築けんちく設計せっけい仕事しごとをしていた父親ちちおやが、毎日まいにちってくれたように。 

 

 「ごちそうさまでした。」

 美蘭みらん両手りょうてわせながらった。


 「おう。片付『かたづ』けは明日あしたにして、今日きょうはもうよっか。」

 毅彦たけひこった。


 「うん。」

 「じゃ、おやすみ。」

 毅彦たけひこはそうって自分じぶん部屋へやはいっていった。


 「おやすみ!」

 美蘭みらんもそうって、洗面所せんめんじょかった。


 つぎ毅彦たけひこ中学校ちゅうがっこう

 あさのホームルームで担任たんにん先生せんせいとき先生せんせいあとからおんなはいってた。


 「だれ?あの可愛かわい。」

 「転校生てんこうせいじゃね?」

 「めっちゃ可愛かわいくない?」

 クラスメートたちがそんなふうはなしていた。

 

 そして担任たんにんである女性じょせい教師きょうし松本まつもと 佳奈かながそのおんな紹介しょうかいする。

 「はい、今日きょうからみなさんと一緒いっしょ学校がっこう生活せいかつおくる、あたらしい仲間なかまてくれました!」


 佳奈かな先生せんせい転校生てんこうせい少女しょうじょ自己紹介じこしょうかいをするよううながした。


 「え、えーっと、三年生さんねんせいなので、たった一年いちねんかんではありますが、よろしくおねがいします!名前なまえは、たちばな 一姫いつきです。よ、よろしくおねがいします!」


 美蘭みらん勝手かって想像そうぞうした、一姫いつきというおんなてきた。

 毅彦たけひこ一瞬いっしゅんヒヤリとしたが、それは一姫いつきというおんなてきたからではない。

 そもそも美蘭みらん想像そうぞうじょうおんな名前なまえなんか毅彦たけひこるはずないのだ。

 では何故なぜヒヤリとしたかとうと、

 「(あれ?あのひとなん武術ぶじゅつやってるね。)」

 毅彦たけひこ武術家ぶじゅつかかんがそう直感ちょっかんしたからだった。


 

 

 

 

 


 

 

  

 




 

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