第12話 デカ犬をぶっ殺す

 妖艶ようえん可憐かれん美少女びしょうじょである。

 身長しんちょうひゃく五七ごじゅうななセンチ、体重たいじゅう四三よんじゅうさんキロとバランスがい。

 むねはわりとおおきく、腰周こしまわりはほそい。

 しりかたちく、あしながい。

 はだ色白いろじろ

 抜群ばつぐんのプロポーションであるこの美少女びしょうじょは、みちあるけば人々ひとびと男女だんじょわずいてしまう。

 それほどととのった容姿ようしぬしだ。

 当然とうぜん顔立かおだちもうつくしい。

 綺麗きれいをしている。

 若干じゃっかんつりするどつきではあるが、ひとみおおきく、どこかやさしさをびただ。

 はな綺麗きれい

 とおった鼻筋はなすじをしている。

 くちびる綺麗きれい

 うるわしく瑞々みずみずしいくちびる

 かみ綺麗きれい

 つややかな黒髪くろかみロングヘアー。 

 容姿ようしだけをるならば、妖艶ようえん色気いろけがあり、魅力的みりょくてきぎるため近付ちかづことすらおそおおいといった印象いんしょういだくだろう。

 しかし、そのあかるく可愛かわいらしい性格せいかくが、この美少女びしょうじょ可憐かれん雰囲気ふんいきまとわせている。

 ゆえまわりのひとからの人気にんきたかく、おとこにモテる。

 その性格せいかくというのは、おとこにモテるためにわざとえんじているわけではなく、あかるい性格せいかくなのだ。

 あざとさの欠片かけらい。

 あかるくて可愛かわいらしい。

 いろっぽい容姿ようしからは想像そうぞう出来できない性格せいかくであり、その外見がいけん中身なかみのギャップが、この美少女びしょうじょ一番いちばん魅力みりょくなのだろう。

 それが、高麗澤こまざわ 美蘭みらんという、現在げんざい十五じゅうごさい少女しょうじょだ。

 今年ことし五月ごかつ五日いつか十六じゅうろくさいになる。


 おさなころから『可愛かわいい』、『綺麗きれい』とわれつづけた。

 中学ちゅうがく時代じだい告白こくはくされた回数かいすうせんえる。

 そんな最高さいこう美少女びしょうじょ

 

 その妖艶ようえん可憐かれん最高さいこう美少女びしょうじょが、いまブチれている。

 その表情ひょうじょうには、妖艶ようえんさと可憐かれんさの欠片かけらい。

 凶悪きょうあくかおつきになっている。

 

 「なんだぁ〜?テメェはぁ!!」

 悪鬼あっき羅刹らせつごと表情ひょうじょうでその美少女びしょうじょ高麗澤こまざわ 美蘭みらんは、対峙たいじしている相手あいてった。


 ここは青木あおきがはら樹海じゅかい

 かの有名ゆうめい富士ふじ樹海じゅかいである。

 美蘭みらんたち六人ろくにん男女だんじょ高校生こうこうせいは、クラスメートの和剣わつるぎ 寧子しずねさがしに神奈川かながわけん藤沢市ふじさわしからこんなところまでていた。

 ここが自殺じさつスポットとして有名ゆうめいだからである。


 そしてこの青木あおきがはら樹海じゅかい樹海じゅかいゆえ自然しぜんゆたかであり動物どうぶつおおい。

 いま美蘭みらんがガンくれてる相手あいては、巨大きょだいひぐまだ。

 体長たいちょう三百さんびゃくセンチをるぐらい。

 おもさは約四百よんひゃっキロ。

 ひぐまなかでもちょう大型おおがた

 

 大正たいしょう時代じだい北海道ほっかいどうひぐまひと七人ななにんころした、あの『三毛別さんけべつひぐま事件』のよう大型おおがたひぐま

 当時とうじひぐま射殺しゃさつ

 つまり武器ぶきにより制圧せいあつしたが、美蘭みらんにはそんな武器ぶきい。


 しかし美蘭みらんおくしている様子ようす微塵みじんい。

 むしふさがれていかくるっているようだ。

 

 「オレおれゃクラスメートさがしにてんだよ。邪魔じゃますんならブチころすぞでけぇいぬが!!」

 美蘭みらんひぐまかってった。

 

 「おい、アイツひぐまこといぬっつったぞ!」

 善波ぜんば 兵庫之助ひょうごのすけった。


 美蘭みらん容姿ようし淡麗たんれい性格せいかく完璧かんぺき美少女びしょうじょかとおもいきや、そのあたまわるい。

 とてもわるい。

 はっきりって馬鹿ばかである。


 「あの馬鹿ばかにはこわいもんがねーのか!?」

 池谷いけたに 葉月はづきった。


 「ってうか、なんひぐまがこんなところるんだよ!北海道ほっかいどうにしかないはずだろ!?」

 兵庫之助ひょうごのすけった。

 

 その言葉ことばたいし、恋人こいびと梶原かじわら アリスがう。

 「そりゃあ、あれでしょ。飛行機ひこうきにでもってきたんでしょ。」

 「んなわけねーだろ!」


 「みんな!かげにでもかくれてて!!」

 美蘭みらん自分じぶんすこうしろに五人ごにんさけんだ。


 「って、ちょ、ちょー!美蘭みらんちゃんは!?」

 梶原かじわらアリスが美蘭みらんった。


 「あたしは......」

 美蘭みらんはそうってこぶしほねをベキバキとらしてから、

 「このいぬっころをブッころす!」

 「マジ?......ヤバ......。みんな、えず、かくれるっしょ!」

 アリスがみなかくれるよううながした。


 暗闇くらやみ樹海じゅかいで、各々おのおの足元あしもと注意ちゅういしつついそいでかくれようとするが、途中とちゅう

 「ぅあっ!」

 ボテッ。

 葉月はづきあしつまずかせてコケてしまった。

 それを察知さっちしたひぐま葉月はづきかってはしる。


 が、バキャッ!!

 美蘭みらんがすぐにひぐま正面しょうめんまわみ、右足みぎあし上段じょうだんまわりをはなった。

 ひぐま四足よんそくはしっていたため、美蘭みらんうつくしいあしとどいた。


 「かせねーぞデカいぬ。」

 美蘭みらんった。


 ひぐまがよろけた。

 巨大きょだいひぐまがよろけるほど強烈きょうれつまわりを美蘭みらんてたのだ。

 美蘭みらん容姿ようしからは想像そうぞう出来できない破壊力はかいりょくだ。

 けっして筋肉きんにくしつ身体からだではない。

 女性じょせいらしいなまめかしさをゆうした身体からだ

 しかし、何故なぜつよいのである。


 「テメェ、きてかえれるとおもうなよ?」

 生身なまみ人間にんげんであるくせに美蘭みらんはあくまでも強気つよきであった。

 あきらかに『がわ』の態度たいどである。


 いかくるったひぐま当然とうぜん美蘭みらんおそいかかってた。

 がったひぐまはデカい。

 圧倒的あっとうてきにでかい。

 しかし美蘭みらん何故なぜおそれない。

 ひぐまりょう前足まえあしおおきくげ、一気いっきろすよう美蘭みらんつかかる。

 美蘭みらんあたまからおうとしている。


 しかし美蘭みらんろされるりょう前足まえあし前方ぜんぽう前屈まえかがみになりながらけ、ひぐまふところふかくにはいんだ。

 そのうごきはとんでもないスピードだった。

 常人じょうじんせるうごきではない。


 そして、

 「うんどりゃあああああああ!!!!」

 ひぐま胴体どうたい無数むすう正拳せいけんきをたたんだ。

 うつくしいラインの美蘭みらん身体からだからは想像そうぞう出来できない威力いりょくであった。

 こしがしっかりとはいった見事みごと正拳突せいけんづき。

 しかしだからとってにく分厚ぶあつひぐまにたかだか人間にんげん正拳突せいけんづきがくはずがない。

 だがひぐま甚大じんだいなダメージをけているようだった。

 美蘭みらん常軌じょうきいっしてるのだ。


 正拳突せいけんづきをすくなくとも百発ひゃっぱつらったひぐまおおきくってがった。

 そして、グァバア!!と、多量たりょう吐血とけつをしたのだった。

 どうやら内蔵ないぞうがいくつかブッこわされたらしい。


 ダメージがおおぎるため、ひぐまおもわず四足よんそくけた。

 その瞬間しゅんかん、ズブブッ!

 ひぐま目玉めだま両方りょうほうえぐりられた。

 

 ワガアアアアアアアア!!

 さけらすひぐま

 「わっはっはっはっはっはああ!!」

 わららす狂人きょうじん(美少女びしょうじょ)。

 

 最早もはやすべし。

 圧倒的あっとうてき戦力差せんりょくさせつけられたひぐまがとった最良さいりょう行動こうどうは、逃走とうそうであった。


 とにかくげる。

 視力しりょくうしなっているため大木たいぼくあたまから激突げきとつした。

 さらに臓器ぞうき損傷そんしょうにより吐血とけつまらない。


 「がさん!おとうちゃん直伝じきでん空手からてでブチころしてくれるわあああ!!!」

 

 げるひぐま

 美少女びしょうじょ

 

 猛獣もうじゅう相手あいて人間にんげん一人ひとりではどう足掻あがいても太刀たち出来できない。

 そんな常識じょうしきくつがえ絵面えづらであった。

 

 上手うまはしれないひぐま美蘭みらんいつかれた。

 美蘭みらん自分じぶんしりけてげるひぐまみぎうしあしひだりのローキックをたたんだ。

 ひぐまみぎうしあしの、ひざからしたれた。


 ウッ、ウッ、ガァアッ!!

 もうさけんでるようにすらこえるひぐまさけびを、美蘭みらんかいこと攻撃こうげきつづける。

 それからはもうひどりだった。

 りょう脇腹わきばら何度なんど貫手ぬきてめてほねくだき、りょう前脚まえあしり、うごけなくなったひぐまのう破壊はかいした。

 最後さいごに、

 「メルヘン空手チョップ!!」

 そうってひぐまあたま正面しょうめんから右上みぎうえから左下ひだりしたにかけて手刀しゅとう分断ぶんだんした。

 あたま半分はんぶんち、ボチョッとのうがこぼれた。

 

 ここは弱肉強食じゃくにくきょうしょく世界せかい

 つよやつえらいのだ。

 「おとうちゃん直伝じきでん空手からてまえでは、何者なにものであっても、あるのみ。」

 美蘭みらんはなんかカッコよくめた。

 

 そもそも人間にんげんにおいをぎつけて美蘭みらんたちべようとしたのはひぐまほうだ。

 美蘭みらん正当防衛せいとうぼうえいである。

 ひぐまはまさか自分じぶんより圧倒的あっとうてきちいさい素手すで人間にんげんころされるとはおもってなかっただろう。

 

 ーーーーあるもりなかくまさんに出会であった。

 はないてないもりなかひぐま出会であった。

 ひぐまはスタコラサッサとげたが、おじょうさんはっかけてきた。

 しろ貝殻かいがらちいさなイヤリングをとすどころか、ひぐまから目玉めだまうばってからっかけてきた。

 あらくまさん、どこくの?

 一緒いっしょおどりましょ?

 まだわってないわよ?

 人間にんげんえさにしようとしたつみつぐなってもらうわ。

 ららららーらーらーらーらー♪ららららーらーらーらーらー♪ーーーーー


 「か......っちまった......。」

 兵庫之助ひょうごのすけつぶやいた。


 「みんなー!もう大丈夫だいじょうぶ!デカいぬはあたしが退治たいじしたぜ!」

 美蘭みらん両手りょうてをブンブンりながらった。


 「みらーん!!」

 がばっ。

 葉月はづきはしって美蘭みらんきついた。


 「一時いちじは......どうなることかと......。」

 葉月はづき美蘭みらんむねかおうずめながらった。

 いてるようだ。


 「ふっ、葉月はづき、あたしをくびってもらっちゃぁこまるぜ。あの程度ていどいぬっころにけるとでもおもったのかい?」

 「おもうだろそりゃ!」


 「......なんか、高麗澤こまざわって、色々いろいろとブッんでるよな......。」

 田島たじま けん石田いしだ 壽亜としつぐった。

 

 「ああ。高麗澤こまざわ人類じんるい超越ちょうえつしている。つまり、高麗澤こまざわ自身じしん芸術げいじゅつということだな。」

 「いや、芸術げいじゅつっつうか、怪物かいぶつだろ。」


 「ねぇ兵庫ひょうごっち、ひぐまって素手で《すで》でたおせるんだね。」

 アリスが兵庫之助ひょうごのすけった。


 「いや、普通ふつう出来できねーから。あのおんな異常いじょうなだけだから。」

 兵庫之助ひょうごのすけほおきつらせてこたえた。


 アリスがおもしたようう。

 「そうえばさ、和剣わつるぎちゃんないね。」

 「おれ最初さいしょっからわけねーとおもってたけどな!」

 「ん〜、じゃあどこでんでるんだろ......。」

 「んでること前提ぜんていはなすなよ。」

 アリスと兵庫之助ひょうごのすけ恋人こいびと同士どうしだが、アリスがボケで兵庫之助ひょうごのすけがツッコミのおわらいコンビにもえる。


 兵庫之助ひょうごのすけ羆殺ひぐまごろしのほうあるき、ひぐまごろしにかってう。

 「高麗澤こまざわぁ、和剣わつるぎさんねーよ。もうくらだし、かえろうぜ?」

 「そうねぇ、まったく、一体いったいどこでんでるのやら......。」

 「おれ彼女かのじょおなことってるぞおまえ。」


 あたりはくらだしあぶないので寧子しずね捜索そうさく中断ちゅうだんしてかえことにした。


 「どこにっちゃったのかねぇ?」

 樹海じゅかいからそとかってみんなあるいてるときに葉月はづきった。


 「明日あした納沙布のさっぷみさきにでもってみるか。」

 壽亜としつぐった。

 「馬鹿野郎ばかやろうくわけねーだろ。」

 兵庫之助ひょうごのすけった。

 「でもいぞ、納沙布のさっぷみさき日本にっぽんではどこよりもはや朝日あさひることが出来できるんだぜ?」

 田島たじま けんよこから口出くちだししてきた。

 「おめぇったことあんのかよ!」

 兵庫之助ひょうごのすけった。


 六人ろくにんでワイワイ無駄話むだばなしをしながら青木あおきヶ原がはら自然しぜん歩道ほどうあるき、国道こくどう沿いの駐車場ちゅうしゃじょうまでてきた。

 そこでは梶原かじわら アリスの実家じっかのレストランが所有しょゆうする送迎そうげいバスがっていた。


 この馬鹿ばか六人ろくにん青木あおきがはら樹海じゅかいまでこの送迎そうげいバスにせてもらってたのだ。


 「おれ、ちょっとトイレってくる。」

 兵庫之助ひょうごのすけがそうって、公衆こうしゅうトイレへと小走こばしりでかった。

 ほか五人ごにんはバスのなかはいった。


 運転手うんてんしゅおんながアリスにはなける。

 「お目当めあてのものつかりましたか?」

 「うんにゃ、つからんかったわ。ああ、でもでっかいくまさんぶっころしたよ。」

 「で、でっかいくまさんをころしたんですか?お嬢様おじょうさまが?」

 「いやいや、あたしじゃなくってさ、そこの美人びじんが。」

 そうって、アリスは美蘭みらん指差ゆびさした。


 「んが?」

 美蘭みらんはなをほじりながら反応はんのうした。

 美蘭みらん運転手うんてんしゅおんなは、

 「............そ、そうですか......。」

 とった。


 「にしてもさぁ、和剣わつるぎさん、本当ほんとうにどこにっちゃったのかね。案外あんがい、あたしらが演劇部えんげきぶ衣装いしょうかえしにってるあいだだれかとあそびにってたりしてね。」

 葉月はづきった。

 すると壽亜としつぐが、

 「それはいだろう。ぼくらはそれこそ芸術的げいじゅつてき短時間たんじかんもどってたんだ。そのあいだにどこかへくなど、芸術的げいじゅつてきかんがえて無理むりだ。」

 「おまえさんのう『芸術的げいじゅつてき』の定義ていぎなんじゃ?」

 葉月はづきった。

 「それに、和剣わつるぎさんがどこかへあそびにってたとしたら、ぼくらはいままでなんのために行動こうどうしていたんだ?まるでぼくらがただの馬鹿ばか間抜まぬ野郎やろうどもじゃないか。」

 壽亜としつぐった。

 「ま、いいじゃんいいじゃん。明日あした学校がっこうだし、はやいとこかえろ。」

 アリスが座席ざせきびをしながらった。


 葉月はづき仮説かせつたっていた。

 和剣わつるぎ 寧子しずね美蘭みらんたち六人ろくにんがラッパーの衣装いしょう(美蘭みらんのみピエロの衣装いしょう)をかえしにっているあいだ土田つちだ 敏幸としゆきたちとボーリングにっていた。

 つまり、コイツらは壽亜としつぐようにただの馬鹿ばか間抜まぬ野郎やろうどもというわけだ。


 「では皆様みなさま、おわすものはございませんか?」

 運転手うんてんしゅおんなうと、

 「「「ないでーす!」」」

 とみんなこたえた。


 バスは出発しゅっぱつした。

 全部ぜんぶ十二じゅうににんれるバスは神奈川かながわけんかってはしる。

 現在げんざい時刻じこくよるじゅうまえ

 日付ひづけわるころには各々おのおのいえきそうだ。


 「おい............まだおれが......ってないんだが?............」

 

 公衆こうしゅうトイレからてきた兵庫之助ひょうごのすけつぶやいた。

 

 


 


 

 

 


 


 


 

 


 




 

  

   


 

 

 


 


 

 

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