第10話 ボーリング

 和剣わつるぎ 寧子しずねはボーリングをやっていた。

 しかも、寧子しずねが趣味で書いていた小説のノートを面白がって取り上げた奴らと一緒に。

 一体彼らに何があったのか.........。


 ときは馬鹿な男女六人が衣装を演劇部に返しに行っていたとこまでさかのぼる。


 馬鹿な男女(高麗こまざわ 美蘭みらん達。)が寧子しずねの前から姿を消した直後。

 

 寧子しずねはしばらく美蘭みらん達を待っていた。

 しかし、寧子しずねがその場にとどまっていると、やって来たのは茶髪のチャラ系男子の土田つちだ 敏幸としゆき、茶髪ギャルの外神とがみ なぎさ、そして黒髪セミロングの菅沼すがぬま ひろしだった。


 三人ともどこか浮かない顔をしている。

 寧子しずねの前まで来て、ノートを寧子しずねに差し出しながら土田つちだ 敏幸としゆきが言う。

 「和剣わつるぎさん、さっきはからかって、ごめんなさい。これ、返すよ。」

 「え、あ、うん。.........別に、返してもらえれば.........。」


 寧子しずねがノートを掴んだが、敏幸としゆきはなかなかノートを放してくれない。


 「あ、あの.........。」

 何が何だかわからない寧子しずね

 ふと、寧子しずね敏幸としゆきの顔を見ると、敏幸としゆきはめっちゃ泣いてた。

 敏幸としゆきだけではなく、外神とがみ なぎさも、菅沼すがぬま ひろしもだ。


 「こ、これ、.........和剣わつるぎさん、この小説、さ、最高だよ!」 

 言葉に詰まりながら敏幸としゆきが言った。


 「.........え?」

 寧子しずねは驚いた。

 まさか自分が趣味で書いていた小説が他人を感動させられるなんて夢にも思わなかったのだ。


 敏幸としゆきは更に言う。

 「あのさ、俺の親父おやじ、出版社の社長で、俺も仕事手伝う事があるんだけど、この小説持ってっちゃダメかな?親父に読ませたいんだよ。」

 「わ、わたしの小説を?」

 「うん!頼むよ!俺こんなすげーの見たこと無い!」

 「でもそれ、まだ未完成だよ。」

 「え!?」

 「まだいろいろ書き足したい場面があるの。」

 「じゃあさあ、それについてゆっくり話さない?俺達これからボーリング行くんだ。一緒に行こうぜ。」

 「え?わたしも、いいの?」


 すると、外神とがみ なぎさが、

 「いいに決まってんじゃん!っていうか、うちも和剣わつるぎさんの小説の話聞きたい!」


 菅沼すがぬま ひろしも、

 「俺もだよ。小説なんか読んだこと無かったけどさあ、すげぇ泣いた。」


 寧子しずねは少し嬉しそうに言う。

 「じゃ、じゃあご一緒させてもらおっかな.........。」

 「よっしゃ!決まり!」

 敏幸としゆきが言った。

 こうして、四人はボーリング場へと向かったのだ。


 高麗こまざわ 美蘭みらん達が寧子しずねの居た場所に戻って来たのは、この数分後だった。



 敏幸としゆき達が向かったボーリング場は学校最寄り駅のしらす台駅から電車で二つ目の善蔵ぜんぞう駅にある。

 開業七十年ではあるが、老朽化していた建物を壊し、今年に入って新しい建物が出来たため、ボーリング場としては新しい。


 このボーリング場、地上六階だてであり、一階から三階までがボーリングのレーン。四階から六階までが客室となっており、宿泊が出来る様になっている。


 「新しくなってから来たのは初めてだけど、なんかすごい所になっちゃったな。」

 菅沼すがぬま ひろしが言った。


 「まあいいさ、始めよう!もし和剣わつるぎさんが居なくてもこのメンバーで来るのは初めてだ。」

 外神とがみ なぎさが右腕を振り上げる様にグルグル回しながら言った。


 四人は、シューズを借りてレーンへと向かって行った。


 「ボーリング、わたし、久しぶり。」

 寧子しずねが少し嬉しそうに言った。

 投げる順番はひろしなぎさ敏幸としゆき寧子しずねの順だ。

 

 ひろしが金色で十二ポンドのマイボールを右手に持って構えながら言う。

 「これより、黄金おうごん伝説でんせつが始まる。」

 「早くしろ金玉きんたま野郎!」


 敏幸としゆきがヤジを飛ばした。

 「金玉って言うな!」


 そしてひろしはボールを後方に振り上げ、真っ直ぐに転がす。


 「ちょりゃああ!!」 

 ボールは勢い良く斜め左に転がり、ガタン!と、ガターに落ちた。


 「はっはっはっは!!何だそりゃあ!?使えねー金玉だなぁ!」

 敏幸としゆきなぎさも爆笑していた。


 「う、う、うるせー!まだもう一投いっとうある!見てろよ、俺のスーパートルネードを!」

 そう言って、こんどはボールに空いている三つ穴に指を入れず、両手でボールを持った。

 このとき、右手はボールの下側、左手はボールの上側だ。

 その状態でボールを後方に振り上げ、今度は左回転をさせる様に投げる。


 「ちょりゃあああ!!!」

 転がるボールは見事に左回転をしながら、ガタン!と、ガターに落ちた。


 「なんかさあ、マイボール持ってる奴のレベルじゃねーよお前!」

 敏幸としゆきが笑いながら言った。


 「うるせー!今のは練習だ練習!」

 ひろしは悔しそうに言った。


 「次はうちだ!どけや下手くそ。」

 外神とがみ なぎさひろしに言った。

 なぎさは9ポンドのボールを右手で持ち、


 「どりゃああ!!」

 と、真ん中を狙って投げた。

 投げ方は普通だ。

 ガコン!!と、ボールはピンを七本倒した。

 だが、

 「んなあ!!スプリットだ糞が!」

 そう。

 残り三本のうち二本が左側、一本が右側に分かれてしまったのだ。

 そこでなぎさは二本を取る事にした。


 「どりゃあああ!!!」

 掛け声と共にボールは綺麗に転がっていく。

 しかし、綺麗に真ん中へと転がったため両側のピンには当たらず、何もないど真ん中を突き抜けて行った。


 「.........。」

 投げた格好のままなぎさは硬直していた。

 ひろし敏幸としゆきは顔を伏せてプルプル震えていた。

 二人とも笑っているのだ。

 しかしあまりにも美しくぐにボールが突き進んだため声をあげて笑うのはなんか悪い。

 けれども可笑おかしくてしょうがない。

 二人はそんな精神状態だった。


 「つぎどうぞ。」

 何事も無かったかの様に席に戻ってくるなぎさ

 その表情は、死んだ魚の目をしていた。


 「よ、よし、次は俺だな。」

 敏幸としゆきが腰を上げた。

 そしてボールを選んで来たのだ。


 「お前らとは頭の出来が違うって事を思い知らせてやるぜ。」

 敏幸としゆきは自信満々に言った。


 「お前、正気か?それは正気なのか?」

 ひろし戦慄せんりつしながら言った。


 「これなら絶対外さねー!!」

 敏幸としゆきはやはり自信満々だ。

 それもそのはず。

 敏幸としゆきはボールと共にボール用の滑り台を持ってきたのだ。

 子供が使うアレである。

 ぞうさんのデザインのやつだ。


 敏幸としゆきは滑り台の上部にあるくぼみにボールをセットした。

 そして、

 「でゃりゃああああ!!!」

 と、右手でボールに掌底しょうてい打ちをかました。

 が、ボールはいきなり滑り台のコースから外れて左側に落ち、そのままガタン!とガターに落ちた。


 「.............................................。」

 固まる敏幸としゆき

 笑顔のぞうさん。


 「.........お前あれだ。.........死んだ方がいいわ。」

 ひろしが冷めた表情で言った。


 「まだだ!!まだ二投目がある!!」

 敏幸としゆきはポジティブだった。

 またしてもぞうさんにボールをセットした。そして、

 「わっちょおおおおお!!!」

 と、今度は両手でボールに掌底しょうてい打ちをかました。

 だが、変な回転がかかってしまい、ガタン!と、左側のガターに落ちた。 


 「お前はもう死んでいる.........。」

 ひろしは思わずどこかで聞いたことのある台詞せりふを発してしまった。

 そしてぞうさんは笑顔だ。


 敏幸としゆきは燃え尽きて全身が石灰でも被ったかの様にしろになってしまった。


 そして、いよいよ和剣わつるぎ 寧子しずねの順番がまわって来た。

 寧子しずねは静かに立ち上がり、十号のボールを構えた。

 しかし、ボールに空いている穴に指は入っていない。

 寧子しずねは右手でボールの下を持ち、左手でボールの上を支える様にして己の後ろにボールを一旦いったん振り、レーンの右端みぎはしに向かってボールを転がした。


 右側のガターに落ちるギリギリのところでボールに不思議な回転がかかり、右から左にボールがカーブをして見事にピン十本を倒した。


 ストライクである。


 「「「!!!!」」」


 寧子しずねを除く三人は驚愕きょうがくした。

 しかし、とうの本人は、

 「今のは失敗.........。」

 納得いってない感じだった。



 続く!!

  



 


 

 

 

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