第9話 自害を止めろ!

 どうにか演劇部にバレずに衣装を返したラッパー達(一人ひとりは大道芸人)は、昇降口から靴に履き替えて和剣わつるぎ寧子しずねを改めて遊びに誘おうとしていた。


 が、寧子しずねは既に居なかった。

 金髪白人ハーフの男子、善波ぜんば兵庫之助ひょうごのすけが言う。

 「.........誰か、和剣わつるぎさんに待ってる様に言ったか?」

 「恐らく、誰も言ってないわな。」

 ツインテールのちっちゃい女の子、池谷いけたに 葉月はづきが答えた。


 「じゃぁ、俺達は一体、何をやっていたんだ?」

 黒髪真ん中分けで少し長い髪の毛の男子、田島たじまけんが言った。


 「何って、僕達はラップを歌ったじゃないか!」

 黒髪眼鏡の石田いしだ壽亜としつぐが言った。


 「いや正直、はじさらしただけだから!」

 「そんなことは無い!僕はあの瞬間、感動したんだ!五人で造り上げた芸術が、こんなにも美しいとは思わなかった!こんなこと、その辺の奴らには真似まね出来まい!」

 「誰もやらねーよ!やろうとも思わねーよ!」


 ここで、高麗こまざわ美蘭みらんがまともな事を言う。

 「和剣わつるぎさん、どこへ行っちまったんかな.........?」

 「「「「..................。」」」」


 そしてやはり美蘭みらんが恐ろしい事を言う。

 「まさか.........自害?」

 「「「「!!!!!」」」」

 「そんな.........僕達のラップが.........和剣わつるぎさんを自害に追い込んでしまったと言うのか!?」

 壽亜としつぐが頭を抱えながら言った。


 「ラップは関係ねーだろ!!」

 兵庫之助ひょうごのすけが言った。

 「とにかく、マジで自害しちゃったらシャレになんないし.........探そうよ!」

 金髪白人ハーフの女子、梶原かじわらアリスが言った。


 「さっきから『自害』『自害』言ってっけど、分かりづらいから『自殺』って言えよ!」

 けんが言った。


 こうして、和剣わつるぎ寧子しずねの捜索が開始された。



 「何としても和剣わつるぎさんの自害を止めねば!」

 葉月はづきが言った。


 「けどよぉ、どこから捜す?」

 兵庫之助ひょうごのすけが腕を組んで言った。


 「やはり、樹海でしょうね。」

 美蘭みらんが言った。


 「「「「樹海!!」」」」

 美蘭みらんを除く全員が言った。


 「この辺だと、しらす台公園に樹海があるよ。まずはそこから攻めよう。」

 美蘭みらんが提案した。


 「樹海ではないけど、木が生い茂ってる感じのところはあったね。」

 葉月はづきが言った。


 一行いっこうはしらす台公園に到着した。

 学校から徒歩十五分程度の距離にある大きめの公園だ。

 この公園は大きく三つの区画に別れている。

 入り口から見て左の区画は子供が遊ぶ遊具が沢山あり、中央の区画はベンチや自動販売機、そしてトイレがあり、ベンチでくつろぐのは勿論もちろん、走り回って遊んだりできる。

 そして右の区画は木々の生い茂る丘の様になっており、夏でも日光を避けてくつろげる。

 ここに遊具は無いがベンチはいくつかあり、完全に休憩専用というべき場である。

 美蘭みらん達はそこに用があるのだ。

 だが『樹海』と呼ぶには少々大袈裟おおげさだ。

 この木々の生い茂った丘から辺りを見渡せば、公園沿いの道路を車が走っている様子も良く見えるし、道路には人気ひとけが多く、道路からこの丘を見ても木々の隙間から中の様子が見える程度のものだ。


 こんな所で自殺は考えにくいが、美蘭みらんは小さい脳ミソをフル回転させて言う。

 「埋まってるのさ!!」

 「んな訳ねーだろタコ坊主!!」

 兵庫之助ひょうごのすけに怒鳴られた。


 「だが、まんいちという事もある。この辺りを掘り起こしてみよう。」

 壽亜としつぐが言った。


 「いいねつぐちゃん、温泉でも掘り当てようぜ☆」

 アリスがシャベルを手に取りながら壽亜としつぐに言った。


 「マジかお前ら.........。」

 兵庫之助ひょうごのすけが不安そうに言った。


 ザクザクッ、ザクザクッ、

 取り敢えず周囲の土を勝手に掘り起こし始める高校生達。

 しばらくすると、けんが何かを見つけて手に取り、


 「おお!これは!」

 「どうした?田島たじま。」

 兵庫之助ひょうごのすけが反応した。


 「見ろ!『ぐーたらにんチョコ』の幻のレアカード!『働いたら負け』のカードだ!」


 『働いたら負け』のカード。

 これはトランプ大のカードにパジャマ姿の女の子があぐらをかいて鼻をほじってる絵が描いてある物だ。

 彼らがまだ小学校低学年の頃に流行っていた『ぐーたらにんチョコ』のオマケであり、日本全国に三枚しかないカードを掘り当てたのだ。


 「なんだゴミじゃないか。」

 兵庫之助ひょうごのすけが冷たく言った。


 「五億で売ってくれええ!!」

 芸術家の壽亜としつぐけんに向かって土下座しながら懇願こんがんした。


 「いいだろう。」

 こうして、売買契約は成立した。

 一瞬にしてけんは億万長者になってしまったのだった。


 「アホかテメェら!!」

 兵庫之助ひょうごのすけは激しく叫んだ。


 ザクザクッ、ザクザクッ.........

 「ん?」

 美蘭みらんが何かを見つけた様だ。

 いちメートルほど土を掘ると、人の手が出てきたのだ。


 「みんな!見つけたわ!」

 「「「!!!!」」」

 全員が一斉に美蘭みらんの方に振り向き、駆けつける。


 葉月はづきが、

 「これは、人の手だ!」


 「どうする?警察に連絡すっか。」

 兵庫之助ひょうごのすけか言った。


 「いや、あたしが引っ張り上げる!」

 美蘭みらんはそう言って、土の表面に出てきた手を右手で掴む。

 この土から出てきた手は右手だろう。故に握手する様に掴んだ。


 「おい!掘り起こすのは警察に任せようぜ!」

 兵庫之助ひょうごのすけ美蘭みらんに言ったが、


 「よっこらぁああ!!!」

 ズドドドド!!

 美蘭みらんは片手で引っ張りあげてしまった。 

 

 その正体は、

 「なんだ、ハズレか。」

 美蘭みらんは残念そうに言った。

 美蘭みらんが引き上げたのは、ハゲたオッサンの遺体だったのだ。


 兵庫之助ひょうごのすけが、

 「おい、どうすんだ?その人。」

 

 すると、美蘭は、ポイッと、元の穴っぽこに落とした。

 「また埋めとくわ。」

 美蘭みらんはそう言って、穴っぽこに落としたオッサンに土をかけ始めた。

 それを見た兵庫之助ひょうごのすけが、

 「おい!!いいのか!?それで!」

 「ん?問題無いよ。」


 とりあえずオッサンは埋めた。

 しかし、このあとどこを探しても和剣わつるぎ 寧子しずねの遺体は見つからなかった。


 「おかしいな、どこで死んだのかな......?」

 美蘭みらんが言った。


 「死んだ事を前提にするな!」

 兵庫之助ひょうごのすけ美蘭みらんに言った。


 一方、美蘭みらん達が捜している和剣わつるぎ 寧子しずねはどこにいるのかと言うと.........。


 バコバコーン!!


 「和剣わつるぎさんすげええええ!!ターキーだぜ!!」

 寧子しずねが書いた小説のノートを取り上げてからかっていた茶髪のチャラ系男子、土田つちだ 敏幸としゆきが驚きながら叫んだ。


 そう、和剣わつるぎ 寧子しずね土田つちだ 敏幸としゆき外神とがみ なぎさ菅沼すがぬま ひろしの三人と一緒にボーリングをやっていたのだ。


 どうしてこうなったのか.........?



 続く!!


 


 


   


 

 


 


 




 






 

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