第8話 イジメ

 月曜日の放課後、結局、土田つちだ敏幸としゆき外神とがみなぎさ菅沼すがぬまひろしの三人は和剣わつるぎ寧子しずねにノートを返してくれなかった。


 寧子しずねが昇降口を出て校門から出ようとすると、


 「Hey! Yo! Hey! Yo!」

 「そこの道行みちゆくく姉ちゃん今日は一人でどこ行っくのーう!」

 「もし今日一人であるならば」

 「俺らとどっか遊びに行こーう!」

 「鬱憤うっぷん晴らしにさぁ行こーう!」

 「「「Yeah!!」」」


 かっこいいポーズを決めた五人のラッパーが現れた。

 全員同じサングラスを掛けている。

 

 「...........................。」

 寧子しずねおびえているのか、その場で突っ立って黙り込んでしまった。


 その様子を見た男子ラッパーの一人ひとり(金髪の白人ハーフ)が小声で言う。

 「おい、池谷いけたに高麗こまざわの馬鹿はどうした.........?」

 「し、知らないよ。うちだって今めっちゃ困ってんだから.........。」

 女子ラッパー(ミニ女子ツインテール)が言った。


 「やば、この状況めっちゃウケる。来て良かったわ。」

 女子ラッパー二号(金髪白人ハーフ)が言った。


 「うむ。これこそ『芸術的瞬間』というやつだな。」

 男子ラッパー二号(黒髪)が言った。


 「何が『芸術的瞬間』だ、和剣わつるぎさんドン引きじゃねーか。」

 男子ラッパー三号(黒髪ちょい長目ながめ)が言った。


 しばらくポーズを決めたまま五人がだるまさんがころんだの如く硬直していると、五人と寧子じずねの間に割って入る様に大道芸人が一輪車に乗りながらやってきた。

 ジャグリングをしている。

 服装は青と白の縦の太線が入ったピエロが着てるやつ。

 上の服もズボンも青と白の縦の太線だ。

 ピエロメイクをしている。

 鼻の部分は赤い球体ではなく向日葵の花が付いている。

 間抜け過ぎる。

 頭は何故かハゲかつらを着けているが、前髪しか隠しきれておらず、横髪と後ろ髪は隠れてない。

 落武者おちむしゃみたいなピエロであった。


 ジャグリングしているのはラップ。

 料理をレンジで温める時に皿に被せるあれである。

あれをつつのまま五本ジャグリングしている。

 こいつが高麗こまざわ美蘭みらんだ。


 「よー!よー!よー!よー!よーぉおあああああああ!!」


 ゴテッ!!


 一輪車でバランスを崩して顔面から地面に倒れた。


 「失敗しちった!」

 ピエロは立ち上がって自分の右手で自分の後頭部をポンと叩きながら言った。


 「お前は一体何をやっているんだ?」

 男子ラッパー(金髪白人ハーフ)が言った。


 「ん?」

 「『ん?』じゃなくてさ.........。」

 「あんた達こそ、何でそんな馬鹿みたいな格好してるのよ....?なんかダボダボしたパーカー着ちゃってさあ、馬鹿じゃないの?」

 「今のお前にだけは言われたくないな。だいたい、テメェが『全員ラッパーで行くぞ』っつったろうが!」

 「それなのに、ラッパーはあたしだけじゃない。」

 「いやお前だけがラッパーじゃねーから!お前それただの大道芸人だろうが!」

 「違う!ちゃんとラップ持ってるでしょ!?」

 「お前がどこでラッパーという言葉を学んだかは知らないが、俺達のほうが正しいんだよ!お前以外の全員が同じ様な格好してるだろうが!」

 「...........................」

 「...........................」


 他の奴らの格好を見て自分だけがズレてると気付いた美蘭みらんは言う。

 「じゃ、ボウリング行こっか!」

 「球はテメェの脳ミソで問題ねーな?」

 女子ラッパー(ミニ女子ツインテール)が言った。


 いきなり出てきた新キャラの説明も含めて、どういう経緯いきさつで彼らがラッパーの格好をして和剣わつるぎ寧子しずねをナンパしたのかを説明しよう。


 事の発端ほったんは帰りのホームルーム前である。

 腕を組んで脚を組んで座っていた美蘭みらんが右隣の葉月はづきにある提案をしたのだ。


 「葉月はづき、出席番号最後の人がすごい落ち込み方しとるんだけど。」

 「実はうちも気になってたんよ。何か大事な物取られたっぽいじゃん?」

 「何とか元気付けられないかな.........?」

 「じゃあ、一緒にどっか遊びに誘うか!」

 「良い考えね、さすが葉月はづき!」

 「と言うわけで、石田も来いよ!」


 葉月はづきが後ろの席の石田いしだ壽亜としつぐに声を掛けた。


 「俺も良いのか?」

 「おう!どうせならあと三人くらい欲しい。だれか誘うぞ。」

 「分かったよ。」

 美蘭みらんが言った。


 「善波ぜんば、今日は暇?」

 左隣の金髪白人ハーフの善波ぜんばを誘ってみた。


 「いや、今日は彼女とデートだ。すげー微妙な店予約したんだよ。行ったことねーから行ってみようと思って。」

 「そうか。そりゃ残念だ。頭数あたまかずが欲しかっただけど、仕方ないね。」

 「二組の梶原かじわらが面白そうだから来るそうだ。」

 石田いしだ壽亜としつぐが言った。


 「ぬぁにぃ!?俺はそいつとデートする予定なんだが!?」

 善波ぜんば兵庫之助ひょうごのすけが豆鉄砲を食らったはとの顔になって言った。


 ブー、ブー、

 兵庫之助ひょうごのすけの携帯のバイブが鳴った。

 メッセージが来た様だ。

 そこには.........

 『兵庫ひょうごっち、メンゴメンゴ♪︎ちょっと急用できちったから今日はパス!』

 と、彼女の梶原かじわらアリスからメッセージが来たのだ。


 「あいつ彼氏の俺を捨てやがったぞ!!ってか石田、何でお前がアリスのメッセージアド知ってんだよ!?」

 「奴の実家のレストラン、出資者は僕だ。」

 「ええ!?マジ!?どういう事だよ!?」

 「正確には、僕の父親名義だけど、去年から僕が金を出す事にしたんだ。梶原かじわら家と石田いしだ家の繋がりは明治時代までさかのぼる。」

 「な、じゃ、じゃあアリスは石田いしだの言いなりって事か!?」

 「それは無い。そもそもこの出資は石田いしだ家から梶原かじわら家への恩返しに過ぎないんだ。」

 「そ、そっか。今度、詳しく聞かせてくれよ。」

 「勿論だ。彼氏である善波ぜんばには知る義務がある。」


 なんやかんや巻き込まれた兵庫之助ひょうごのすけだったが、

 「田島たじまぁ、お前も行くぞ。」

 兵庫之助ひょうごのすけは後ろの席の友人、田島たじまけんに言った。


 「俺もかよ.........。わかった、行こう。」


 これで頭数あたまかずは揃った。

 あとは寧子しずねをどう誘うかだ。


 今日、寧子しずねは教室の掃除当番の一人だ。

 美蘭みらんは皆に廊下で作戦を説明することにした。


 「にゃは♪︎あたしは三組の人達とは初めましてだねぇ。アリスって呼んでね☆」


 兵庫之助ひょうごのすけの彼女であり、金髪ロングで兵庫之助ひょうごのすけ同様、白人ハーフの梶原かじわらアリス。

 その場のノリで生きてる様な女である。

 身長は一六〇センチ、体重五〇キロでバランスの良い体型であり、目が青く、外ではサングラスをしている事が多い。


 「和剣わつるぎさんがなんか嫌がらせ的な事されてたのは俺も見てたよ。」

 そう言ったのは兵庫之助ひょうごのすけの友人で、彼の後ろの席に座る男、田島たじまけん


 身長一七八センチ、体重六八キロ。

 黒髪真ん中分けで少し長い。ワイシャツのえりぐらいまでの長さがある。


 因みに、石田いしだ壽亜としつぐは身長は一七二センチ、体重六〇キロ。

 自身のアトリエを保有しているあいつだ。


 「突然で悪かったな、梶原かじわら。」

 石田いしだ壽亜としつぐがアリスに言った。


 「ぜーんぜんいいよ♪︎つぐちゃんがどーしてもって言うから断れないじゃん?」

 「おい、僕は『どうしても』とは言ってないぞ。」

 「そぉだっけ?ま、いいや。なんか面白そうじゃん。」


 兵庫之助ひょうごのすけが呆れた様子で言う。

 「なぁアリス、俺とデートする予定だったろう?」

 「だからぁ、メンゴって言ったじゃん。てか、これから一緒に行くんだから良くね?」

 「ま、まあ良いけどよぉ.........。」


 取り敢えず仲間が出来たところで、美蘭みらんが話し始める。

 「集まってくれてありがとう。大体の概要がいようは聞いてると思うけど、要は和剣わつるぎさんと遊びに行こうって話よ。」

 「落ち込んでるっぽいから元気付けてやろうぜって話。」

 葉月はづきが言った。


 「今日、和剣わつるぎさんは教室の掃除当番。みんな、演劇部から『ラッパー』に見える衣装を借りて来て、ノリノリな感じで下校前の和剣わつるぎさんを連れて行くよ。」

 美蘭みらんが全員に言った。


 「ラッパーの格好する必要ある?」

 兵庫之助ひょうごのすけが言った。


 「野暮やぼってー事言うなよ男の癖にYo!」

 アリスがラッパーっぽいポーズをしながら兵庫之助ひょうごのすけに言った。


 「なかなか芸術的じゃないか。僕は賛成だ。」

 壽亜としつぐが言った。


 「俺も賛成。」

 田島たじまけんも言った。


 「満場一致で賛成ね。じゃ、先に行ってて。あたしうんこしてから行くから。」

 美蘭みらんった。


 「『満場一致』ではない!」

 兵庫之助ひょうごのすけが言った。


 「うるせー!いいから行くぞ!」

 ヒョイッとアリスが兵庫之助ひょうごのすけを無理矢理担いで言った。



 そして、彼らは着替えて現在に至る。

 寧子しずねは当然困惑こんわくしていた。

 そして、兵庫之助があることに気付く。

 「なぁ、この衣装、返しにいかなきゃだめだよなぁ?しかも、これ無許可でかっぱらってきたんだよなぁ?」


 「「「.........」」」


 「返しに行くか。」


 ズダダダダダダダダダ!


 田島たじまけんがそう言った瞬間、全員が一斉に演劇部の部室へと走って行った。


 「..................何だったんだろ、今の.......?」


 寧子しずねはそう言って、一人トボトボ歩いて行った。



 続く!


 


 



 


 





 



 

 


 

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