第7話 先生は恐い

 「もうマジすごかったんだよ!石川いしかわって実は一流芸術家でさ!土曜日の展示会めっちゃ楽しかったわ!」

 葉月はづきが楽しそうに美蘭みらんに言った。


 「あんたの後ろの席の男子がそんなにすげー奴だったとは.........メルヘンね。」

 美蘭みらんが言った。


 「ん?め、めるへん?」


 二人は現在登校中である。


 「でもうらやましいわ。葉月はづきにもうあらたな友達が出来るなんて。」

 美蘭みらんの本音である。


 「え?美蘭みらんだって友達できてたじゃん。」

 「ん?あたしはまだ葉月はづきだけよ。新しい友達なんか一人もできてないよ。」

 「あの、隣の金髪男子は?」

 「あれは友達とは言えねーわ。膝蹴り食らっただけだし。」

 「あ、あいつに膝蹴り食らったんだ。てっきり仲良くなったのかと思ってた。」

 「全然なってねーよ。しゃべんないし。」

 「しゃべれば良いのに。」

 「だってあいつ顔面蒼白がんめんそうはく野郎だよ?なんか気味悪い。」

 「白人に対してそんな事言う奴初めて見たわ。」

 「え?あいつ白人なの?」

 「ハーフだってさ。」

 「ちょっと待てや。なんでお前がそんな事知ってるのよ?」

 「いや、多分知らなかったのお前だけだ。」

 「マジか.........。あたしはただ単に顔色が悪い不健康な奴かと思ってたわ.........。そういう肌の色なのね。」

 「言っとくけど、そういう意味ではお前も顔色悪いよ。」

 「嘘ぉ!?」

 美蘭みらんは驚いた様に言った。


 「いや、でも色白ですごい綺麗だよ。女の子からしたらうらやましいからね。顔色悪いってのは、あくまでも悪い言い方の例えよ。別にあんたの場合は不健康ってわけじゃなくて、ただ綺麗な肌ってだけだと思うよ。」

 「.........んなら、安心だけど。」

 「って言うか、あの白人が顔色悪いと思うんならさぁ、あんたの弟も顔色悪いんじゃないの?」

 「は?何言ってんの?殺すよ?」

 「ごめんちゃい。」

 「毅彦たけひこはいいのよ。あの子は美しいの!あたしの宝物なの!」

 「はいはい分かったよ!電車来るよ。」

 「いいや、あんたは分かってない!毅彦たけひこの美しさについていちから教えたるわい!」

 「うるせーっつうの!」


 そんな会話をしながら今日も二人は学校へ行く。

 そして二人が教室に入ると.........。


 「お願い、返して!」

 「良いじゃん、読ませてよ!」

 「ダメ!見せるために書いてる訳じゃ....」

 「俺達がこの小説の評価してやるっつってんだろ!」


 何かちょっとした騒ぎが起きていた。

 黒髪で大分前髪が長く、見た目奥手おくてっぽい女子がチャラい系男子に自分のノートを取り上げられている様だった。 


 「ハハハ!とっしー意地悪すぎー!」

 茶髪のギャル、外神とがみなぎさが面白半分に言った。


 「何言ってんだよ、親切で読んでやるんだっつうの!」

 同じく茶髪のチャラ系男子、土田つちだ敏幸としゆきがへらへら笑いながら言った。


 「土田つちだぁ、次俺に読ませてー。」

 同じクラスで土田つちだ敏幸としゆきの友人、菅沼すがぬまひろしが言った。


 どうやら出席番号三六番の女子生徒、和剣わつるぎ寧子しずねに意地悪している様だった。


 「何かしら?あいつらやっちまうか。」

 そう言いながら美蘭みらんが彼らに近づこうとすると、

 「おら餓鬼がきども!座れ!ホームルーム始めんぞー!」

 三枝さえぐさ先生が教室に来た。


 「はい出席とんぞ!いねー奴いるかー?......宮園みやぞの以外は全員出席と。はい今日も連絡事項は特にありませーん。終わり。」


 速攻でホームルームが終わり、生徒は教室を移動する。和剣わつるぎ寧子しずねは自作の小説を持っていかれて落ち込んでいる様だった。


 「ほら美蘭みらん、行くよ。うちら数学だ。」

 葉月はづきが言った。

 

 「お、おう.........。」

 美蘭みらんは返事をして数学の教室へと向かった。


 数学の先生は木村きむら優子ゆうこという女性の先生。

 男子の視線を一発で釘付けにさせる程のプロポーションの持ち主であり、顔も整っていて美しい。

 教師らしい格好をしておらず、ファスナー付きの長袖シャツにクリーム色の、ミニスカート。


 「いいかテメェら、数学ってのはなあ、すうがくってこった。こんなもん極めたってモテねーからよ、てきとーに、やっときゃ良いのよ。」


 しかし口調は乱暴だ。

 元々男女混合の暴走族の総長だった過去があり、何故なにゆえ数学の教師になったかは不明である。


 「はい、そんじゃ中坊ちゅうぼうんときのおさらいから、まぁ方程式ってやつ?えーっと、教科書の6X+8=56。この問題解ける奴いる?」


 「はい!」


 一人のおそらくガリ勉男子が手を挙げた。


 「いや勝手に分かんじゃねーよ!正解されたらあたしの立場ねーだろーが!ここはお前、かわいく『わかりましぇーん』って言えよ。」


 ハッハッハッハッハ!!

 と、生徒はみんな思わず笑ってしまった。


 「お、良いね。お前らあたしのノリについて来れるじゃねーか。よし、じゃあご褒美にこのあたしが華麗に解いてしんぜよう。」


 優子ゆうこ先生によるよく分かる解説が始まった。

 優子ゆうこ先生は黒板にチョークで書きながら、


 「えー、まずこの6X+8に注目してー、って何で数学の授業なのにアルファベットの勉強しなきゃならんのじゃあ!!!ざけんなコラァ!!」


 .........と言った感じで授業は進んだ。


 「なんかめっちゃ分かりやすかったね。」

 葉月はづきが美蘭に言った。


 「うん、斬新な授業だったわ。」


 次の授業は現代語(国語)。

 自分達の教室に戻っての授業だ。

 授業が始まってすぐに、美蘭みらんは気付いた。


 「(あれ?さっきの根暗ねくら女子に絡んでたやつらが居ない.........。どこ行った?)」


 和剣わつるぎ寧子しずねをからかっていた三人組が見当たらない。

 どうやら授業をサボっている様だ。


 寧子しずねは出席番号三六番。

 このクラスは三六人であるため一番最後の番号である。

 故に寧子しずねの席は教卓から見て一番右奥のはしっこである。


 美蘭みらんはその席の方に顔を向けて寧子しずねの様子を伺う。


 やはり寧子しずねは酷く落ち込んでいる様だった。

 前髪が長いため表情は分からないが、今にも泣き出しそうだ。


 当然だ。あの三人組は寧子しずねとは正反対の性格。

 今時の、ヤンキーではないにしてもちょっとヤンチャな性格の三人。

 最近の言葉でいう陽キャという奴らだ。


 学校内でからかわれるだけでも絶望的なのに、きっとそれだけにとどまらない。

 SNSを使っていろんな人に寧子しずねの小説を公開して、反応を見て面白がったりするに決まってる。


 そういう事を平気でやる奴らだ。

 そんなことをやられている内に学校から自分の居場所がなくなるのだ。

 寧子しずねはそうなってしまうと確信しているのだ。


 その事に美蘭みらんは気付いた様だった。

 だから寧子しずねの様子を気にしていた。しかし、

 「高麗こまざわぁ、授業中に思いっきり余所見よそみするなんて随分ずいぶんいい度胸だなぁ。」


 男の先生だった。

 身長は一八五センチの長身で、金髪スポーツ刈り。

 アメリカ出身のアメリカ人が高校の現代語(国語)の教師をやっている。


 「お褒めの言葉、恐れ入りますわ先生。」

 「褒めてねーよ馬鹿。ったくふてぶてしい野郎だ。じゃあお前、これ、何て読むか分かるか?」


 黒板には『隔てる』と書いてあった。

 中学生で習う誰でも読める字だ。

 それを見て美蘭みらんは言った。


 「先生、こんな中学生でもわかる字の読み方など、無意味に等しいと思うのですが.......?それに、こんな事よりも優先的に解決しなきゃいけない問題があると思いますけど?」

 「ああ?何だ?そりゃ。」

 「例えば、地球温暖化とか。」

 「いま目の前の中学生レベルの問題も解決出来ねー様な奴が地球規模の問題なんか解決出来るわけねーだろタコ!」

 

 クラスの大多数が爆笑した。


 「クッ.........な、ならば、先生は地球が破滅しても宜しいのですか?」

 「お前さぁ、もしかして読めねーんじゃねーの?」

 「んぬっ!!.........は、話をらさないで下さ

 「さっさと答えろ殺すぞこの雌豚めすぶたア!!」


 二人の不毛なやりとりにクラスのみんなはさらに爆笑していた。


 「クッ!!.........わ、わかりました。い、良いでしょう。じゃぁ、もしもあたしが正解したら、五万円払ってもらいますよ!?」

 「じゃもし間違ってたらブッ飛ばすからな?」

 「んぬっ!!.........よ、よし、答えますですわよ!こ、答えは.........。」


 ゴキッ、ベキッ、拳の骨を鳴らす先生。

 やばいやばいやばいやばいと、変な汗をだらだらかく美蘭みらん


 「こ、答えは.........」

 「男らしく覚悟決めろオラァ!」

 



 「か、『カクテル』!」


 「「「だっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」」」


 一同大爆笑だった!!


 「ご、ごめんなさい。分かりません。」


 美蘭みらんは馬鹿である。

 先生は美蘭の席の目の前に立って言う。


 「よし、よく正直に言った。それだけは褒めてやる。」

 「あ、ありがとうござ.........


 バキン!!


 「フギャ!!」


 ズボ!!


 先生のアッパーカットか見事に美蘭みらんあごをとらえた。

 美蘭は座っていた位置から垂直にフッ飛び、天井に頭から深く刺さった。


 「はっはっはっはっは!馬鹿が天井に刺さったぞ!」


 一方、美蘭みらん達の教室の真上の二年生の教室では.........。


 「うわぁ!!なんか、急に地面から女子が生えてきたぞ!!」

 と、一人の女子生徒が言うと、


 「何ぃ!?植物でもないくせに地面から勝手に生えてきおって、許さんぞ!私は許さん!科学的じゃなーい!」


 科学の先生が言った。

 科学の先生は当該の机をどかして、

 「科学の力で成敗してくれるわ!」

 そう言って、


 「『科学パーンチ』!!」


 ゴツン!!


 美蘭みらんの脳天に拳骨げんこつを叩き込んだ。

 科学の力かどうかは分からないが、美蘭はその拳骨げんこつのお陰で垂直落下してもといた椅子に戻る。

 だが、頭にはたんこぶができて、ベロを出しながら目玉をぐるぐる回していた。


 その変な顔にまたクラスメートが笑う。


 「なんだこいつ、見掛けによらず面白女おもしろおんなだぞ!」


 そんな感じで、美蘭みらんは、いや、美蘭みらんだけでなく他の生徒もクラスメートと少しずつ打ち解けていった。


 「(あたしもあんな風に、みんなを楽しませられる人間だったらな.........。)」


 和剣わつるぎ寧子ねねは頭の周りをひよこが飛んでいる状態の美蘭みらんを見ながらそう思っていた。



 続く!



 






 


  


 


 




 



 


 




 


 

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