第13話 護衛人カスミ、楽しんでます!
カスミです! 暗殺者ではなく今は護衛人です!
ネフェル魔帝国なる国で、私が受けたのはお姫様の護衛でした!
宝石のような角を生やした美しいお姫様。本来なら王子様に護られてそうな可憐な女性ですが、今回の護衛は残念! カスミちゃんでした!
ディアナ姫は美しいし可愛らしいし正直男なら惚れてたかも知れませんが、そんな彼女の運命の王子様と結ばれるラブロマンスを妨害できた事は嬉しいと思っています! 醜い嫉妬の権化、私!
はてさて、そんな訳で! なんか結界だかなんだか分からないけどお仕事で国の端っこ辺りに行くディアナ姫を御守りする事になった私!
緊張しつつ護衛するのかと思ったら割と気楽です!
移動は豪華な
竜者を引く竜を操る人が一人、周囲に竜に跨がった護衛の人が二人、割と少人数での移動です。
なんか色々と理由があるとは聞いていたのですが、まぁ私にはあんまり関係のない部分なので忘れました。
竜者の中は緊張しているのかと思いきや、割と緩んだ空気でした。
「……それで脇腹を思いっきり殴ったら『ピィッ!』って変な音がなったんですよ。お前は笛か、ってね。」
「あはは!」
ディアナ姫に話しているのは私の過去のエピソードです。
仕事人間で大したエピソードもなかったのですが、国から出たことのないディアナ姫が外の世界の事を知りたいと言ったので、私の話をしていたところです。
とはいえ、血生臭い暗殺エピソードは当然お話できないし、機密情報が入った話は流石にできないので、血生臭くなくて別に秘密でもない笑えるエピソードとして『面白かったグロリオとの決闘』の話をしていました。
ちなみに、グロリオは私の同期の男暗殺者で、私にやたらと喧嘩を売ってくる愚か者です。毎回ボコボコにしてるのですが、その中で面白いグロリオのやられ方をピックアップしてお話しました。
「…………そして、当たり所が悪かったのか口から卵を吐き出しまして。お前は妖怪かって。」
「うふふ!」
ディアナ姫は結構けらけらと楽しそうに笑っています。
グロリオは割と面白いやられ方をしてくれるお陰で話のネタになって良かったです。初めてあいつに感謝しました。
でも、人がボコられてる話を聞いてけらけら笑えるディアナ姫って割といい性格しているのかも知れません。だって、隣のオニキス将軍ちょっと引いてますもん。これ、割と面白暗殺エピソード話しても受けてたんちゃうか?
というか、オニキス将軍引かせてどうするよ。
せっかく出会った良い感じのエリートイケメンなのに、自らチャンスを遠ざけてどうするんだって。
私は護衛する前に恋がしたいんだっての。
まぁ、そこはこれから格好良いところ見せて、存分に惚れて貰おうかな!
さて、今回ディアナ姫を狙っている"天なんとか"とかいうやつ。
そいつを殺せば私の任務は完了……なんて事になれば楽なんですが、そうはならない理由がございまして。
私のスペシャルな転生特典『何処へ行こうと言うのだね(ムービングマップ)』があればターゲットの元に一っ飛びはできるのです。
"天(以下略)"の顔写真は出回っているので、そいつを見つけてサクッと殺す事はまぁできるのですが、それだとディアナ姫を守る事に繋がらないのです。
なんでも"天"のやつ、取り巻きを連れているようで、そいつを殺せば「護衛編、完!」とはならないようで。私が"天"のところまで行ってる隙にディアナ姫を狙われる可能性もあります。勿論ユリは信頼しているのですが、私が一緒に居た方が確実です。抑止力として私が傍に居ることが大きい、とユリからは聞かされております。
それに、できれば"天"を倒した事は分かりやすくして欲しいとの事。人知れず暗殺とかして欲しくないとの事です。"天"をも撃退できる戦力がネフェルにはあるんだぜ!って証明をしたらそれもまた抑止力になると。
だから、今回私は素直に護衛としてディアナ姫と一緒にいるのです。
実は私の能力、そもそも暗殺向きじゃなくて恋愛用の能力なんですけど、護衛という観点においてはそこまで使えるものじゃなさげなのです。
自分の身を守る分には色々とあるんですけどね。好感度を見て敵意を測るとか。
でも、ディアナ姫とか、他人に対する好感度とかは見えないんですよね。つまり、身を潜めて迫る暗殺者には対処し辛いのです。
強いて言うなら"恋愛百式"ではなく、それなりに暗殺者をやってきたが故の暗殺者の勘くらいしか頼るものがありません。まぁ、敵と相対したらなんとでもなるので、やっぱり姫様の傍に居るのが一番です。
ディアナ姫と楽しく談笑している私の隣で、ユリは何やら堅苦しい表情です。
緊張しているという訳ではなく、周囲を警戒しているのでしょう。多分索敵能力に関してはユリは私よりも上です。今も彼女の能力で周囲を警戒しているのでしょう。いいなぁ、便利な能力を貰って。私が暗殺者として貰った能力なんて周囲一帯を消し炭にするような使えねーやつなのに。暗殺者にいらなさすぎる能力だろ。
「………それで、あまりにも罵られて泣いちゃったんです。あまりにも気の毒だったので流石に涙を拭くためのハンカチを貸してあげたんですけど、しばらく洗ってないカピカピなやつで逆にキレられましたよ。」
「くすくす。」
そろそろグロリオ決闘エピソードの残弾も切れてきたところで竜車が止まりました。もう少し掛かるかと思ったけど、到着したのかな?
「到着しました。姫、こちらへ。」
「はい。」
オニキス将軍に手を引かれ、ディアナ姫が馬車から降ります。
なんかお似合いだよなぁ、この二人。絵になるというか。いや、私もオニキス将軍狙ってるんだけど。でも、悔しいけど華があるんですよね。
そんな事を思いつつ、私とユリも続いて竜車から降ります。
そこは街の前でした。
「此処が目的地か。これで任務は終わりなのか?」
私の言葉を聞いたユリが、小声で言います。
「最初の目的地ですが、終着点ではありません。道中でも結界のメンテナンスがあるんです。」
そういえばそんな事言ってた気がします。やだ、忘れてたわ恥ずかしい。
ディアナ姫が街の方に歩いて行くと、街の人々が歓迎ムードで出迎えました。
おや、ディアナ姫は人気ですね。まぁ、こんだけ可愛ければそらそうか。
「結界のメンテナンスの他にも、国民との交流の目的もあるのでしょう。狙われているのに暢気なものです。」
割とツンツンした事言うなぁユリ。
ディアナ姫の後に続いて歩き出す私達。
ちなみに、ユリは使用人を装う為にメイド服を身につけており、私は兵士と同じ装備を身につけています。まぁ、ゴリッゴリの暗殺者が一緒にいたらおかしいですもんね。
しかし、まぁユリの言う事も分からんでもありません。国民の中に暗殺者が混じっていたら危ないですよね。まぁ、後方で私達が見張ってるので即座に対応はできるのですが。
澄ました笑顔を国民達に振りまくディアナ姫。
私と竜車で話していた時よりもお上品な笑顔でした。私と話してた時はちょい違う笑い方だったんだけどな。あれ、もしかして愛想笑いされてた?
まぁ、グロリオボコボコにする話聞いても引くだけですよね。逆に安心。やっぱりディアナ姫は良い人そうです。
ディアナ姫は街の人々に囲まれつつ、街の中にある石の祠?のようなところに向かいました。祠の石扉を開いて、姫は何やら良く分からないことを始めます。これが結界のメンテナンスなのでしょうか
「結界魔法……大したものですね。魔物をまるで寄せ付けないなんて。応用次第では防御する対象も選べるそうですし。耐久性も気になります。」
「ああ。」
へぇ。結界魔法ってそういう役割なんだ。
ユリが話してくれて助かります。
「ここでコネクションが作れたら、是非とも導入したいですね。」
「ああ。」
生返事するロボットみたいになってる私。
メッセージ送ったら返事してくれるL○NEとか、OKと呼びかければ答えてくれるやつの方が返事にバリエーションありそうです。だって、言う事ないんだもの。
しっかし、ユリは難しい事考えてるな。コネとか考えてるのか。まぁ、王家の人間とコネ作れたら大きいよね。
そんな事を話していると、何やらごちゃごちゃとやったディアナ姫はお仕事を終えたみたいで戻ってきました。
「お待たせしました。」
「いえいえ。今来たところです。」
「あはは。なんですかそれ。」
お待たせしました、に対する返しが思い付かなかったので適当にテンプレート返したけどこれおかしいわ。今来たも何も一緒に来ただろ私。ノリで喋っちゃ駄目だな。ディアナ姫笑ってくれたけど地雷踏むかもしれん。気をつけよ。
ディアナ姫とオニキス将軍、そして私とユリは再び竜車に戻ります。
最初の下車でしたがなんにも起きませんでした。実に平和です。
このまま何も起こらなければ……とかは思いませんけど。とっとと来てとっとと死んでくれたら楽なんですけどね。ダッシュで来いよ"天"。
「カスミ様。またお話してくれませんか?」
「え? ええ。」
早く来てくれ"天"。
私の雑談のネタが切れる前に。
とりあえず、グロリオの残弾が切れたら、里の重役の恥ずかしい話を切ろうかな。これもドン引きされなきゃいいんだけども。
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