第14話 天竜リュウタ、襲来す
俺には前世の記憶がある。
前世の俺は冴えない少年で、ちょっとした事故で呆気なく命を落とした。
そんな俺の前に女神は現れた。
哀れな魂を救済するという女神は、俺の願いを叶えてくれると言った。
前世でずっと夢見ていたこと。
誰よりも強い力を持って、全ての上に立ち、誰からも認められたい。
俺は英雄になりたかった。
女神はそんな俺の願いを叶えてくれると言った。
そして、俺は別世界に生まれ変わった。
女神から特別な力を与えられて。
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"天竜"、それが俺に与えられた異名。
かつて世界を照らした
物心ついた頃には優秀な戦士であった父を超えて、村一番の戦士となっていた。
それも当然のこと、物心ついた頃には俺は転生特典として与えられた能力に目覚め、力の扱いを完全に理解していた。
それは天に立ち、英雄となるべくして与えられた
"勇者特権"と名付けられたこの能力は、文字通りゲームに出てくるような勇者の特権であり、無敵の能力。
この力を使った俺は誰にも負けない。
事実、数多くの偉業を成し遂げ、英雄と呼ばれるまでに登りつめた。
そして今回もまた、俺の新たな偉業が歴史のページに刻まれる事になる。
カリバー王国から俺が受けた依頼はこうだった。
―――悪しきネフェル魔帝国の、魔大帝の娘を抹殺せよ。
ネフェル魔帝国と言えば、魔法の先進国として知られる国だ。
魔大帝と呼ばれるトップは、カリバー王国では"魔王"とも呼ばれ、悪しき魔物として敵視されているという。
確かにネフェル魔帝国の人間は、カリバー王国はじめとした多くの人間とは異なる特徴を持っている。
しかし、俺は別にそいつらを人間ではないとも魔物だとも思わない。
その上で、その依頼を受ける事は別に構わないと思った。
どうやらカリバー王国の侵攻に際して、結界魔法に長けた魔大帝の娘は非常に厄介な存在らしく、その娘が今度進行予定のルートに大規模な結界を展開するらしい。
それを食い止める事がカリバー王国の目的なのだとか。まぁ、国同士の争いなど俺には関係の無いことなのだが。
カリバー王国が正しいとは思わない。ネフェル魔帝国が間違っているとも思わない。
俺は正義の味方じゃない。
正しいから俺が味方するのではない。
俺が
何故なら俺は勇者だから。
勇者の俺はいつだって正しい。
世界はそういう風にできている。
傲慢だと思われるだろうか?
しかし、俺は誰にも咎められた事はない。
何故なら俺が、世界で一番、強いからだ。
あれこれ難しい理屈は要らない。
カリバー王国に魔王の娘を倒してくれと頼まれた。
魔王を倒すのは勇者の役目だろう?
悪しき魔王の国を倒す先駆けが、この俺になるのだ。
それはまさに勇者らしいではないか。
だから俺はネフェル魔帝国を倒すのだ。
「ねぇ、リュウタぁ。まだ着かないのかよぉ。」
不満げに文句を言うのは小柄な赤毛のポニーテール少女。
少しきつめの鋭い目付きだが顔立ちは整っており美少女と言えるだろう。
目付きの通りに少し性格にもきつい部分もあるが、時折優しさも見せる事もある。
魔法使いとしてかなりの実力を秘めており、俺のパーティーに加えてサポートを任せている。
"花火"の異名を持つ魔法使いの少女、名前はラキという。
「馬車とかなかったのかよぉ。歩きでネフェルまで行くとかおかしいって。」
「文句があるなら帰っていいんだぞ。」
ラキを諌めたのは、鎧を身につけた長身長髪の少女。
長身と鎧でがっしりして見えるが、顔立ちはしゅっとした大人びた美人だ。
口うるさく厳しいが、自分にもストイックな女騎士。
俺のパーティーの盾役(と言っても俺を守る事はないのだが)で、後衛のサポート役を守る頼れる仲間だ。
"鉄壁"の異名を持つ騎士、名前はシギンという。
「潜入任務だから目立たないように動く必要があると言っただろう。馬車なんて乗れる訳ないだろう。」
「はぁ? お説教はやめろよな。余計に疲れるわ。」
「私は至極真っ当な事を言って……。」
「け、喧嘩はやめましょうよぉ~……。」
二人を止めるのは僧侶のローブに身を包んだ小柄な青髪三つ編みの少女。
背中を丸めて杖を両手で握り締め、常にびくびくしている見た目通りに気弱な女の子。いつも困った顔をしているものの可愛らしい顔立ちで、ローブで目立たないが実は結構スタイルがいい。
頼りなさげだが実は回復・支援のエキスパートであり、パーティーの後方で全体を支える縁の下の力持ち。
"救世主"と呼ばれた女僧侶、名前はツェリップという。
他にも俺には多くの仲間がいるのだが、今回はネフェル魔帝国に潜入し、魔大帝の娘を討伐する極秘任務。人数を極力絞り、色々な場面で役に立つメンバーを選んできた。
「ラキ。シギン。ツェリップ。悪いな、面倒事に付き合わせて。」
「べ、別に構わないけどさぁ……!」
「リュウタはもっと頼ってくれてもいいんだぞ。」
「お、お誘いいただき光栄ですっ……!」
それぞれの反応で、今回の仕事に文句は無い事を言うメンバー達。
何だかんだ言っても俺を支えてくれる優しい子達なのだ。
俺には唯一の弱点がある。
それは俺が一人しかいない事である。
魔大帝の娘と一対一で戦うのであれば、俺一人でも十分事足りる。
しかし、護衛の力を借りてあの手この手で逃げ果せようとしたのであれば、多少手こずる事になるだろう。
そこで、足りない人手としてこの三人を誘ったのだ。
……というのは建前で、実はお気に入りの三人を連れてきただけではあるのは秘密だ。良いところを見せたいと思って連れてきたのも秘密だ。
普段と少し毛色の違う討伐任務。
しかし、不安など欠片もない。
俺に敗北はない。故に失敗など有り得ない。
俺は新たな伝説の1ページを作る為に、ネフェル魔帝国領へと踏み入った。
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