第6話
マンションを出た2人は表通りをくっつきながら歩いていた。すれ違う人から見れば親子にも見えなくは無いが…それでも子供が抱き合う姿は、親子…と言うよりも、むしろ恋人と言う表現に近いものがあった。
愛菜は車での移動を嫌っていた。彼女を車の側まで連れて行ったら。
「エンジンの音が嫌、車内が狭い、荷物が乗らない、車の屋根の形が嫌い、スピードが出る車はキライ、燃費が悪過ぎる!」
徹底的に彼の趣味を、これ以上ない位に罵倒させて彼の車愛好家へのメンタルを打ちのめさせた。
結果的に歩いて、市役所へと向かう事になった。
スクランブル交差点を渡って、街路樹へと行こうとした時だった。目の前に警察官が居て、彼等の様子を見て、気になって声を掛けて来た。
「失礼ですが…そちらのお嬢さんとは、どう言うご関係でしょうか?」
「え…と、この子は…」
寛が応えようとした時だった。
「彼は私の里親です!」
愛菜が寛の言葉よりも早く答えた。
「何か問題でもありますか?」
真剣な目で愛菜は警察官を見た。
「いえ、そう言う事でしたら構いませんが…」
「ちゃんと、正式な書類もあります。これから一緒に市役所へ行き、申請手続きを済ませる予定です。そのあと転校先の学校にも行く予定です。チョットくっ付いて歩いてだけで職質って、警察官は、本当の親子に対しても、そう迫って来るのですか?むしろ公務員や教職員の方が圧倒的に問題が多いのに、たまたま一緒に外出したら職質って…そんな世の中じゃあ、独身男性を量産させ続けますよ。むしろ男性に産まれたらハズレくじって遠回しに言っている様なじゃない。もっと視野を広げて健全な社会にさせないと、この国の少子化を加速させる行為にもなりかねないですよ」
「失礼しました」
ぐうの音も出ない程、愛菜に打ちのめされた警察官は急いで立ち去った。
(これじゃあ、誰も敵わないな…出来るだけ、彼女の期限を損なわない様にするのが安全だな…)
それ以上に、最初見た容姿端麗のイメージから随分とかけ離れているな…と、寛は感じた。寝顔は可愛いが、一度不機嫌にさせてしまうと収集が収まらない。むしろ、彼女を怒らせてしまうと…どんな行動に出るか分からなかった。
今朝、止めたは良いが、本気で愛菜は裸になろうとした。チラッと寛は愛菜を見た。彼女は「ウフフ」と、楽しそうな笑顔を見せているが、何時何処で癇癪(かんしゃく)を起こすのか分からない。
ある意味ギャルゲーで、選択ボタンを押し間違える様な感じだった。「可愛いね」と、言う言葉も、言うタイミング次第では不機嫌になる事もある。
(独り身が懐かしい…)
まだ一緒に生活して1日だが…一昨日までの日が遥か遠い過去の様に寛は感じられた。
市役所へ行き、手続きの最中、愛菜は物珍しそうに、所内を歩き回っていた。寛は、手続き完了の報告を椅子に座って待っていた。
その時だった「あら、係長さん」と、声を掛けられて振り向くと、同じ会社で働く女性社員の姿があった。
「今日は会社を休んで、ここに来てたのですか?」
「ああ、ちょっとね…」
「珍しいですね。係長さんが、こんな場所にいるなんて」
「まあ、僕も色々とあるからね…」
「そう言えば、社長からの話って何でしたの?ここ最近、良く社長室に行かれる様ですが…」
「他愛無い話ですよ。会社の経営に差し掛かるほどの事では無いです。ちょっと女性を紹介して貰う…とでも言って置きましょうか」
「あら、随分と社長にご贔屓(ひいき)されてますね」
「まあ…個人的には独身主義を貫きたいですけどね」
「そう言えば…係長、何か雰囲気が少し変わりましたね?」
「え…そうですか?」
「ええ、なんて言うか、その甘い香りがしますし…それに、少しキリッとした感じがしますね。何て言うか…そう、まるで恋人でも持った男性みたいな…」
その言葉に彼は内心ドキッとした。
「え…アハハ、そんな風に見えるの?」
寛は愛想笑いをするが、内心的中されていた。その時受付番号の呼び出しがあり、受付へと向かう。
彼は書類をバッグに入れて、女性社員に話を続ける。
「ところで最近仕事はどうなの?」
「まあ…ボチボチッて言ったところかしら?」
そう2人が他愛ない話をして居る時だった。
「寛さん!」
その声が聞こえて、彼はドキッとした振り向くと、愛菜が不機嫌そうな表情で立っていた。
「ねえ、そろそろ行きましょう!」
「え…ああ、そうだね。それじゃあ、またね」
愛菜は無理矢理彼の腕を引っ張る。寛は去り際に女性社員に手を振った。愛菜は去り際に女性社員の方をジロッと睨み付ける。
(え…何、あの子…今私を睨んだの?)
少し呆気に取られながら女性社員は彼等が立ち去った方を眺めていた。
市街地に出た2人は足早に転校先の学校へと歩みを進めている中、寛が愛菜を呼び止める。
「おい、ちょっと、止まれって!」
寛の言葉に愛菜は足を止めた。
「何でそんなに怒るんだよ」
「私以外の女性と仲良くして貰うのはイヤなの!」
「ちょっと、世間話しただけだろう?」
「でも…すごく楽しそうに話をしてたわ!」
「まあ、会社の同僚だからね」
「ふうん…そうかしら?何か鼻の下伸ばしていた様にも見えましたけど?」
愛菜は疑った目で、寛を見ていた。
「ごめんね、学校行った後、帰りにパフェをご馳走するから」
「あんまり甘いの好きじゃないの!て…言うか、私を甘い物で釣ろうとしてるの?」
どう責めればご機嫌許してくれるか、色々と思考を巡らせて寛は愛菜の頭を撫でたりする。
少しは機嫌を許してくれたが、大した効果が無かった彼は、最後の手段として緩徐に言う。
「今夜、いっぱい愛してあげるから…許して」
その言葉に愛菜はトクンッと胸を打たれたらしく、寛の顔をジッと見つめた。
「え、そ…そんな、急にシてくれるなんて…」
モジモジしながら彼女は、俯いて寛から視線を逸らしていた。
「ねえ、いいの?本当に…私とするの…構わない?」
愛菜が突然可愛らしい振る舞いをする。このままヘマを見せずにすれば、彼女を完全に堕とせるけど…ここでボロを見せると収集が付かなくなりそうなので、慎重に寛は行動する事に決めた。
「ああ、約束する。取り敢えず学校に行って手続きを済まそう」
「うん、分かったわ!」
愛菜が機嫌を直してくれたお陰で、何とか収集が治って、2人は手を繋いで学校へと向かった。
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