第7話
愛菜は私立秋雨女子学園と言う小中高一貫制の学校に愛名は転校する事になった。元々、両親が愛菜に同じ学校に入学させていて、その学校が都内にもあったので、今回は転校だけと言う形で手続きが行われた。昨晩、愛菜が転校手続きをする際に、年学期途中での場合の編入試験と言う用紙があり、その練習問題を見た時、寛は驚いた。
「今の小学生って、こんな勉強しているの?」
正直に言って寛は、難易度が高過ぎて問題が一問も解けなかった。
彼は宿題を教えようと思っていたが、問題集を見て、とても自分には付いて行ける自信が無かった。
そんな彼を見た愛名はニッコリと笑いながら…
「大丈夫よ、本当に困った時以外は自分で何とか頑張るから……」
そう言いながら寛を心配させない様に気遣ってくれた。
寛はお嬢様学園へと初めて入る。受付の人に挨拶して、面会室へと案内された。
理事長と学園長が来るまでの間、寛と愛名は上質なソファーに腰を下ろして待っていった。寛は何気なく外を見ると、窓の外はグランドになっていた。グランドには体育の授業で運動している可愛らしい女子生徒達の姿があった。
寛が女子生徒を何気無く見ていると、隣に座っていた愛菜がギュッと彼の腰を抓った。
「痛い、何するんだよ!」
「何ジロジロ、女の子のお尻を追い掛け見ているのよ。スケベ!」
「見ていないよ、ただ……初めての光景だから、珍しいな……と」
「あら、そうだったの?ところで……あっちのセミロングの子、胸が大きくて可愛いわね」
「え、どの子?」
そう返事しなが、寛が思わず振り返った瞬間に愛名は更に寛の腰を抓った。
「ギャアッ!」
「イヤラシイ、やっぱり女の子目当てだったじゃない」
「だから……違うって!」
寛は抓られた腰を撫でながら言うが……彼女には言い訳にしか聞こえなかった。
彼等が面会室で痴話喧嘩していると、部屋に理事長と学園長が入って来て、彼等に転校に着いての話を行う。
理事長は70代過ぎの女性で、学園長は60代位の男性だった。
「貴女の事情は、こちらでも報告済です。大変でしたね。これからはこちらの学園で勉学を励んで下さい」
「取り敢えず、こちらで転校手続きの処理は済ませて置きますが……学園での転校によるクラス分けも有りますので、来週月曜日早朝に学園に来て下さい。その時、詳しくお話私をします」
「分かりました」
愛菜は軽く返事をした。
「他に何か気になることとかはありますか?」
「そうですね、ちょっと、こちらの学園がどうなっているのか知りたいので、構内を見学しても構いませんか?」
「分かりました。では……学園長に案内させて頂きましょう」
そう言って学園長がソファーから立ち、愛菜を連れて一緒に学園内を歩き回る。
「私は、これで失礼します。竹内様は事務室で待機していて構いませんよ」
「あ……はい、分かりました」
寛は、そう言われて理事長と一緒に廊下に出た。理事長は先に何処かへと行ってしまった。
廊下を歩いていた寛は「何処が事務室だ?」っと辺りをキョロキョロしながら歩き回っていた。その時、目の前に女子生徒が1人立っていた。見た目からして愛菜と同じ年頃の初等部の生徒だった。可愛らしい顔で華奢な身体、長く整った美しい黒髪を垂らし、色白で艶やかな肌をしている綺麗な女子生徒だった。寛は一瞬思わず見惚れてしまったが、直ぐに我に返り、事務室を探そうとする。
チラッと彼女を見ると女子生徒はジッとこちらを見つめていた。(変な人と思われているのかな……?)そう思いながら、そのばを去ろうとした時だった。
「もしかして……竹内さんですか?」
「はい?」
寛は思わず振り返って女子生徒を見た。
「え……?何で、君は僕の事を知っているの?」
「ああ、やっぱり竹内寛さんだったのですね!」
彼女は嬉しそうに、彼に飛び着き抱き締める。
「ちょ……ちょっと、一体君は誰なの?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は大野瑠美と言います」
「大野……まさか、今度お見合いする大野美穂さんの関係の子なの?」
「はい、そうです。ちなみに美穂さんは私の叔母に当たります。私の母は大野美希。貴方と同級生だった方です」
「ええ、彼女の娘さんなの」
「はい、母から聞きました。竹内さんが初恋の人だったと……」
「それはそうだけど、何故……君が僕の事を知っているの?」
「叔母から内緒で貴方の写真を見せてもらいました!美穂叔母様の旦那になる方だと聞いて、私も貴方の顔写真をスマホの画像に保存しておいたのです。まさか、学園に来るなんて思っても居なかったです!ところで何故……学園に入れたのですか?」
(今、そこに気付いたの?)
「え……と、これは……ちょっと取引関係の事で、学園に関連した事があってね……まあ、そう言った経緯でこの学園に来ただけなんだよ」
「ふ……ん、そうなのですか……?」
取り敢えず、簡単に誤魔化して、逃げようと思った。
「関連事業って、本来公共施設の場では、事業関同士でのやり取りで行う為、直接施設に立ち入って行う必要は無いかと思いましたが……特別待遇でもされたのですか?それとも何か別の趣旨がお有りだったとか……?」
意外に賢い少女だ……!そう思った寛は立場が危うくなった。下手したら、このまま縁談が無くなり、場合によっては会社も辞めることになりかねない危険性があった。
「こ……これは、その……」
どう切り抜けよう、寛は焦った。瑠美が円らな瞳でジッとこちらを見て居た。
「ん……?」
瑠美が何かに気付き、視線を他に向ける。
「え?」
寛は彼女の視線の方へと目を向けると、そこには愛菜の姿があった。
彼女は寛を見付けるなり駆け足でそちらに向かって走って来た。
「お待ちどうさまー!」
愛菜が寛に飛び付き抱き締める。
「え……?貴女誰なの?」
「ん?そう言う貴女こそ何?」
幼い少女は互いをジッと見つめ合う。気まずい環境になってしまったと感じた寛は、どう対応して良いか分からず迷っていた。そこに学園長が彼女達の間に割り入って来た。
「大野瑠美ちゃん、この子は今度新しく学園に入る子だよ。君と同じ学年の子だ。仲良くしてくれ」
「はい、分かりました。ただ……こちらの方は竹内さんと、どう言う関係なのですか?」
「彼女は両親の不幸で、竹内君が里親になったのだよ」
「なるほど……そう言うことでしたら、私もご理解できますが……」
彼女はチラッと寛を見つめながら「関連事業ね……」と、彼に囁く。
寛はわざと瑠美から視線を逸らした。
そう言っている間に学園内に予鈴が鳴り響いた。
「では、私は失礼します」
彼女は一礼して、その場を立ち去って行く。寛と愛菜は瑠美が立ち去った方を見つめていた。
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