第3話 急加速する妄想時間

 気付くとまた、穴が開くほどの勢いで彼女に見入っている自分に気付き、慌てて、道下の方を向くと、道下も紹介が途中だった事に気付いた様子。


「ミレーユさん、こいつが、いつも話している...」


「浅間山荘さん?」


 悪びれた風もなく、彼女が続けた。

 道下の奴、不快な教え方をしてくたものだ!


「浅間 そう!」


 おかげで、こんな美少女を前に、仏頂面になり、声にも棘を持たせてしまったじゃないか!


 地球人には、この苛立った感情は分かるが、異星人には、伝わっているのだろうか?


 ロボットじゃないのだから、きっと表情に出てしまっている感情くらい分かるだろう。


 それどころか、もしかすると、今の俺の心の声も読まれている心配をしなくてはならないのでは?


浅間 颯あさま そうさんでしたか。ごめんなさい」


 俺の心の声は届いているのかどうなのか分からないが、申し訳なさそうな表情で頭を下げてきたミレーユさん。


「いや、とんでもない!

 よく有る事だから、気にしないで」


 爽やかな印象を持たせようと、道下には使わないような声色を出していた、俺。


 我ながら、バレバレな言動で、道下とて、警戒心を持ってよいはずだが......


 チラッと道下の方を見ると、これほどの美少女を相手に、1週間逢引きを続けた余裕なのか?


 彼女に対する、このあからさまな俺の言動など、全く眼中に無い素振り。


 絶対、道下には何か魂胆が有るに違いない!!


 ......だとすると何なんだ?


 手遅れになる前に、察するんだ、俺!!


 この状況下で、今の俺に思い付くのは......

 当然、ネガティブな路線......


 地球人の血が美味しいという評判を聞き、レージュ星から、UFOに乗って遥々やって来たのかも知れない。


 きっと、この公園内のどこかに、そのUFOを隠しているのだが......


 たまたま最初に遭遇した地球人こそ、道下で、毎日献血の如くグビグビと血を吸い取られていたが、生存し続けるには、もう限界値まで達していた。

 それで、代わりの生け贄として俺を連れて来たのだろう!


 嗚呼、こんな美しい顔立ちをしていながら、ミレーユさんは、恐ろしくも野蛮な吸血鬼だったとは!


 悩まし過ぎる~!


 俺は、この美しい人に、自分の血を捧げるべきなのだろうか?


 道下は、どれほどの血液を彼女に差し出したのだろう?


 1週間前と比べ、道下は痩せこけただろうか?


 いや、そうは全く見えない!

 むしろ、血色良くなって意気揚々としているではないか!

 

 これぞ、恋する男の成せる技だろうか?

 血を貢いでも、ものともせず、健全な状態を装い続けている!

 道下の事だ、彼女の為ならば、喜んで、その血を差し出し続けていたのだろう!

 俺が思っていたよりずっと、男らしい奴だったんだな~!

 

 ......などと、道下に対して、いつまでも感心している場合ではなかろう!

 

 道下は、ここまで、彼女に対し、身も心も限界まで、そんな様子も見せずに血を捧げ続けていた!

 そんな道下の後釜として、俺は、どれだけの量の血を吸い取られる事になるのだろう?


 道下 > 俺 


 それは、断じてプライドが許さない!!


 道下 ≦ 俺


 いや


 道下 < 俺 だ!!


 これで憶測世界?での覚悟は出来た!

 

 彼女の目的が何であれ、もう、今の俺は怖いもの無しだ!!


「ここでの事は、秘密という事で、浅間にも、協力してもらいたい」


 道下が、少し躊躇いながら、そう切り出す事は分かっていた!

 そりゃあ、口外したら、終わってしまう!


 なんせ、彼女がこれからしようとしているのは、許させるはずもない吸血行為なのだから!

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