第27話

 綱も呼ばれて、遊びの仲間へ入るのだが、綱の力の強さが裏目に出て、無患子むくろじの実はあっちこっちとあてのないところへ飛んでいく。

「おじさん下手だねえ」と童にも言われ、

「おまえは不器用だなあ。もっと軽く、力を抜いてやるんだよ」と頼光にも言われる。

 綱は恥じ入って、「面目めんぼく次第もございません」と頭を下げた。

「よおし、次に落としたら罰を与えるからな、がんばれよ」

「は、はい」

と言って始めたものの十回ほどで、やはり綱がついた無患子の実が、庭の池に小さな音を立てて沈んでしまった。

 童たちは悲嘆の声をあげ、綱は身を縮める。

「おい、お前たち。皆で綱に罰を与えてやろうではないか」

 頼光は墨と筆を持ってこさせて、それで綱の顔にらくがきをし始めた。しょげていた童たちはこれに加わるや、嬉々として綱の顔を真っ黒にしてしまった。

 邸中の者が笑い出し、行平ゆきひらもつられて笑い声を漏らした。

左馬権頭さまごんのかみ殿のおかげで、気が紛れました。しかし地神の祟りはどうしたら良いものか……」

 深いため息をつく行平に頼光は、

「とりあえず私がその陰陽師を探しましょう」と言い、また綱には同じく陰陽師の安倍晴明を訪ねてみるように命じた。

「ありがとうございます。左馬権頭殿は実にご親切な方ですね」

「いえいえ、事がうまくいかなければ千手様に叱られてしまいますからな。そういえば千手様は、なぜ中納言殿に寺の建立をお命じになったのでしょう。ぜひ中納言殿にやらせたいと、そのように仰せでしたが」

 頼光がたずねれば、行平は「嗚呼ああ」と心当たりがあるようで、

「私が因幡いなばにおりました時のこと。因幡の海沿いに、砂丘がありまして」

と物語りを始める。

「あたり一面、草一本も生えない砂の原です。風が吹くたびに表面の砂がささらと流れて、足跡を消していく。そこに波が打ち寄せるのは、実におもしろき風景でした。ある日、その砂丘を歩いていた時のことです。波と砂の揺れるあわいに、妙なものを見つけました。近づいていって確かめると、なんと一体の立派な観音像が横たわっていたのです」

「まさか」と頼光が笑うと、行平は「まことの話です」と念を押す。

「どういう所以ゆえんかはわかりませんでしたが。かつて西方より、この国に初めて仏の教えが伝わったとき、人々は初めて見る仏の姿に戸惑い、その尊像を打ち砕いて河へ流してしまったそうです。まさかその尊像ではありますまいが、何か宿縁を感じて、寺を建ててお祀りいたしたのです。関白殿下は、その話をお聞きになったのでしょう」

「ははあ、不思議なことがあるものですね。まさか、此度も建立する仏像は、海から拾って来るのですか」

 こう頼光が言うのを聞いて行平は、「そうちょうど良く流れて来るものではありませんよ」と笑った。

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