第24話

 二人はそっと馬を下りて、近くの人家のそばへ来ると、そこへ積んであったわらを借用し、地面へ並べた。

 まず道満どうまん行平ゆきひらのまわりへ藁を積み重ねて、行平の姿を隠すと、しゅを唱えながら藁のまわりを何周もまわり、それが終わると自分も行平とともに藁の中へ入った。

「ええか、もう何も言ったらあかん」

 道満の鬼気迫る様子に、行平は無心に頷いた。

 しばらくすると、おおぜいの足音が近づいてくるのが聞こえた。一行が寺の造営を決めた山の方から、百人ほどの者たちが地を揺らして近づいてくる。行平が息を詰めていると、足音は二人の隠れているところを通りすぎて行ってしまった。

 道満の顔をうかがうと、道満は目をむいて口中で呪を唱えている。すると一旦は通りすぎた足音がまた戻ってきて、行平らの隠れる藁のまわりを取り囲む気配がした。

『二人足りなかったぞ』

 人とは思えぬ太い声がした。

『このあたりで、馬の足音が軽くなった。馬を降りて、逃げたのではないか』

 それは行平と道満のことを話しているに違いなかった。

『とすれば、まだ近くにおるはずだ。探せ、草の根分けても探すのだ』

 大群衆があたりを歩きまわり、二人を探し始める気配がする。藁のすぐ向こう側にその荒い鼻息が聞こえ、行平は魂が抜けるほどおそろしくなった。しかしすぐそばにいるというのに、ふしぎなことに誰も藁をどかして二人を見つける者がない。

『ええい、どこかへ姿を隠したものらしい』

『だが一人も逃すわけにはゆかぬ。臭いは覚えているから、次の三日月には必ず見つけてやろう』

 このように話しあうと、大群衆はやって来た方角へと去っていってしまった。

 この頃にはもう日が暮れて、行平は震える肩を抱きしめていた。

「ちっ、あいつら思うた以上にしつこいな」

 道満の白い目が、暗がりの中で光っている。

「道満様、あれは何なのですか」

 恐怖と寒さで、歯の根も合わない行平がたずねる。

「あれは地神じがみや。自分の庭に寺建てられるんが気に入らんで、追っかけてきたんやろ」

「そんな……。見つかったら、一体どうなるのですか」

 道満は黙って、藁の外へ出た。行平はまだおそろしく思いながら、とにかくも道満のあとをついてゆく。

 徒歩でとぼとぼと帰路をゆくと、川に渡された橋の前に、人だかりができていた。

「おそろしや、おそろしや」

「賊であろうか」

「いや、こんなひどい有様は、鬼に食われたに違いない」

などと人々は口々に言って、念仏など唱える者もある。

 行平が不審に思って人だかりの向こうをのぞきこむと、そこにはむごたらしい人の死体が重なっているのだった。それは皆、行平らとともに寺の造営地を検分に行った僧侶や召使いたちであった。

「あわ、わわ」

 行平は言葉もなく、その場に腰を抜かす。

「見つかったら、こうなるんや」

 近くをさまよっていた馬を引いてきた道満が、吐き捨てるように言った。

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