第23話
「なんともうるわしい景色ではありませんか」
ほとりにてそう感嘆するのは、
「陰陽師殿、関白殿下が造営をお命じになった寺は、このあたりに建てるのはいかがでしょう。陰陽師殿、聞いていますか」
行平がしつこく声をかけると、色黒の頭に
「うっさいわ! 今、真剣に計算しとんねん。だいたいな、わしゃただの陰陽師やないで。天下一の陰陽師・
と、歯抜けた口から唾を飛ばして答えた。
千手関白から新しい寺の造営を命じられた中納言・橘行平は、陰陽師の蘆屋道満や、仏教の僧侶やその他召使いとともに、寺の造営地を選定しているところであった。
「なんでわしがこんなつまらん仕事をせなならんのや。こういうのは、
「陰陽寮は
「ああ、
歯ぎしりする道満に、行平は「それでこの地について、道満様のお見立てはいかがですか」とたずね直した。
「まあ、ええんちゃうか。方角的にもばっちり! ちょっとばかし陰気やけど、ここらの木もぱぱっと片付けたら、すっきりするわい」
「
「えらい急ぐやないか。その前に、ちょっともよおしたわい」
道満は泉に
道中、道満は馬上にありながら、「天下一の陰陽師・蘆屋道満様の活躍知っとるか」と自慢話をしたり、「坊さん方、あんたらシュッとしてんなあ。寺に住んでるっちゅうことはそりゃ、テラスハウスちゅうやつやろ?」などと冗談を言い続けていたが、途中からとつぜん押し黙ってしまった。
他の者たちは道満のおしゃべりに
「どうかされたのですか。いまさら時代考証を気にされているとか……」
と声をかける。
「ちゃうわ、ぼけ。このわしが時代考証なんぞ気にするか。大体、片仮名は
「それはそうですが、あまりやり過ぎると、風情というものがなくなってしまいまする」
「わしはテラスハウスでもライブハウスでも、なんでも言うてやるわい! って、そんなこと言うとる場合ちゃう……」
道満の黒い額には脂汗がにじみ、歯は苦々しく噛み合わせている。
「つけられとる」
「え、誰にですか」
行平が後ろをふり返ろうとするのを、「見るな。見たらおしまいや」と道満が強い口調で止める。行平はにわかにおそろしくなって、青ざめた。
「生きて帰りたかったら、わしの言う通りにするんや。ええな」
こう言われて、行平はおとなしく頷いた。
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