第18話
「
と、場をおさめた。
さて次に、
「東国の流れ者が都に入れば、混乱の元となりまする。帝のお膝元に入れるべきではないかと。その、とはいえ慈悲をかけぬわけにもいかぬでしょうから、適当な地へ住まわせて、そこへ食糧を分けてやるのはいかがでしょうか」
と申し上げた。
続いて
「食糧をいくらか分けたところで、焼け石に水というもの。また五百人もの人間をどこぞの地へ押しつければ、その地の者の生活が成り立たなくなります。面倒を見るのならば、しかるべく住まいと食を十分に与え、都の労働力として役に立たせるのがよいかと」
と落ち着いた声で語る。実資はいまは家に勢いがないものの、その政治的手腕は誰もが認めるところである。
しかしこの意見に
「東国の野蛮人の世話を、どうして見なければならないのだ」
と異議を申した。
この伊周と、中納言
けれどお世辞にも仲が良いとはいえない。むしろ千手関白派と内大臣伊周派として、互いに政敵の関係にあった。その原因は、彼らの父の代の因縁から始まる。
伊周と隆家の父は
そこで台頭したのが、道隆の弟の
伊周は自分を追い抜いた千手関白をひどく恨んでおり、隙あらば彼を陥れて、その座を奪おうとしているという噂もある。
さて伊周は息巻いて、
「都のためにしなければならないことが山とあるのに、野蛮人の面倒を見る道理がどこにあるというのか。その者らは何か都にとって役に立つのか。役にも立たぬ者を、なぜ我らが苦労して、面倒見てやらねばならぬのかわからぬ。それにもし野蛮人を都に入れようものなら、都の風紀と治安が乱れ、おちおち外も出歩けぬようになる。野犬は野で死ぬのが自然というもの。都と帝の治める国のため、毅然と追い返すのがよかろう」
と、強硬に言う。
千手関白は伏していた目をあげて、伊周をまっすぐに見た。細長く鋭いその目を見ると、誰しもが一瞬息を呑んだ。
「野蛮人とな」
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