第17話

 内裏だいり左近衛府さこのえふの陣に、千手関白せんじゅかんぱくはじめ大臣たちが集う。

 右大臣うだいじんの藤原顕光あきみつ内大臣ないだいじんの藤原伊周これちか大納言だいなごんの藤原実資さねすけごん大納言の藤原頼通よりみち中納言ちゅうなごんの藤原隆家たかいえ、そして参議さんぎの藤原行成ゆきなりらである。

 千手関白含め、公卿はみな藤原姓ばかり。短く〝藤氏とうし〟ともいう。互いに実の兄弟や従兄弟、遠からぬ親戚にあたる。なぜこれほどの近親者ばかりなのかというと、彼らの曾祖父・祖父の代に、藤氏が他氏の有力者を退けて、それ以来一族で政の実権を握っているためである。

 さてこのように藤氏一色になれば、一致団結して政も円滑になるかと思いきや、いやはやどうして、今度は藤氏のなかであちらが偉い、こちらが偉いと競い合いが始まる。そんななか、藤氏の中でいま最も勢いのあるのが千手関白と弟の権大納言・頼通の家であり、続いてその従兄弟にあたる内大臣・伊周と中納言・隆家の家であろうか。

 両家の因縁は浅からず、何かと相争うことがあった。

 参議、つまり議長の役目を負う行成が本日の議題を次のように読み上げる。

「東の村同士で争いがあり、焼け出され行き場のない者たちが都に流れてきております。その数、五百ほど。これらの者に対し、どのようにいたすのがよろしいか、各人のご意見をうかがいたいと、帝の仰せでございます」

 このような陣定じんのさだめでは、目下の者から意見を申し上げることになっている。そのためまず中納言の隆家が口を開き、

「今は五百人でも、これからもっと増えるでしょうね。目先の事態に慌てるよりも、まず大本の原因を絶つべきなのでは」

と意見する。

「貴殿の仰せになることは、大味ですな。朝廷の介入で戦はすでに鎮火に向かっておると聞きますが、それ以外にも何か方策がおありになるのか」

 大納言の実資が言う。

「元々は、朝廷の介入が戦の発端ではありませんでしたか。東国の守護に不慣れな者を任じるから、こういう騒ぎが起こるのでは」

 隆家は実資よりふた回りほど年下だが、臆面もなく物申した。

「中納言殿、それは除目じもくに原因があると仰せになりたいのですか」

 こう応えたのは実資ではなく、権大納言の頼通である。頼通は千手関白の実弟で、このなかでは最も年若い。温和な容貌だが、なかなかにはっきり物を言うこともある。

 除目というのは、人事のこと。

「そうは申しませぬ。除目は帝のご判断ですから。しかし偏りのある意見を帝に吹きこむ者があると、除目は当てにならなくなってしまう」

「関白である我が兄を愚弄なさるか」

 腰を浮かせる頼通に、千手関白が「権大納言」と釘を刺した。頼通はあわてて、「関白殿下、申し訳ございませぬ」と頭を下げる。

 その様子を見て右大臣の顕光が、「まるでままごとのようじゃ」と口を歪めて笑った。

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