第14話

 日が昇るのにあわせ、都の北辺にある大内裏だいだいりに向かって、牛車や馬の列が並びだした。

 大内裏はこの国を統べる帝の住まいであり、また帝に仕える役人たちの政庁である。そこへ出勤する役人たちの列ができるのは、毎朝のこと。

 牛車を使うのは三位さんみ以上の雲上人うんじょうびとがほとんどで、その他は馬に乗ったり、また下級役人は徒歩であったりする。大内裏に勤める役人といえど、上から下までその身分は様々で、大臣から貧しい下仕えまでいる。これは、海をへだてた唐の国の政を参考に定めた、冠位十二階かんいじゅうにかいという位階制度を基本としている。

 大内裏にはあわせて十四もの門がある。正門は南の朱雀門すざくもんで、都を南北に貫く朱雀大路に面している。

 おもな門には、それぞれ楼が建てられて、近衛府このえふ門衛もんえいが侍っている。ただ昼の間は、大内裏に勤める者は自由に往来ができる。それが夜になると、いずれの門も通行を禁じられて、やむを得ない事情で出入りをする者は、門衛に身分をあかさねばならないことになっていた。

 さて大内裏の内へと入れば、広い敷地内にこれまた多くの建物が並んでいる。中央には帝の居所である内裏があり、南には重要な儀式を行う朝堂院ちょうどういん。それらを取り囲むように、二官八省の官庁街がある。

 ひととおり挙げれば、神祇官じんぎかん太政官だじょうかんの二官、宮内省くないしょう中務省なかつかさしょう大蔵省おおくらしょう民部省みんぶしょう式部省しきぶしょう兵部省ひょうぶしょう刑部省ぎょうぶしょう治部省じぶしょうの八省。それらがまた枝分かれして、それぞれにつとめ所となる建物がある。また二官八省の他にも、令外官りょうげのかんというのもあって、建物の数は大小あわせて五十以上にもなろうか。


 大内裏の朝は早い。

 役人たちは参内するとまず、朝堂院へ集まるのが習わしである。昔、聖徳太子が日の本の帝のことを〝日出づるところの天子〟と表現した通り、朝日とともに人々の前にお出ましになる帝に、拝謁する儀式が行われる。朝参ちょうさんという。

 朱の頭巾をかぶった役人が出てきて、鶏のようにこけこけと鳴きながら鐘をついた。それを合図に、閉じられていた朝堂院の門が開き、待っていた官人らが続々と中へ入ってゆく。

 大内裏に勤める者は貴賤きせんあわせて五百名以上いるが、障りがあったりして欠勤も多い。ゆえに、一日に集まるのはせいぜい半分ほどか。

 朝堂院の内は、白石の敷き詰められた広場になっており、北面には帝のお出ましになる大極殿だいごくでんという建物がある。

 朝堂院の中へおおかた役人たちが入ると、門衛が門を閉め始めるのだが、やはり遅れてくる者たちもいて、彼らもなんとか朝参に間に合おうと、閉じる門へ目がけて駆けこんでくる。

「駆けこまないで下さい! おやめください」

と門衛が声を張るのだが、それでも駆けこむ者がある。

「朝参が始められません。駆けこみはおやめください!」

と何度も注意するのだが、朝参に遅れた者はあとで叱責を受けるからこれも必死で、あげく門の間に挟まりつつ、烏帽子を傾けながら中へすべりこむ者まであった。

 さてそうした毎朝の騒動のあとに、ようやく場が落ち着いてくると、空気を清浄とさせる管絃の音が鳴り始め、朱あざやかな唐風の大極殿の上へ、帝がおごそかにその姿をお現しになった。

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