第12話

 さて囲炉裏の間には、家中の者たちが集まって、紀代のこしらえた朝餉あさげを食べながら談笑していた。男も女もなく、身分の上下もほとんどなしに一同に集まり、同じものを食べている。女たちはそれでも恥ずかしがって、湯漬御前のそばへ集まって、小さな口で粥をついばんでいる。

 その庭先では猫や犬、鳥たちが集まり、ばらまかれた餌を夢中で食べ、また池のなかでは鴨が泳ぎ、鯉たちが集まって、餌をついばむのに忙しい。人も動物たちも、家中総出で食事にいそしんでいるようなにぎやかな朝である。

 頼光が顔を出すと、「殿、お早う御座いまする」と皆頭を下げるが、すぐにまた食事とおしゃべりに戻る。頼光はそれを満足げに眺めて、上座かみざに座った。

「頼光ったら、お寝坊さんね。さあさ、特製の湯漬けを召し上がれ」

「こちらにおかずもありますからね」

 湯漬御前と紀代の差し出す料理をかきこみながら、頼光は紀代の後ろに隠れるようにして飯を食べている下女に気がついた。

「おまえは、小浜こはまといったか。どうだ、うちには慣れたか」

 声をかけられて、小浜という下女は驚いて身を縮めた。普賢丸と同じぐらいの年の、まだ小娘である。

「小浜、殿がおまえを気にかけて下さっているのだよ。お返事をなさい」

 紀代がおだやかな声でうながすと、小浜は緊張で顔を赤くしながら、「こんなに腹いっぱい食べさせてもらって、ありがとございます」と小さな声で言った。

「うん、腹いっぱい食べろよ。そして紀代を助けてやってくれ。もう、おばばだからな」

「おばばで悪うございましたね」

 軽口をたたきあう頼光たちに、小浜がくすりと笑う。

「でも驚いたでしょう。こんな風に皆でお食事を頂くなんて、他の家ではないことだもの」

 湯漬御前に仕える女房たちが言う。彼女らは下級貴族の家の出で、それなりに化粧をしたり重ね衣を着たりと、身なりを整えている。

「貴族の女は、人前で食事をしたりしないものだもの。殿方だって、ふつうは自分のお部屋で、整えられた膳を召し上がるのよ」

「そういえば、そうだったわね。でもこちらの方が楽しいでしょう? 皆でおいしいおいしいってご飯を食べるのは」

 湯漬御前が大きく開けた口に、焼いたいわしを放りこんで幸せそうに食べる。

「母上はもう少し慎みを持たれた方がいいと思いますけど。でも、僕も皆でご飯を食べるのは好きです」

 普賢丸が言う。

「俺も、御前様の湯漬けが好きですし」

「ああら、綱ちゃんは本当にいい子ね。ほらほら、もっとお食べなさい」

 湯漬御前が綱の皿に、また大盛りにおかずを押しつける。綱は大食いなので、それをぺろりと食べてしまう。湯漬御前はそれが嬉しいようで、目を細めて綱が飯をかきこむのを眺めているのだった。

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