第7話

 童たちは、ただただなつかしさを目に浮かべて集落を見つめている。

「さあ、皆お帰り。もうお前たちを引きとめるものはないのだから」

 頼光は声をかけた。

 童たちは思いおもいに一歩を踏みだす。すると小さな体が徐々に燐光りんこうをおび、光に包まれ、やがて蛍のような一個の光となって、宙に漂ってゆく。

 そうして蛍の群れが集落に向かって去ってゆくのを、頼光は見送った。

 森中の木々が崩れ落ち、地が音を立てて揺れている。そのなかから、偉丈夫が駆けだしてきた。

つな、無事だったか」

 頼光は偉丈夫、渡辺綱わたなべのつなに声をかけてから、また子どもたちの光の消えていく方に目をやった。

「殿、どうかされましたか」

「いや。随分、待たせてしまったのだと思ってな」

 そう言って頼光が見つめる先を、綱も追うように見てみるが、彼の目にはただうす暗い山間の景色が映るばかりであった。

 その合間にも、森の亡骸が音を立てて崩れてゆく。大きな山崩れになることはまちがいない。

「まわりの集落も、危ないかもしれません」

「森に入る前に、集落の者たちには話をした。まあ、耳を貸そうとする者はなかったがな」

 この土地では、古来より邪悪な山神が信仰されてきたという。山を鎮めるために、生け贄を捧げているといううわさを聞きつけ、頼光たちはそれを確かめに来たのだが、土地の者たちは貝のように口を閉ざした。山へ入ろうとする頼光らをよく思わず、追い出そうとし、それどころか二人は危うく命を取られるところであった。

「それでも、とにかく一日はこのあたりから逃れろと伝えたが……」

 すなおに逃げる者があったかどうかはわからない。

「致し方ありません。殿は最善を尽くしました。とにかく、俺たちはここから離れましょう」

 頼光は重たく頷いた。

「そうだな。俺たちは〝神〟を殺したのだからな」

 頼光と綱は、巨大な屍となった山をあとにした。

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