第6話
男を捕まえようと四方八方から伸びてくる枝をつかみ、捕らえられそうになるとすぐに別の枝に飛びうつり、そうして宙を跳んで大岩をかわした。
じれたように大岩が咆哮をあげる。
男は頼りにつかんでいた枝ごと、近づく枝をすべて切り払ってしまうと、地面に落ちていくその力に身をまかせ、大岩の大きく開く口へ向かって太刀を突き刺そうとした。大岩の口へ飛びこんだ男だが、しかし太刀は何の手応えも返さず、男の体ごと、その
男は闇のなかで立ち上がった。植物の腐臭がみちる、広い広い空間であった。
じっと目をこらすとその空間は、にごりきった湖のなかのような、ふしぎな泥で満ちていた。
そのなかに、生き物の骨や死骸のかけらがあまた漂っている。人のものもあり、獣のもの、精霊のものもあった。あらゆる生命の断片が、悲しく浮かんでいる。また地面と思った足の下は、生命の断片がうずたかく積もったものであった。
「これがこの森、お前の〝生〟なのか。これはおびただしい〝死〟ではないか」
腐臭と泥が、男の体をも溶かそうと、じわじわと迫る。
「死と生は連鎖してゆくもの。永遠の生を望んで得られるものは、永遠の死だ。それを忘れたお前は、もう神ではない」
男はわずかに腰を落とし、静かに太刀をふりかぶる。
「幾万年の呪いよ、〝
男、源頼光はあわく光る太刀を逆手に持ちかえて、足下に突き入れた。その衝撃が森の底まで走り抜け、幾万年もの間まどろんでいた森の根までを貫いた。
貫いた熱が、暗い森の底で光を発っした。木々の根が燃え始め、からみあった根や枝を通じて次から次へと燃え移り、やがて森中の大樹が炎を上げて燃えていく。
己を焼く炎のまぶしさにもだえるように、森が断末魔の叫びをあげ、地を空をふるわせた。
幾万年か、あるいはそれ以上か。数える者のない時を生き永らえてきた森が焼かれ、塵となってゆく。
森をおおっていた木々の枝葉がはがれ散ってゆき、その向こうに暁の空が現れ始めた。
星がまたたく空の下、周囲には大小の山々がつらなっている。その山間には、人々の寝静まる集落も点々としてある。
ついに森の外へころげ出た童は、その暁の光景に見入った。
まだ日は昇らない。けれど童は、「明るい」と声を出した。
いつの間にか、となりには森の底から抜け出た頼光が立っていた。
「あそこがわたしたちの村よ」と、童が山の麓にひっそりとある集落を指さした。
すると呼ばれたように、森からひとり、ふたりと次々に童たちが出てきた。
みな十歳にも満たぬような幼い童である。生まれついた病か、変わった姿形の童もある。赤ん坊のような子もある。様々な姿をしているが、多くの童は、足首から先がおぼろに消えていた。
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