第4話

 休む間もなく、森中から葉の矢が降りそそぐ。木の枝は槍の穂先のように鋭く変わって、男の体を刺し貫こうと、四方から伸びてくる。

 それを男は右へ左へと跳びかわしながら、はためく衣の裾にからみつこうとする枝葉を斬って捨てる。渦のようになって襲いかかる木々のなか、男は一陣のつむじ風のようになって、舞い踊った。

 すると男の目の前にぬっと現れた太い幹が、行く手をさえぎった。男はいきおいそのままに、その木の幹を蹴りつけ駆け上がり、そして強く幹を蹴って宙へと身を投げた。体を駒のようにまわして、まとわりつく枝葉を斬り捨てる。

 再び地に足がついた瞬間、今度は頭上から、のたうつ木の根が男の脳天めがけて振り落とされる。

たこじゃあるまいし」

 男が横へ飛ぶと、太い根が男の体をかすめ、地面を割らんばかりに叩きつけた。

 すると今度は横から、また背後から、木の根が鞭のように飛んでくる。

 男は跳び、駆け、斬って捨てながら、その反動でもって宙に浮き、いっとう太い木の根を両断した。

 しかし不意に横から、しなった枝が鞭のように飛んできて、男の体を殴りつけた。宙に投げ出された男の体の先には、大樹の幹が待ちかまえる。その木肌の表面がひとりでに逆向けて、針山のように形を変えた。

 男の体がくし刺しにされようというそのとき、男は機転をきかせて頭上から伸びる枝につかまった。男の体が振り子のように揺れて止まるが、衣の裾は針のようになった木肌に突き刺さってしまった。

 それでも命だけは助かったと、男がひとつ息をつくと、幹から針がぐんと一段伸び、男の肌を刺し貫こうとする。

 すると男の懐から、はらりと一枚の紙切れがこぼれた。紙切れにはなにやらしゅが書きつけてある。その紙切れが木肌の針に貫かれると、千々ちぢにちぎれてあたりに散らばった。ほんの一瞬、男を取りかこむ木々の動きが鈍くなった。

 男は枝をつかんだまま体を揺らし、大きく宙へ身を投げた。

 宙から地面へ落ちるそのさなか、森のなかを這う大きな影が、男の視界に入った。木々のはざまにちらと見えたのは、あの注連縄のかかった大岩である。大岩が、自らの手足で地を這い進み、森のなかを駆ける小さな童の背中を追っている。童はうごめく森に足を取られながらも、少しずつ前へ進んでいた。

 その背をひと息に飲みこもうと、大岩が口を開けて迫る。

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