第7話1週間ぶりの外来受診

朝から、少々気分が落ち着かない。

病院への足どりが軽かった。

僕は、先生と話ができるのが嬉しかった。


正面玄関の外来窓口から入って

いくと……看護婦さん達が

バタバタと慌ただしく働いていた。

というより、何か問題があった様だ。


看護婦さんの一人が、僕の存在

に気付き、声をかけてきた。

『あ!横田さん……おはよう!

よく来てくれたね?』


と、優しく挨拶をしてくれた。


待合室で座っていると……

名前が呼ばれた。


個室に入っていくと……。

吉川先生じゃない先生が居た。


僕は、一瞬固まりドギマギして

いると、

新しい先生は察していた……。


『吉川ドクターなんだけどね?』

僕は、目を真ん丸くして話を

聞いていた。


『吉川ドクターは、非常に

横田くんの事を、気にかけてたんだけど……。

先月で……定年退職なんだよ。

お別れも出来ないのが申し訳ない

とは、吉川ドクターは

話してたよ。』


え……?吉川ドクターは……?


ショックだった。


この1週間、吉川先生の為に

髪の毛を切り、洋服も選び食事

作りにも、気を配った。


《なのに……何で……?》


~また、一人ぼっち。~


僕は、次の先生に頼み込んだ。

《どうしても御礼が伝えたい!

感謝を吉川先生に伝えたい!》

と……。


本来ならば病院と、患者の間では

そういった事は、ダメなんだよね?と……教えられた。



あんなに一生懸命になって

くれた初めての先生に、

もう二度と会えない……。


診察室を出る頃には……気分が

打ちのめされていた。


肩を落として処方箋を、2週間分もらい自宅へ着いた。

鍵を開け部屋に入ると……


足元にハガキの様なものが

届いていた……。


拾い上げてハガキに目を通した。

『!!!』

よしかわ。とローマ字で買いて

あった。



先生だ!先生からだ!!


僕は慌ててハガキを読んだ。

そこには、メッセージが書いてあった。

《その道を外れようとも……

強い精神で信じていれば願いは

叶う。》



吉川先生らしいや。

ほっとすると同時に、裏を見ると……

海外移住先からのエアメールだった。



吉川先生は、定年退職であるものの、優秀な人材として迎えられ

途上国で医師として頑張るから。


と……書いてあった。


吉川先生と途上国の子供達は

みんなが笑顔で写っていた。


僕はハガキを写真立てに入れた。


1番目立つ玄関の靴箱の上に

御守りの様に、飾った。



『僕……僕は……先生に会えて

……幸せだった。』

涙が止めどなく流れた。




紅のドクター。

紅とは……日本の国旗の真ん中

の部分の意味だ。


吉川ドクターは異国の地から、


横田ゆうとの個人の幸せを

懸命に働きながら……

願っていた……。



ゆうとはエアメールのやり方が

分からなかったのだが、

返事をしようにも……。



今度……病院へ行ったら

新しく担当になった先生に、

聞いてみよう!



きっと返事を書くのを

許してくれるだろう……。



何せ、吉川ドクターは世界を

駆けめぐるドクターなのだから。





~紅のDr.カルテの記録~


前編~END~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る