第3話退院間際に……

僕は、涙が枯れて病室内でぼんやりとしていた。

会社を退職して自宅療養になります。と……病院側が率先して手続きをしてくれた。


吉川ドクターは最後の日に、


『横田くん。君はいつか必ず良くなる。だから、長距離走を

ゆっくり歩く感覚で外来に来て欲しい。良いね?』


僕の退院する日に……吉川ドクターの姿はなかった。

看護婦さん達に、何気に聞くと


『あ!吉川先生なら海外出張よ?』

『大丈夫!また会えるから!ね?』


薬を処方され、1週間後にまた

病院へ診察を受けるハメになった。


吉川ドクターのあの時の顔が

焼き付いて、離れなかった。

面倒だけど、先生を裏切る事は

できなかった。


自宅にようやく、数ヶ月ぶりに

帰ると……また頭の中で

おかしな感覚に陥いっていた。


自分という存在の小ささに

涙が……頬をつたった。



『先生……吉川先生……。』


苦しかった。一人きりの部屋が

やたらに、寂しかった。



僕は、まず涙をふき

部屋にたまった新聞やらホコリ

などを、掃除し始めた。


一通り掃除をこなすと、何となく気分が落ち着いた。


《甘い珈琲を飲もう。》

珈琲の瓶に目をやると、固まった

粉があった。



『買いに行くか?』

と、僕は玄関の鍵を持ち外へ向かった。


ついでに、会社にお詫びに行こうか……。


何となく、フッと思った。



珈琲をスーパーで一つ買い、ついでに生クリームやチョコレートを探した。


自分の時間……

ゆっくり過ごせれる幸せに

少しだけ気分転換をしに散歩をした。



どれくらい歩いただろう?

僕は、懐かしいコンクリートの

ビルの前にいた。


街中の雑踏……目まぐるしい程の

膨大な仕事量……。



そんな一昔前の様な感覚に陥いり、その場で僕は

お辞儀をした。


それから自宅へゆっくり歩いて

向かおうとした。



……そんな時、

会社の後輩や先輩社員達と遭遇

したのだった。


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