第26話 いよいよ...

 僕が中学校2年生のときの担任の先生は、常に腕時計をしている人だった。


僕が通っていた学校にはすべての教室には時計が掛けてあり、個人で時間を把握する道具を持っていく必要はなかった。高校入試のときだって、普段は時計を置かないそうだが、中学生のためを思ってか、教卓の上に大きな時計が置かれていた。ああ、あれは掛けることもできるんだろうな、などどどうでもいいことを考えていた。なにより僕が腕時計をしていなかったのは、持っていなかったからに他ならないのだが。


「先生〜、なんでいっつも腕時計してるんですか?」

「習慣としか言いようがないな。」

「手首の腕時計のとこだけ白いですよ。」

「そういうもんだろ。」

「そんな金属の重そうなの、ガチャガチャして邪魔じゃないですか?」

「慣れだな。今だとしていないほうが変に感じるくらいだ。」



 僕には、そのときの担任の先生の気持ちがわかる気がする。まあ、公然わいせつ罪で刑務所、じゃなくて、なんかようわからん施設に連れて行かれる人に同情されてもしかたないだろうけど。自分の腕で、針が動いているだけでなんとなく安心するんだ。歯磨きのときなんかは、腕時計なんか邪魔にしかならないはずなのになんでか、つけていたくなる。僕の時計は高校の入学祝いで両親に買ってもらったものだ。深い藍色に一目惚れした僕はすぐに決めた。「白のほうが見やすいかな」とか考えることもなかった。これは、僕のいいところなのか、悪いところなのかよくわからないな。


 僕の高校の理事長は意地でも教室には時計を置かないらしい...



「館山さーん、そろそろ出発しますよー!」

 

 


 ...夢から覚めるとそこは普段と変わらない僕の部屋だった。下から彩月が呼んでいるのが聞こる。




 そういうオチにはならないだろうな、うん。そもそも彩月なら僕のことは「お兄ちゃん」とかわいらしい声で、かわいらしく(ここ重要)呼ぶし、「出発」ってなんのことかわからんしな。「夢オチ」っていうのはすべてを丸く収めている感じがするが、なにも丸くなってないだろう。(?)


 念のために説明しておくと、今から僕が送り込まれるのは「精神異常者更生支援施設(通称RFM)」だ。僕自身今言っていて、なにもわからない。英語は長すぎるしどうしたもんだか。どうやらそこに送り込まれるのは僕でちょうど10人目だとかなんだとか。じゃあ記念でくす玉でも割ってほしいものだが。ハワイ旅行とかくれないかな笑。



ウィーン、キュキュッ。



あっという間に着いた。運転手さん、かわいかったな。その人の趣味かどうかは知らないけれど、流れていた曲の一節だけが頭から離れない。


「変わらずいる心のすみだけで傷つくような

 きみならもういらない」


 特に2行目。これはラブソングじゃないのか?え?て感じ、まあいいや。


 どうやら目的地に着いたらしい。

たしかに、これは刑務所ではないな。大きな柵はないし、門の上に「働けば自由になれる」とも書いていない。おっと、失礼。


 どんなことがあるんだろうかと、期待に胸を膨らませながら(いやそれ入学式のときに言うやつ、明らかに間違ってるでと彩月に言われながら。「お前が行くとこは刑務所がましになっただけだぞ。舞い上がるな」)、まあ、ヤれないだろうなとどこか残念ながら、進んでいくことにしよう。決めた。


 どうやら歓迎式(使い方が完全に間違っている)をしてくれるらしい。

はいはい、イケメン様の登場ですよ、と。嘘です。すみません。まあ規則とかを説明されるんだろう。「一日14時間労働、4時間睡眠、給料なし」とかかな。まあいいや。僕の本分はボーッとすることだ。適当に聞き流しておこう。


 

 あれっ? えー、おんなのこー。(語彙力皆無)



 危うく変態モード(犯罪者)で声が出るところだった。ぐっとこらえておこう。

てっきり男ばかりだと思っていたから。よし! 今からキャンプファイアーだ!!

はいはい、おいておいて。



 端の方には見知った顔が...

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