第20話 手紙

拝啓

 最近は雨ばっかりですね。そう、言うなら五月雨でしょうか。1か月遅れですね。まあ悪いのは平安の人たちであって誰でもないです、そもそも悪くもないですし。


 本当に届かない手紙というのも悪くない。フィクションなら、なにがなんでも届けるところだが、こればかりはどうしようもないです。ただ、どこか美しい。「何を言ってるんだ」ともちろん言うでしょう。僕がよく文章を書いているというのは多分知らないでしょう。「文章力検定」の例題をあなたに、元国語の先生のあなたに、ぼろぼろに言われたのを覚えています。それがきっかけかどうかはよくわかりませんが、国語、今では現代文の勉強をよくしたとは思います。まあ僕が文系なのはあなたのせいですからね。感謝することもあれば、医者になりたかったと思うこともある。ただ、あとは僕の努力が切り拓いてくれるでしょう。友達は僕の文章をおもしろいと言ってくれるんだけどな。まあ、あなたには見せられる内容じゃないかもしれません。ああ、あなたが小説を書いていたというのは僕は知っていますよ。恥ずかしい?まあ僕がその立場だととても恥ずかしいです。ああ、その知人には怒らないでくださいね。それと、この紙をいくら眺めていても水滴の跡は出てきませんよ?僕は絶対、そうはしないから。毎日、毎日服を濡らすのは大変です。「かけじや袖の ぬれもこそすれ」みたいな感じですかね。また、ひとつ思い出してしまいました。あなたは短歌が好きでしたね。ここは松山市なので俳句のイメージは強いですが、そんな反逆的なところもいい。僕は短歌のほうが好きですよ。やっぱり、心がないと。少し逸れましたが、一日たりとも忘れているわけではありません。知ってるでしょう? 僕は少し殻を被るのが上手になったかもしれません。以前もそうしていたつもりだったんだけれども、あなたは全部気づいていたのかな。気になるところです。とりあえず謝っておきますね。「僕」という人間の本質に触れてくれる人はいるのでしょうか。書きたいことは山のようにあるのですが、また数年後くらいに書きます。やっぱり、この手紙に「僕」が現れているのも怪しい気がしてきました。「生きるのは大変」、「わからないことばっかり」それっぽい言葉を並べて終わりにしましょう。

                               敬具

 木城 和美様

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る