第19話 地獄の車内

 乗り心地は、いい。

加速もちょうどよく。赤信号が見えたらもうアクセルは踏まず、極力、止まるときにブレーキも踏まないでいいように、摩擦力だけを頼って減速していく。まるで彼女のようだ。


 もう、帰り道の半分は切った。

流石に、なにも言わないというわけにはいかないだろう。

できればこのままなにもなく過ぎてほしいんだけど。ねえ、お父さん?


 音が止まった。父が開けていたCDが最後までいったようだ。

次を入れる気配はない。引き出しにはビートルズが詰まっている。


 ふと、窓を開けてみる。父の肩がピクン、と跳ねる。

かわいい。いやいや。頭がおかしくなっているようだ。


 実際、父は若見えするから今でも30て言われても信じられるくらいだ。はいはい、小学生のときにヤっちゃたんですね。若く見えるだけでなく、かっこよさも持ち合わせている。これが僕に遺伝したんだな☆


 よかった、窓のロックはかかってなかった。

流石にここから抜け出すことはできないしね。


 窓の外には、僕の憂いなど微塵もわかっていない蝶。

僕は「桜」と聞いたら、まず葉桜を思い浮かべる稀有な人間だ。

(あー、自分で言っちゃうタイプー)


「ねえ、お父さん。ごめん。」


言い終わると否や、蝶が、堕ちた。

車にぶつかったようだ。


「......」


返答はない。気まずい沈黙が続く。


家についた。


結局発した音は、あの一言だけ。

家に帰ってからじっくり話そうということなのか。


前やったときは、なんともなく父から逃れることができたけど。

今度こそ医者を紹介されるのかな。かわいい女医さんがいいな。


「さ・つ・き! (これこそ究極の癒やし)ただいま〜〜!!」

「どうしたのバカ兄貴。」


一瞬、頬が緩んで笑いそうになってしまった。いけないいけない。

こんなことで喜んでちゃ。よく考えたらバカにされてるし。

落ち着け、僕は今、保釈中なだけだ。罪が許されて外に出ているわけじゃない。


「いつにも増して冷たいじゃん笑。どうしたの?(親愛なる妹よ)」

「だ、か、ら かがみみろ」


僕は犯罪者ということをいいたかったらしい。


なんか、すーってどっか行っちゃった。(語彙力)

ちょっと前は「おにいちゃーん!」って抱きついてくれてたのに。(13年前)

あのころの可愛い姿はどこにいったのやら。でも安心して。今も世界一かわいいよ☆


「ご飯がもうすぐできるから手を洗ってきなさい。」


ん? なにご飯だ、14時なのに。まあいいか。お母さんの料理好きだし。



ー家族会議開幕ー(約7日ぶり2回目)


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