第18話 完成デート
カーテンが、左に10センチほど逸れていた。
運良く午前七時、約束の四時間前には起きることができそうだ。
カーテンは小指で閉じる。ただ、その重圧には耐えられそうにない。
仕方なかったので薬指まで使う。それでも仕方がなかったので、僕は最後の抵抗として親指で閉じた。
タイマーは掛けるが、最初からあてにはしていない。
やっぱり、時間の一時間前には起きることができた。
歯を磨く。血が出る。さらに磨く。痛みはない。
10回ゆすいでも止まる気配はない。仕方なくあと10回ほどゆすいでから紙で抑えることとしよう。甘いのを食べすぎるのも控えよう。
「待った?」
湿度が高いから、空気が透き通っているわけでもなくて、濁っている空間に僕の濁った音が響く。ほんの短い言葉なのに、歪んでいるのがわかる。ただ、返事がないから、僕の周りの空気は冷めきっているようだ。仕方ないので僕が話し始めると、笑ってはくれていた。その笑いは乾いていたのか、湿っていたのかは僕にはわからない。
今日は、灰色の車体が揺れる。
窓を少し開けると、外気か、エンジンから出た空気かわからないけれど、生ぬるい空気が車体をおそう。みんなに申し訳ないという気もしてきたので、閉める。なんだか、雰囲気も悪くなってしまったけれど、前にも後ろにもいくところはないから、仕方なく窓を眺める。映るのは僕。
未知には心は踊る。
道には心は閉ざされる。
「進むさき」があるというのは幸運だろうか、不幸だろうか。
車に乗っていても、電車に乗っていても、行ける場所は限られている。
まだ、船のほうが可能性があるだろうか。どこでも行ける。
海を見ると、綺麗だなとは思う。ただ、僕の場合は不安が勝つ。
まず考えるのは「沈んだらどうしよう。」飛行機なら、「落ちたらどうしよう。」
僕は、笹舟。
目的地に着いたが、ここは未知。でも僕は世界地図を持ってくるようなことはしない。何をしても楽しい。何をしても正解。
行きとは違う路線で帰る。昔はこちらが本線だったのに、今ではその地位を奪われてしまった。よくある、僕にもよくあること。「生活」ではなく「観光」で売っている。時間が、大切なのか。時間は教えてはくれない。
「誰もいない」と形容することはできないけれど、空虚と表現するには十分だった。ひたすらに山、海、川。走る、走る、走る...
狙ったわけではないが夕日が僕の口を血で染めてくれる。
この赤を分け合いたくて、そっと口を重ねた。
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