第15話 とある昼下がり

時計のおかげでもなく、母親のおかげでもなく、起きる。


昨晩、薄いレースだけにしておいたのが功を奏したようだ。

まだ、時間までは2時間程度ある。


朝ごはんと着替えに30、自転車で目的地までいくのに15分。

あと1時間はいける。

そろそろタオルケットに変えようかと思っていると、またまぶたが落ちる。



今度は、光のせいではなく、母親のせいでもなく、起きる。

アラームを掛けておくという僕の決意が成功したようだ。


朝ごはんは母が用意してくれたおにぎりと味噌汁と生の食パン。

よくわからない組み合わせだけど、これが僕のスタンダード。



じゃあ行こうか。

37秒考えた結果、選んだのは半袖。


ヘルメットは置いておこう。



雲は、太陽を隠してはくれないらしい。


少し汗ばむ中、見慣れた道を走る。

ここは通学路じゃないから、こういう土日の日にしかこない。


待ち合わせの商店の前に7分前につく。

これは僕の癖だ。当然相手は来ていない。

5分前を目指していたんだけどな。意味のないつぶやきが陽炎の中に吸い込まれる。


「待たせたか?」

彼が来たのは3分前。ああ、ちょうどいいな。

全然とだけ伝えて、行こうとペダルに足をかける。


突然僕のスマホが鳴る。出ようかと迷っていると、彼の視線が「出ろ」だったので仕方なく取る。番号が表示されているだけで、誰かはわからない。


「お前、今日の部活はどうしたんだ?」

「正午くらいに母から、風邪で休むと連絡をしてもらったはずなのですが...」

「ここに証拠が2つある。

ひとつは、今、蝉の声と車の音が聞こえたことだ。

もうひとつは、インスタのストーリーでお前が今からイオンと、投稿していたことだ。」

「......」

「説明してもらおうか。」

「......」

「どうせあの秋山商店辺りだろ? では15分後に学校で。」

「......」


スピーカーにしていたようだ。

「ということらしい...」


申し訳なさというか、惨めさというか、浅はかさというか。

そもそも、なんで僕のインスタのアカウントを知っているんだろう。

電話の後ろで笑い声が聞かれていたから、そうか。

これは伝説だな...


母にも謝っておこう。

どっちかというと、先生よりそっちの方が心配だ。


「いいよ。僕もついていくよ。私服で堂々と、お前を引き渡すという大義名分で武道場に乗り込むことができる。」


僕の計画はパーになってしまったが、優しい親友に感謝するとしよう。

せめて、今日くらいは行かせてほしかったな。

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