第14話 取り調べ 完
「この度は...」
言い終わらないうちに檜原が「幣もとりあえず手向山...」といってきたが無視をして、ほんと、変に知的なんだよな。一緒に百人一首をするとお手つきでいろいろ触ってしまいそうだ。
あっ//♡ パンっ//
「この度は、私のこのような非常に恥ずかしい行動でご迷惑をおかけして申し訳ありません。二度と、公共良俗に反しないことを約束いたします。」
プリズン脱出大作戦とは言ったが、僕にフェンスを乗り越える能力も、穴を掘る能力も勇気もないので、感度を上げる♡ じゃなくて好感度を上げるのが一番手っ取り早いというしょーもない結論にたどり着いた。
(再掲 そもそも警察署はプリズンではない。しかも、取り調べは48時間以内に完了して検察に送られるかどうかが決まる。)
「はいはい。それで? 犯行の動機は?」
どうやら効かないようだ。僕の言葉責めが効かないとは。
なにが効くんだ? 水か? マッサージか? 温泉旅行か?
「さっきも言ったとおりですよ。」
「あんなの調書に書きたくないんだ。わかってくれ。」
そんな、感情で書くことって決めていいんだったっけ。
まあ、檜原には申し訳ないし、ちゃんと考えるとするか。
「ううん...」
深く考えすぎると、どこかの真っ暗カズキちゃんになってしまいそうだから。
それなりにね。人生、考えすぎないほうがいいこともある。
もちろん、考えたほうがいいこともある。
僕はいつ卒業できるんだろう、とかね。
「一番近い言葉を使うと、なんとなくでしょうか。人生に希望が見いだせなかったから、いつもはなんとも思わない衝動を行動に移してしまった、とか。」
「単刀直入に言おう。五ヶ瀬綾とは何者だ?
お前の携帯はこちらで預かっている。やり取りも読ませてもらった。
ただ、肝心の本人は姿を消した。」
今日のことなのに、なにか懐かしい響きだ。
もう二度と聞くことはないと思っていたのに。
少し、沈黙をしてみる。
「あの文面を読むと、お前は犯行を五ヶ瀬に指示されたことになる。
なぜ黙っていた? しかもお前はデート中だった。謎しかない。」
いや、そんなに質問を積み重ねられても。
そんなに本気なんだな。仕事として、じゃなければいいのに。
素直に、私以外の女のデートなんかしないでと、その言葉が出てきたらいいのに。
「あのメッセージは関係ありません。僕の独断で行ったことです。」
なんでここまでして、五ヶ瀬さんをかばってるんだろうか。
「言わない」だけの選択じゃ、かばったことにはならない。
ただ、今、決定的なことを言ってしまった気がした。
仮にここで、自分の犯行は五ヶ瀬さんのせいだと言ってもなにも変わらないだろう。
「そうか」
なぜそこで引く。大事なところなんだろう?
なぜもっと突っ込まない。いや、それは僕の仕事か。
檜原は足を組み替える。
「もういい。たぶん、お前は送検される。検察が最終的に起訴するか決めるんだが、お前の場合はたぶん...」
言葉を濁してくれたことに檜原本人の優しさを思い出す。
そんな檜原に申し訳ないなとは思うけれど。
すっと手を挙げる。
どこから見ていたんだと、すぐに人が来る。
「優しい、優しい私にもっと話しとけばよかったって、なるなよ。」
「今生の別れじゃあるまいし。」
手錠が再びつけられる。
蛍光灯とコンクリート丸出しの壁しかない廊下。
僕の絵があると、変に浮く。
蛍光灯の光じゃどうにもならないくらいの暗闇が笑顔で横たわっていた。
「じゃあな。」
こんなことを、警官とふたりきりのときに言うと間違いなく変だろうが、安定無視。
今日の檜原はなにか様子がおかしかった。
僕に会えて、嬉しくないのかな。
知り合いが懲役刑だからね...
元気がないとかそういう話ではない。
それを考えると体は震え、僕は大きくなったのでやめておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます