第11話 未完成デート

朝、起きる。


昨日は3時まで起きていたせいで頭が痛い。飲み物でも買ってこようか。

それこそ重い足取りで2階下へ向かう。その前に毛布は干す。


屋上は、開いている。


遮断器は、閉じている。



僕の一番好きなキャラメルがない。

売り切れてから一週間経っているのだから、そろそろ業者さんには気づいてほしいものだ。妥協と言うには豪華すぎるけれど、クリームソーダを買う。


予定の時刻まであと二時間半。

とりあえず着替える。昨日のうちに構想は考えていたので悩むことはしない。

今の自分に一番似合う服、そして淡青のシャツを羽織る。


珈琲を入れて、本を読む。習慣ではないが飲む。そして、今読んでいるのは苦い。

心がざわついているときには落ち着かせてくれるし、悪気があるときには浄化してくれる。魔法とは程遠い。少し豆を入れすぎたかな。


ボーッとしていたらミルクを入れてしまった。

今はそのまま飲みたい気分だったのに。取り返しはつかない。

抵抗に角砂糖をいつもより2つ多く入れる。



集合場所は僕らの学校。あと少しだ。


「こんにちは、今日は暑いね。」

「こんにちは。若干僕に近めに合わせてくれてありがとう。」


君は妥協しすぎている。諦めか、気遣いか。


「その純白、とても似合っている。」


君は純白と言うより淡緑かな。


どうやら、服を褒めるのはよくないと、どこかで聞いたことがある。

「似合っている」が無難だが、最高らしい。


「じゃあ、行こうか。」


なぜ君は道路側を歩くのか。

意識していないのなら性格が良すぎる、意識しているのなら意地が悪すぎる。


電車を乗り継ぐ。

今日は古いほうが来たかな。驚くほどオレンジの車体。

まあ、少しうるさいくらいだから別にいい。振動もひどかったっけ。


電車の上で気付く。今日も閉まっている。二回目だ。

日曜日も祝日も空いていない店なんてなんの価値があるのかと、柄にもない悪態のひとつもつきたくなる。



具体的すぎると、虚しく、悲しくなることがある。

抽象的すぎると、不可解で、わからないことがある。


目的が明確だと、限界が見えることも、希望が萎むこともある。

目的が不明確だと、実行できないことも、諦めることもある。


完成していると、成長がないことも、無自己になることもある。

未完だと、できることも、目指せることもある。


行くあてを探す。また閉まっていた。

あれを一度食べたかったと、君が言う。

僕は笹舟精神だから付き従う。


善悪はどうがんばってもわからない。

どちらが悪かったのか、こう考えるのは悲観的すぎる。

どちらが良かったのか、これでは楽観的すぎる。


なにがあっても、食べることだけは純粋だ。

感想も、自分の精神に従って出てくる。


「行ったことのないところに行きたい。」


あちらも、笹舟精神が感染ったのか。

もともと似た者どうしなのか。


「浴衣が来たい。人力車に乗りたい。」


あちらも笹舟精神だったらどれだけ楽なことか。



「間に合わないな。」

「賭けるか、駆けるか。」

「後者かな。」


未知を往かねば道は拓けぬらしい。

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