第10話 暗い未来を...
スッ
「ご苦労さまです!」
檜原(巨乳な方)とよくわからない上司(まな板)が扉の前に立っている制服姿の警官に敬礼をする。まあまあかわいい。僕もついでに敬礼をしたいところなんだけれどあいにく両手ががっちゃんこしているのでできない。
どうやら僕は取り調べを受けなければいけないらしい。
本格的なのは2回目だ。
お手柔らかにお願いしたい。
檜原が担当だったらいいんだけど。
別に他意があるわけじゃないからね?
またもや、よくわからない部屋に連れて行かれる。
なにもわからないまま物事が進んでいく。
自分は流れに逆らうことはできず、笹の船のように、ただなるようになるだけ。
このまま流れていけば、自分じゃない自分になっちゃいそうで、
気づいたら大切ななにかが、すでに壊れていそうで、本当に怖い。
台の上に載せられ、頭の上にピトッと金属の棒がのせられる。
身長と体重の計測かな。特になにも問題はない。
以前測ったデータもあるだろうに。非効率なことだ。
これだから行政組織は...云々というのは柄に合わないのでやめておこう。
この流れだと指紋も取られるのだろう。
その、紙に自分の指を押し付けた瞬間、稲妻が走ったようだ。
体を貫く。
なにか殺人などが起こった場合、まずは前科者の指紋が一致するか確かめられると聞いたことがある。どうやら僕は、「あっち側」の人間になってしまったようだ。
指紋というのは唯一無二。父と母がくれた僕だけの宝物。
それが、管理される対象になってしまった。
僕にしかないものが、ひとつ、失われてしまったようだ。
すこしばかり真面目に考えてみる。僕らしくない。僕が僕じゃないみたいだ。
考えることは2つ。
僕はなぜあの行動をとったのか。そして、それを後悔しているか。
1つ目については簡単だ。五ヶ瀬さんと結ばれたかった。
それだけだ。本当にそうか? まだデートの一回目だ。僕は彼女のことをなにも知らないし、彼女も僕のことなんて知らない。それでズボンを脱いだら結婚だなんて、五ヶ瀬さんはいったいどう思っているのか。
彼女のあの文面については僕が考えてもどうしようもないので置いておく。普通に考えたらおかしいことだ。ああ、たぶん浮かれていたんだな。とってもかわいい彼女との初デートに。それでは説明しきれない行動だな、僕は...
軽はずみな行動を取ってきたのはいつものことだけど、今回ばかりはな。それと、逮捕されるってことなんて微塵も考えていなかった。全部自分のご都合主義なんだ。僕がやったことはただの犯罪行為なんだろう。ちょっと恥ずかしいだけで、五ヶ瀬さんが手に入れられる、そんな甘い考えしか持っていなかった。その場に警察がいたことを「運が悪かった」で済ませるのは簡単だが、それでは僕の中のなにかが、また、崩れ落ちてしまう。
2つ目についてはどうだろう。ここで反省しても、後悔しても結果は変わらない。そんなことを言っていたら、僕はなにも進歩しない。でも、僕はずっと停滞している人生と言っても過言ではない。僕は本当にろくでもないなと思う。
あれだ、「私は、その男の写真を三葉、見たことがある。」で始まる小説だ。「恥の多い生涯を送ってきました。」というのは有名すぎる一節だ。ただ、まだ自らの人生にその烙印は決して押したくない。
反省と後悔をしているというようにしておこう。あのときの自分が、まるで自分じゃないみたいだ。取り憑かれてしまったようだ。いつも、ひょうひょうとしている自覚はあるけれど、握り粒ひとつの理性は残っていたと信じていたのに。「恋は盲目」なんて、身勝手な言葉で終わらせるのは思考の停止だ。
僕はどんな未来を...
「一寸先は闇」という言葉が具現化して僕に飛んできたようだ。
僕の頭の中で、あの四文字だけがどうしても消えてくれない。
「お前は〇〇〇〇」と、すべての人に言われているようだ。
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