第4話
「呪いの指輪……?」
「はい」
レイモンドさんによると、ブルーダイヤは元々他国の神殿で、神像の胸元に飾られていたのだという。
それが戦争で神殿が破壊された時に消失し、しばらくして指輪となって現れた。ブルーダイヤはカラーダイヤの中ではレッドダイヤと並んで希少なもので、その価値は計り知れないのだという。
そしてその指輪は持ち主を転々としてきたのだが、その多くが不幸な最期を迎えており、いつしか『呪いの指輪』と呼ばれるようになったのだと。
「そんな恐ろしいものがあの屋敷に……?」
「確かに指輪はキースリー伯爵が所有していたと伯爵本人も言っていたのですが、誰にも見せたことがなく、嘘だったのではないかという噂もあるんです」
「嘘ですか」
「宝石伯として名高いキースリー伯爵ですから持っていてもおかしくはありませんし。……それに、伯爵の死因は突然の心臓発作でしたからね」
「……それが『呪い』のせいだと?」
「実際に呪いがあるかはわかりませんが。宝石商としてブルーダイヤを一度見てみたいという欲はあります」
レイモンドさんは笑顔で言った。
「何せ会長も先代も、一度も見たことがありませんから」
「そんなに珍しいんですね」
「はい。ですからもし屋敷に青い指輪がありましたらぜひお知らせください」
「分かりました」
「他のアクセサリーも一度鑑定してみたいですね」
「……では今度持ってきます」
「それから。修道院に入るのは考え直した方がよろしいと思いますよ。まだ他にも生きる道はあると思いますから」
最後は真剣な顔になって、レイモンドさんはそう言った。
「青い指輪……ですか」
屋敷に戻るとコニーにレイモンドさんから聞いた話しを伝えた。
「ええ、見ていないわよね」
「はい。ですが気味が悪いですね、そんな呪いの指輪だなんて」
「ええ……」
「とりあえず一通り探してみましょう。そしてもしも出てきたら、さっさと売り払ってしまいましょう」
「そうね」
「ところで今日持っていったネックレスは、お店に置いてきたのですか」
「ええ。だってお値段を聞いたら怖くて持ち歩けないもの」
あの後商会長さんがやってきて、もう一度鑑定し直してもらい、カフリンクスの五倍半の値段がついた。そしてやはり買取ではなく預かりでお願いしたいと言われたのだ。
本当なら買い取って欲しかったが、レイモンドさんの言ったようにお店の都合もあるだろう。それに、すぐに買い手がつく可能性もある。
何よりそんな高いネックレスを持ち歩くのが怖かったので、預かってもらうことにしたのだ。
「ではこのネックレスとブローチも高いのでしょうか」
残った二つの箱を見つめてコニーが言った。
「……でもブローチはエメラルドだし、ネックレスの方も小さいダイヤだからそこまで高くはないんじゃないかしら」
「エメラルドではなくこれもダイヤモンドという可能性は?」
「……え、緑色のダイヤもあるの?!」
だってこれ、ピンクダイヤの何倍もの大きさがあるのよ? 流石にこれはエメラルドだと思うけれど……。
「ともかく、他に宝石がないか探してみましょう」
「ええ」
そうして翌日から、屋敷内の捜索をすることになったのだ。
「これはエメラルドですね」
ブローチを鑑定してレイモンドさんが言った。
「良かった……これもダイヤと言われたらどうしようかと」
「この大きさのグリーンダイヤでしたら値段がつけられませんよ」
「そんなに高価なのですか」
「このエメラルドも十分高品質で価値がありますけれどね」
そう言ってレイモンドさんが提示した金額は、カフリンクスと同じくらいだった。
「こちらは買取りできますが、いかがいたしましょう」
「お願いいたします。……それでですね、屋敷を探してみたのですが、青い石は見つかりませんでした」
「そうでしたか」
「どこかに隠してあるのかもしれないので、引き続き探してみます」
「そうですね、お願いいたします」
「あの、それで。一つお願いがあるのですが」
「何でしょう」
「絵の鑑定をしていただける方を探しているのですが、どなたかご存知ないかと思いまして」
「絵ですか?」
「はい、宝石は見つからなかったのですが、代わりに絵がでてきまして……」
それは書庫の片隅に、額装されていない状態で置かれてあったのだ。
全部で五枚の内、二枚は伯母と夫の伯爵と思われる肖像画で、残りは静物画と風景画だった。
「綺麗な絵なのでせっかくだから飾ろうかと思ったのですが、その前に価値があるのか知りたいと思いまして……」
高かったら肖像画以外は売ってもいいし。
「そうですか。……値段は付けられませんが、ある程度の鑑定ならば私もできますよ」
「え、そうなんですか」
「絵画など他の美術品の価値を見極める力を持つのも宝石商として必要です。ですからまず私が見て、価値があるようでしたら鑑定に出しましょう。鑑定してもらうにもお金がかかりますからね」
「そうなんですね……いくらかかりますか?」
「人によります。ですが私は専門家ではありませんし、お嬢様は大切なお客様ですからお金はいりませんよ」
「いいんですか?」
「ええ、それに宝石伯の屋敷には一度入ってみたかったんです」
レイモンドさんは笑顔でそう言った。
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