第43話 新必殺技のお披露目は普通決まるトコだよね?
(……やはり、凄まじいですね彼は)
建物の影から戦局を見ていたボーゼスは、あっという間に上位種のゴブリン五体を屠ったアーサーに舌を巻いていた。
従魔の目を通さずに間近で、己が目で見るアーサーの強さは想定以上であった。
ボーゼスの目には正義の味方よりも余程厄介に見える。
(ふぅむ、【ブルーブラッド】を投与した魔物は正義の味方への対抗手段にはなりますが、彼女やクピドが持つ絶対的な防御能力は有していないようですね)
ボーゼスはそう見切りを付けて『
これ以上留まっていても有力な情報を得られ無さそうだ。どころかあの勘の鋭い少年に気付かれかねない。
(ま、【ブルーブラッド】の持つ特性。そして正義の味方の実力。それが分かっただけでも良しとしましょう)
◇◇◇
(なんだ? 光点が消えた……?)
アーサーの『
戦いに巻き込まれて亡くなってしまった、にしては妙な反応だ。
「オイ! 聞いてんのカ!?」
「あ、あぁ。えーと、……すまん。何だっけ?」
その事が気になるアーサーであったが、耳元で怒鳴るミヒャエルに思考を中断させられる。
宙に浮くウサギだかタヌキだかパンダだかよー分からんちんな獣──ミヒャエルは不機嫌さを増し増しに、再度説明を行う。
「だからヨ、あのバケモンはクピドつって普通の攻撃は効かないんダ。通る攻撃はコイツ──
ナチュラルに上から目線の淫獣、ミヒャエルにアーサーも苛っとしてしまう。
魔法少女には付き物のマスコット枠だろうに、その、絶妙に可愛くない顔も苛立ちに一役買っている。
「あーはいはい。ようは足止めね、りょーかいりょーかい」
「ああ、そうダ。見たところオマエは中々見どころがありそうだ。スカーレットの
対するミヒャエルの返答も、普段よりも棘が倍増ししている様に感じるのは、アカネの気の所為だろうか。
アーサーとミヒャエルはむむむと睨み合い、ほとんど同時に顔を逸した。
おそらくこの二人、根本的に反りが合わないのだろう。
「……分かったよ。俺は、あー、スカーレットさん? が
「そう言ってるだロ! さっさと行ケ!」
「じゃぁねスカーレットさん。無理はしないでね」
「は、はい」
カレード・スカーレットなる魔法少女の正体がアカネだと察しているアーサーは、つい彼女の身を案じてしまう。
正体バレしてるなんて思っていないアカネは、そんな彼の優しさがまた嬉しくて仕方ない。
そうして一歩。クピド相手に踏み出したアーサーは立ち止まり、反骨心からの言葉を紡ぐ。
「あぁ、そうそう。──別に倒してしまっても構わないんだろ?」
某ゲームの台詞をパクリ格好を付けて。
アーサーは鉛色したクピドに躍りかかった。
◇◇◇
そんなアーサーのクサい仕草は。
「はぅ! カッコいい……」
アカネにクリティカルヒットしていた。
胸元を抑えて蹲るアカネにミヒャエルは呆れる。
「アイツのアホが感染したカ? どうでもいいだロ、そんな事。それよりもアイツが時間を稼いでいる内にさっさと
「わ、分かったよぅ」
ミヒャエルに叱られアカネは
瞑目し己の中に授けられたチカラ──
「ふぅ──────」
これだけの強敵は初めてだったが、既に何体ものクピドを浄化しているアカネに取ってこのルーチンは大分慣れたものだ。
意識が研ぎ澄まされていく一方で、全身の感覚は鈍くなってゆく。手足から先、徐々に感覚が失せていき、まるで自分が精神だけの存在になっていくような錯覚に陥る。
そうしてハッキリと、アカネが
「まだダ! アイツにはそれだけじゃぁ足りネェ!」
いつものクピド相手なら、十分に
そう判断したアカネの集中が途切れそうになった瞬間、ミヒャエルの叱責が飛んできた。
アカネは今一度精神を埋没させて、
ようやくして、
ミヒャエルに言われるでもなく、アカネは目を見開く。
「────よし!」
「やレ! ぶっ放せアカネ!」
「うん! ──はああああぁぁぁぁぁぁぁ! カレード! ブルーム! バスタアアアァァァァァ──────ッ‼」
かつてない程の輝きを秘めた
──しかしアカネはすっかり失念していた。
ミヒャエルが景気よく「やレ」なんて言うから。
今までに無い量の
アカネが放った、クピドを倒すべく放った最大出力のカレード・ブルーム・バスター。
──その先ではアーサーがまだ戦っていることを。
◇◇◇
「へいへいピッチャービビってる~」
「GUAAAAAAAA────────ッ‼」
アーサーはミヒャエルに言われた通り、囮に徹していた。
クピドの回りをウロチョロとし、相手の意識が自分から逸れたら嫌がらせの様に矢と魔法を浴びせる。
クピドは欲望が肥大化した人間の変異体だというではないか。
元の人格がどれだけ残っているかは不明だが、アーサーの立ち回りに苛立ちを感じているのは確かであった。
そんなアーサーを鬱陶しく感じたか、クピドが巨木の如き腕を振るう。
空気を裂き、唸る豪腕が迫るもアーサーはこれを余裕で、しかして紙一重で避ける。
そうして豪腕と交差する瞬間、腕の腱を切ろうと短剣で斬りつけてみるも、鉛色の肌に当たる瞬間にガギンと、目に見えないチカラに弾かれた。
(はー、これが『
蚊に刺されたほども感じていないようで、クピドは続けざまに両腕を振るう。
一撃振るわれる度、石畳が砕け、瓦礫は更に砂礫となるパワーにスピード。
人を殺すには十分な威力であるが、イルルカと散々模擬戦を経た今のアーサーからすればただの暴力である。武術の一文字も感じない攻撃に、掴まる気はしなかった。
「GUAAAAAAAAAAAAAッ‼」
怒りに任せた横薙ぎが、石畳を削りながらアーサーに迫る。
アーサーは直撃の寸前にひょいと跳ぶと、一瞬、交差する拳を土台代わりにして更に跳躍を果たす。
巨大なクピドの顔の、その高さまでやって来るとアーサーは初級氷魔法を放った。
「『
「GUO⁉」
「『
効かないまでも、眼前で弾けた魔法にクピドが怯む。
そして眼前で砕けた氷は、同時にクピドの視界を奪った。
風魔法の連続、その反作用で空中で軌道を変えるアクロバティックを果たしたアーサーはクピドの肩に着地すると、すぐ真横にあるクピドの顔面に、数ある切り札の一つを打ち込む。
カレードの加護が無い限り、
(あの淫獣の鼻を明かしてやる! 喰らえっ‼)
「『
──アーサーは魔法を学ぶ内に気付いたことがある。それは魔力の過多に依って魔法の威力が左右されないという事だ。
例えばだ。初級火魔法の『
違うのだ。『
魔力補正も熟練度も無い。しかし、どうにかして威力を上げられないかと足掻いた結果アーサーは遂にソレを成した。
それは『
何も犠牲にするのは射程じゃなくても良いし、逆に威力を弱めればその分射程を伸ばす事も可能であった。
威力。射程。範囲。効果時間など。
前世の知識のあるアーサーはこれをコストと考えた。そしてコストの分配に依って威力の上昇は可能だとアーサーは結論づけた。
それが今放ったアーサーの初級雷魔法『
「これでちょっとくらいは貫通したり──」
「Guu?」
「……は?
最大威力の魔法を防がれた、否無効化されてアーサーは口汚く罵る。
一方でクピドはケロっと「今何かしました?」と言わんばかりに首を傾げた。
「GUUUU!」
「あ、やべ」
平然とクピドが腕を振るうと、アーサーは何の覚悟も無く宙に投げ出された。
地面に落ちる僅かな時間。アーサーに追撃が振り下ろされる。
避ける為に蹴る足場は無く、先程やったように魔法の反作用で軌道から逃れようにも時間が無い。
アーサーは身体強化を掛け、ダメージ覚悟で豪腕を受け止めようと短剣を構える。
そんなアーサーを──。
「へ?」
──クピド共々虹色の光が包み込んだ。
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