第42話 後付けで設定が生えて来るんじゃぁない!!
ジェリーとの話し合いを終えた帰り。
「ん?」
気のせいだろうか? 微かに響く、破裂音が聞こえたような……。
空を見る。澄み渡った、よく晴れた青空だ。
遠雷だろうかと首を傾げた所で再びの、今度は聞き間違えようのない戦闘音が聞こえた。
(マジかー……)
トラブルというのは、どうしてこう重なるのだろうか。
重い気分を無理矢理叱咤し、アーサーは身体強化を掛け直す。
路地裏の狭い通路を壁蹴りの要領で昇り、眼下に街並みを収める。問題の場所は直ぐに見つかった。
──ドドン、と。
視界の端、貧民街の一角。地響きと共に土煙が上がる。
アーサーは
あっという間に現場へ辿り着き彼が見たのは、一面瓦礫の山とした家屋。未だ濃厚な土煙が立ち込めており、それ以上の詳しい状況が分からない。『
「さて、どうしたもんかなー」
人命救助を最優先するか。はたまた、この惨事を引き起こした張本人をとっちめるか。
これだけの騒ぎだ。憲兵らもそう経たずにやって来るだろう。
「……ん?」
僅かな逡巡であったが、土煙は少しずつ晴れていた。
その薄くなった土煙の中、何者かの影が翔んで跳ねて、時折ピカッと光線らしきモノが奔るのが垣間見える。
アーサーは目を細めて、その正体を探ろうとする。
「うええぇぇぇぇぇ⁉ 何あれぇ⁉」
そして情けない悲鳴をあげた。
彼にそんな悲鳴をあげさせた者の正体とは──。
未だ元気に暴れまわり街を破壊する鉛色した肉人形、ではなく。
突如として街中に現れた上位種のゴブリン、ではなく。
──フリルたっぷりのピンク色したハイレグレオタードという、卑猥な出で立ちをした宙を舞い、戦う少女だった。
◇◇◇
「スカーレット、右ダ!」
「あわわわ‼」
ミヒャエルの指摘に慌てて回避を試みるスカーレット。
舞うように──なんて上手くはいかない。あわやといった様子でクピドが投げてきた瓦礫をどうにか飛んできた避ける。
ゴブリンアーチャーとメイジの火砲でさえ避けるのがやっとであったのだ。そこにクピドが投げつける瓦礫まで加わるともなれば、天秤が傾くのもそう遠い出来事ではなさそうだ。
「た、助けてミヒャエル!」
(チッ、どうすル!? 今までが順調にクピドを退治出来過ぎていタ! スカーレットの能力をアカネが使いこなせる経験を十分に積めてネェ‼ 悔しいが、一旦尻尾巻いて逃げるカ──)
ミヒャエルが苦渋の決断を下そうと考えた時。
「ギャヒッ!?」
「グアッ!?」
どこからか飛来した一条の矢がゴブリンメイジの頭を貫いた。
「『
続いて魔法の詠唱が響くと、ゴブリンメイジに刺さった矢尻が赤く輝き、周囲を飲み込む炎の嵐が吹き荒れた。
吹き荒ぶ熱風に為す術のないゴブリンらの断末魔が響いた。
「ふえぇ!? 今度はなにぃ!? なんなのぉ!?」
もう一杯々々のスカーレット、いやアカネの瞳には涙が浮かんでいた。
十二歳の──まして争いとは無縁であった──彼女に今の状況はもう限界を越えていた。
今すぐ帰って布団に入りたい。そんな弱気の虫が鎌首をもたげる。
「イヤ、待てアカネ! コイツは助っ人ダ!」
「ふぇ──?」
炎の嵐が土煙の一切を晴らすと、一拍置いて少年がふわりと戦場に降り立った。
その頼もしい姿を見て、アカネは自分の立場を忘れて歓喜の声をあげてしまう。
「助太刀します!」
「アーサーくん!」
「っ」
手に短剣とクロスボウを携えたアーサーがそこに居た。
自分よりも小さい背中であるが、それが誰より頼りになるのを彼女は身を持って知っている。
だが彼の方も爽快と現れたにしては、脳内は混乱の極みにあった。
(聞き間違い、じゃないよな? あのタヌキ(仮称)、アカネって言ってたけど。え、アカネさん? マジ? 何がどうなってこんな、え? 魔法少女? 魔法少女だよねコレ? ……え? えええぇぇぇぇぇぇっ!?)
つい、まじまじと凝視してしまう。
ピンク色した、フリルたっぷりのハイレグレオタード。ピッチリとしたそれは彼女の十二歳らしからぬ体型を浮き彫りにし、アーサーの獣欲をイヤというほど刺激してくる。
(いやいやいや!? おかしいだろ!? [金カフェ]にこんな要素は無かったぞ!? ここのゲームは千以上の錬金レシピだとか百階層のダンジョンなんかのやりこみ要素はぶち込む頭おかしいメーカーだけど、こんな世界観ぶち壊しの要素は絶対に入れないという信頼がある!)
爪先から天辺まで。
腕にオペラグローブ、脚にニーソックス。
胸元には
そして服と同じ色をしたカラフルな
──どこからどう見ても紛うことなき魔法少女である。
(は? いや、え? ないないない! アカネさんが魔法少女だとかいうアホな設定はない! 少なくとも[金カフェ]を一〇〇%コンプリートした俺の知識では無い! てことは何か!? また別のギャルゲだったりする訳!? はぁ~~~~!? なんなんそれもおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?)
こういう話のお約束である、魔法少女の正体バレを防ぐ不思議パワー──認識阻害でも掛かっているのか?
アーサーには目の前の少女が記憶にある、あのぽわぽわ優しいアカネと一致しなかった。
だが、少女の持つ真っ赤な髪だけが、アカネと同じだった。
当のアカネはあまり会うことの出来ない想い人と、思いもよらぬ邂逅に今を忘れて喜んだ。
それがまさか、惚れたシチュエーションと酷似──絶体絶命のピンチに颯爽と現れて助ける──しているのだから
(はうぅ……、やっぱりアーサーくんは格好いいなぁ……。ど、どうしよう? 私変じゃないよね? 変じゃ──────ぴ、ぴええええぇえぇぇぇぇぇぇ!?)
アカネは髪を手櫛で整えると、どうしてここには鏡が無いのかと文句を言いたくなった。
そしてどうしてか熱っぽい視線を向けてくる彼に嬉し恥ずかしく感じていて──ようやく自分がどんな格好をしているか思い出した。
「ひゃぁ!? や、やだっ! 見ないでアーサーくんっ!」
(あぁ、やっぱこの反応、アカネさんなんだなぁ……)
アカネが身体を必死で隠そうとするも、逆にその恥じらいが妙に色っぽいというか逆効果というか……。
一方でアーサーも認めがたい事実──[金カフェ]のメインヒロインが別ゲーのヒロインをしている──を前に、自然と乾いた笑いが喉から迫り上がってきた。
「オイ! なに呑気してやがるんダ! まだ終わっちゃいねぇゾ‼」
「痛っ!? なんだこの淫獣!?」
「あっ! ミヒャエル駄目だよ! アーサーくん、ごめんね」
アカネは取り繕うとか繕わないとかそんなレベルではなく、バレバレの態度でアーサーに接してくる。いや、隠す気あるとか無いとかではなく、それこそ彼女の天然な性格に依るものかもしれない。
アーサーはミヒャエルに叩かれた尻を擦る。
淫獣と呼ばれたミヒャエルが不機嫌な面のまま顎をしゃくるので、その先に視線を向ける。
『
凄まじい破壊を振りまいた炎の嵐が過ぎ去った後には、汗が吹き出る空気と、物言わなく成ったゴブリンの死体が五つ。
──それと無傷なままの、鉛色の
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