第40話 愛と希望の天使
「はああぁぁぁっ! カレード・ブルーム・バスター!」
少女は咆哮と杖を突き出す。
その先端に付いた
七色七本の光線はそれぞれ無軌道を描きつつも、対象目掛けて収束してゆく。
「ぐぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ‼」
光線に包まれた、クピドと化した男の叫び声が路地裏に響く。
哀れ、男は蒸発してしまった──かに見えた、が。
光が収まったそこには、地面に伏した無傷の男がいた。
先程まで手当たり次第に暴れていた男。やられたにしてはやけにサッパリとした表情をしているが?
ルキフェルの悪しきチカラ──
それを可能にするのがミヒャエルが持つ、アカネに託した対なる力──
これが悪人らが改心する実態、引いては正義の味方の正体であった。
「ふぅ……」
「よくやっタ、アカネ!」
「もう! アカネって呼ばないでミッくん!」
「悪ぃ悪ぃスカーレット」
緊張から滴る、額の汗を拭うアカネ──いやカレード・スカーレット。
身に纏うのは勿論、卑猥さと可愛さを両立したピンク色したフリッフリのハイレグレオタードだ。
既に何度も着用した衣装だ。
慣れ、というのもあるだろうがミヒャエル曰く「この衣装は認識阻害の効果を持ってるからナ! カレード・スカーレットの正体がアカネだとバレる心配はねぇゼ!」とのことらしい。
事実として、アカネはこの格好のまま幾度か衆目に姿を晒したことがあったが、誰もアカネだと気付かれたことはない。
「今日だけでもこれで三人目だよぉ、うぅ……」
「アァ、日に日に数が増えてやがル。このままイタチごっこを続けテたら、こっちの手に負えなくなっちまうナ。早く大本を叩かネェと……」
「じゃ、じゃぁ早くその大本っていうのを叩かないと……!」
アカネは逸る気持ちをそのままに言葉にすると、ミヒャエルは同意をするもののその顔は晴れない。
「アァ、分かってル。……だが、コイツらから感じる
「え、えと?」
「分からねぇカ? この程度の
ウサギだかタヌキだかパンダだか分からないミヒャエルが、目に見えて落ち込んだ。
そんなよく分からない地球外生命体でも、目の前で落ち込んでいたら放っておけないのがアカネという少女だ。
「う、ううん! 仕方ないよ。その、万全じゃないんだから。私も手伝うからさ、ルキフェルって悪い子をやっつけちゃおうね!」
「……オウ! へへ、オマエを選んだ俺の目に狂いは無かったナ──ム⁉ 東の方角から強大なクピドの反応ガ!」
話の途中、急に東の空を睨むミヒャエルに嫌な予感を覚えたアカネ。やはりというか、案の定で。
彼女が泣き言を漏らすのも仕方なかろう。
「うえぇ~ん! 皆にカレーを振る舞うだけの生活に戻りたいよぉ」
「カレーか! あれはいいナ! その為にも悪ぃがアカネ! もう一仕事頼むゼ!」
「だ、だからアカネって呼んじゃダメでしょ! バレちゃうよぉ!」
小さな相棒とひと悶着しながら、アカネは東の空へ向けて翔んでいった。
◇◇◇
そして
──真っ赤な髪を靡かせ。
──滾る神気を纏い。
「罪なき人々の、愛と希望を守る戦士!
──祝詞と共に天使が降臨した。
そこで彼女が目にしたのは苦しみに呻く男性とフードの男。そして鉛色した肉人形──見たことのないほどの巨大なクピドであった。
アカネ、否、
「気を付けロ、スカーレット! アイツは今までのクピドとは格が違うゾ!」
「うん、分かってる!」
だが鉛色したクピド──バッソンだったもの──は不気味な沈黙を保っており、さしずめ命令を待つ機械のようである
油断か隙か、はたまた罠か。戦闘の経験の浅いスカーレットには判断が付かないが、先制の機会を逃す手はない。
(一気に決めちゃおう……!)
スカーレットが宝杖にチカラを込めようとした矢先である。
その邪魔をしたのは誰あろう、その場に居合わせただけの不幸な人間だと思っていたフートの人物であった。
「ふぅむ? あなたが正義の味方ですか。こうして会うのは初めてですね」
「そこのおじさん! 危ないから下がって──」
「待て、スカーレットッ⁉」
場違いにも朗々と、告げるように話し出したフードの人物に疑問符を浮かべるスカーレット。
対してミヒャエルの反応は劇的と言っても良い。白い毛並みが総毛立っていた。
「お噂はかねがね。一目見てみたいと思っていたのですよ。私──」
「スカーレット! コイツダ! コイツから強い
「ふええぇぇぇぇっ⁉」
その叫びでようやく、ボーゼスは宙に浮く奇妙な獣──ミヒャエルを認識した。
(ふぅむ、この獣は一体……。
未だ不明な点が多い【ブルーブラッド】。ただの麻薬では無い事は明白であるが、グール曰く、人間の眠れる才能を覚醒させるという。【暗夜の狂】の目的を考えれば、それは不自然では無いが……。
──グール殿は隠し事がお上手だ。ボーゼスは内心苦笑した。
【ブルーブラッド】、
「ど、どどどうすればいいのミッくん⁉」
突如邂逅した黒幕と思しき人物を目の前にして、スカーレットは混乱した。
そのスキを見逃すほどボーゼスは甘くない。
「やりなさい」
「GUAAAAAAA─────‼」
「ひぅ⁉」
ボーゼスが命令を飛ばすと、鉛色のクピドは咆哮をあげてスカーレットへ突進をしてきた。巨躯からは想像似つかわしくない素早さである。
その質量とスピードから繰り出される単純な打ちかましながら、どれだけの破壊力を秘めているか想像するだけで空恐ろしい。
だが──。
「えーいっ‼」
スカーレットが可愛らしい掛け声と共に
クピドの巨体に比べてあまりに頼りない
「──────は?」
その有り得ざる光景を前にして、ボーゼスは柄にもなく目を丸くしてしまった。
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