第17話 これギャルゲのステータスじゃねーか⁉

「ぶへー。死ぬかと思ったー」

 村へ戻るとてんやわんやの大騒ぎであった。

 公爵の兵隊ばかりか村人らも総出で俺たちの捜索にあたっていた。

 心配されているのを目の当たりにして、俺の胸はポカポカと温かいもので満たされた。父と母にはしこたま怒られた後に思いきり抱き着かれた。

 あの謎のスライム少女の体液のおかげで大方の傷は塞がったが、切れ切れになった服、血の跡や汚れはどうしようもなく。そんな俺の姿を目にした母は気を失いかけたそうな。

 報告とかいう面倒はテレジアが受け持ってくれ、俺は一足早く休むことに相成った。

 そうしてやっとこさ自宅へと戻ってきた訳だが。

 自室に入ると俺はすぐさまにベッドへ飛び込んだ。

 ああ……。このまま何も考えず眠りにつきたい……。

 疲労からの抗いがたい衝動に襲われるも、俺にはやらなければならない事があった。

「……ステータスオープン」

 ベッドに寝ころんだまま、最早転生ものでお約束となった言葉を呟く。

 するとアーサーの眼前に、半透明のプレートが現れる。

 プレートには文字と数字が書かれており、アーサーは何とも言えぬ味のある表情をした。

「ほーん、なるほどなるほど」

 そして表示された文字列を見、馬鹿にしたように嘲笑う。


◇◇◇


 名前:アーサー

 年齢:7

 性別:男


 勉学:23 → 42 

 運動:35 → 58

 芸術:12 → 16

 魅力:21 → 31


 特殊:剣道lv3 → lv5

    弓道lv5

    オカルトlv3 → lv5

    交渉lv1 new!


◇◇◇

 


「なるほどなるほどねー。ほーん」

 名前、年齢、性別は勿論分かる。特殊、と言うのはいわゆるスキルに当たるものだろう。

 ここで注目して欲しかったのは、ステータスの文字列だ。

「勉学、運動、芸術。それと魅力ねぇ……」

 独りごちるように呟き、一拍置いて、叫んだ。

「これギャルゲのステータスじゃねーか⁉」

 俺は叫んだ。全身全霊、ご近所の迷惑を顧みずに叫んだ。

「てか特殊も色々おかしいんよ⁉ なんだよ剣道って! 普通そこは剣術じゃないんかい!」

 そうして誰も居ない虚空にビシィとツッコミを入れる。はぁ……。

 ──そもムスタファ公爵がどうして俺なんかをテレジアの婿になんて突飛なことを言い出したのか。

 おそらくだが、ご自慢の”診眼”でこれに近しいものを視たのだろう。テレンス家の”診眼”が全くこれと同じ見え方をするのかは分からないが。

 俺自身、見れるのは自分のステータスだけで、他人のものは見えない。だから他人と比べてどれだけ優秀かなんてのは、まー分からないんだが。公爵様が熱心になるくらいには優秀なのだろう。そう思っておこう。

「いやいやいや、そうじゃなくてだな。重要なのはこのステータスが何に影響するかって事だよ……」

 俺は頭を抱えながら、もう一度ステータスに目をやる。

 まず勉学。言葉通りなら、勉強の出来不出来だろう。しかし今回発生したのは戦闘だ。本を読んだ訳ではなく、当然勉強もしていない。成長したということは、戦闘の何某かに影響を受けたのだろう。RPG的に云うなら、おそらく知力や魔力に値するものだろうか?

 次に運動。これは分かりやすく体力、だろうか? 一番の伸びを見せていることから腕力なんかも内包していそうだが、推測の域はでない。

 次、芸術。なんだよ芸術て。意味分からんわ。ギャルゲ的には芸術関係のヒロインを攻略するのに必要な値なのは分かるが。この世界、いやRPG的にいうなら何だろうか? 精神? 集中? 分からん……。

 最後に魅力。これはまぁ、言葉通りなんだろう。ギャルゲーの種類にもよるが、最も重要なステータスである。この数値が低いと体育系ボクっ娘ヒロインやガリ勉メガネっ娘おさげヒロインなどの多様なヒロインの、攻略の入り口にも立てない。

 いや、俺はギャルゲがしたい訳じゃいのだ。運とか致命クリティカル率とかに影響してくれてないかなー。

 後は、特殊──スキルか。剣道を剣術。弓道を弓術だと思えば、なるほど、納得である。今回弓は全く使っていないからなー。成長していないのも止む無しである。

 オカルト、というのは神秘学だろうか? 多分魔法に関係してる。

 新しく生えてきた交渉は、あの少女との遣り取りのおかげか? 分からん。

 分からんことばかりである。分かったのは、これがギャルゲーのステータスだということだ。

「しっかし、随分伸びたな……」

 実戦に勝る修行は無いということか。俺自身驚くくらい、ステータスはかつてない数値の伸びを見せていた。

 今までコツコツと修練していたのが馬鹿らしくなるくらいである。

 いやいや。そのコツコツが無ければ多分今日、命を落としていただろう。地道な努力を馬鹿にしてはいけないな、うん。

 あと考えるべきことは──。

「やっぱ今日の出来事だよなぁ……」

 ベッドに身体を埋めて記憶を呼び起こす。

 今日のイベント──現実の出来事をイベントと片付けて良いかは疑問だが、ひとまずそう呼称しよう──は、まず間違いなく”剣バラ”の、テレジアの”呪い”発現イベントだった。

 だが今回彼女が目覚めたのは氷の力ではなく、むしろ真逆。炎の力だ。”剣バラ”を準拠に考えるなら、これはおかしい。

 おかしいと言えば、誘拐犯もそうだ。

 ”剣バラ”では”呪い”が発現したテレジアが誘拐犯らを自らの力で一掃するのだが。

(……テレジアだけの力だ彼女を撃退出来るか?)

 疑問が残る。

 そも彼女ほど人物が、過去回想だけで、しかも数行の文で倒されてしまっていいような存在だろうか?

 そしてはたと思い出す。

 そうだ! 若葉の少女、彼女の目的は”剣バラ”本編──”呪いの水晶カーズド・クリスタル”ではなくテレジア本人だったではないか!

 これは明確に”剣バラ”のストーリーから逸脱している。

 であればこの謎を解くのなら、少女の目的、正体を解明することが肝要である。

(あの子も、どっかで見たことある気がするんだよなー……)

 そう。少女を見て、最初からアーサーは気になっていた。

 だが思い出せない。喉元まで出掛かっているような、出てこなさそうな。何とも気持ちが悪い。

(あーもー、分からん! もう寝る!)

 考えても仕方ないことは考えないようにする。心の健康を保つ秘訣である。

 アーサーは思考を切り替えて寝ることに集中すると、溜まっていた疲労が一気に押し寄せあっという間に眠りに落ちていった。

 

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