第9話 ”剣とイバラと呪われた姫”√テレジア
──”剣とイバラと呪われた姫”、通称”剣バラ”。
二〇〇〇年代初頭、ギャルゲーにもまだ勢いがあった時代に発売された作品の一つ。
名作と言われる程ではなく。かと言って駄作と呼ばれる程でもなく。
個人的には佳作と称してもいいんでない? それぐらいの評価だ。
舞台は中世ヨーロッパ風の異世界。
平民の生まれの主人公は成り上がりを夢見る、目元を前髪で隠した──これといった特徴のない没個性系主人公である。
十三の時、騎士学校の入学を決意するも、すげなく入試試験に落ちてしまう。
失意の中故郷に戻ろうとする最中、怪しげな一団が女性を拐おうとする場面に遭遇し、彼女を助けたことから主人公の運命は回り始めた。
実はその女性、城から抜け出してお忍びで城下に遊びに来ていた王女様で。
兎角まぁ王女様の口添えもあって晴れて主人公は騎士学校に入学を果たす。
──とここまでが導入部で、ここから色んなヒロインとの交流を深めていくのだが割愛。
”剣バラ”のメインヒロインには皆、一つの共通点がある。
それこそがタイトルにも冠されている”呪い”である。”呪い”とはヒロインらのトラウマに起因した枷でもあり力でもある。
”剣バラ”のメインヒロインで云うならば、他者に触れると生命力を吸い取ってしまうという能力を持っている。
ちなみにネタバレになるがタイトルの”呪いの姫”とは、”呪い”を持ったヒロインのことではなく、過去に実在した王女様を指している。”聖女”とまで謂われた王女様だが政変の憂き目に合い、「魔女」とまで蔑まれてしまう。
信じていた民衆に裏切られた結果、彼女の聖なる力が反転。王国を、民衆を破滅へと導く”呪い”に転じてしまう。
現在その呪いは封印されて抑えられているものの、長い年月の中蓄積されたソレが二〇〇〇年の時を経て──つまり本編の時期に破れてしまうのだ。
”剣バラ”はメインヒロインとの交流を通して、”呪い”を解く物語でもあるのだ。
んまぁ、単に恋愛してイチャコラするタイプのギャルゲーではなく、”呪い”という味付けがスパイスになった、非常にオーソドックスなギャルゲーだ。
うん。やっぱ名作とは程遠いな。
◇◇◇
さて。テレジア・フォンテレンスだが、彼女の”呪い”は氷の魔法──”
当然、”呪い”というからにはデメリットもある。
その最たるものが、完全な制御が不可能であるという点だろう。”呪い”はテレジアの感情と密接に関わっており、感情が昂ぶると彼女の意思に関わらず”呪い”は発動し、周囲のものを無差別に凍らせる。
そんな”呪い”だが、テレジアが生まれた時から在る訳ではない。
”呪い”が発症したのは幼少時、テレジアが誘拐されたことに端を発する。
テレジアの身柄を確保した犯人らは早速一つの要求をしてきた。テレジアの解放、その条件というのが、”
”
ユークリッド王国では”
王家二、公爵家三という比率は王家が最も力を持ちつつも、公爵家が結託すれば王家の勝手を止められるという、絶妙な塩梅であった。
何せ五つに分かたれたとはいえ国を滅ぼす"呪い"である。一つ違うだけで国内のパワーバランスが崩れる。
誘拐犯の正体は政治犯であった。そして彼らの目的は最初から、テレジアでもなく身代金でもなく、”
その重要さを理解しているからこそ、ムスタファは要求を飲めなかった。
それは同時に「テレジアを見捨てる選択」と同意である。
事が思い通りに運ばなかった犯人らは苛立ち混じりにテレジアへこう言った。嗤いながら、「家族に捨てられた哀れな女め」と。
現実を突き付けられた幼いテレジアは絶望から”呪い”に覚醒する。
そして覚醒した”呪い”──”
肉体的には何の傷も負わずに助けられたテレジアだが、心の方はそうはいかない。
如何なる理由があれ家族が自分を助けてくれなかったという事実は、幼いテレジアの心に深い傷痕を残した。元から良好とは言えなかった家族仲は、完全に冷めきった。
極度の人間不信に陥った彼女は、周囲の人間をすげなく拒絶する性格も相まり”氷の令嬢”などと呼ばれるようになる。
文字通り氷となった彼女の心を溶き解すのは、そう、勿論主人公である。
二人は騎士学校で出会う。
当然最初は、すげなくあしらわれる主人公だが、何度拒絶されても接触を図ってくる主人公に、少しずつ絆されていくテレジア。
そうして何やかんやあって恋仲になり、遂には”呪い”を解呪してハッピーエンド、というのがテレジアストーリーの概略である。
◇◇◇
(しっかしまー、デメリットに対して能力がチートだよなー)
脳内の
犯人との距離を詰める一方で、少しでも情報が得ようとテレジアのストーリーを思い返すが、矢張りというか、本編から現状を打破出来そうな知識は無かった
代わりにこれから覚醒するだろう、テレジアの”呪い”に対しての感想が漏れた。
──往々にしてギャルゲのヒロインという存在はチートなのだ。
記憶を引っ張り出して解ったことと云えば精々が、そう。誘拐犯らが突き付けてきた取引の条件を先んじて知れている事ぐらいだ。
(でもなー、解ってても意味がないんだよなー)
犯人らが要求するだろう”
出来ることといえば、こうしてアジトまで後を追うことと、可能であればそのままテレジアを救出することか。
見過ごす、という選択肢は端から無いが、かと言って独りで強行するには危険が多い。なるべくなら取りたくない選択だ。
(さてさて。どうするかねっと──お?)
村からは大分離れてしまったが彼我との距離が徐々に詰まってきた。そんな時、遂に赤い点が止まった。
自分が追い掛け始めた瞬間、犯人は逃げる速度を上げた。追跡はとっくに気付かれているだろう。
ようやくアジトへと辿り着いたか? はたまた人一人を担いでいる無理を悟ったか? まして諦めた訳ではあるまい。
となると──。
(迎え撃つつもりだろうね。すると罠かもしれんなー。はてさて)
十中八九戦闘になる。
数分後に訪れる未来を想像し、アーサーは腰に提げた短剣の柄を撫でた。
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