第19話:おなにぃーにゃ!


 小学5年生の少女。

 血は繋がらないとはいえ、仮にも妹である小さな女の子が。

 水着姿で腰を振り、俺を誘惑してくる。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 俺はその光景に恐怖した。

 美雲の好意が、俺を本気で……女として愛しているのだと知り。

 そのあまりの異常さに、ただひたすら――恐怖したのだ。

 

「にぃにぃ!?」


 俺は慌てて扉を蹴破り、何度も転びそうになりながら階段を駆け下りる。

 一秒でも早く、俺はこの空間から逃げ出したかった。

 あの妹から、美雲から逃げ出したくて堪らなかった。


「あれ? なんで晴人が……ふぎゅあっ!?」


 玄関に向かう廊下。

 たまたま通りかかった雷火が俺にぶつかり、壁にキスをするようにぶっ飛んだ気もするが……もはやそんな事はどうでもいい。

 怖い。あれほど俺を愛していながら、平然と俺を傷つけてきたアイツが。

 そしてこれからもきっと――あの歪んだ愛情を俺にぶつけてくるのだと思うと、もう俺はどうしていいのか分からなかった。


【その頃 美雲の部屋】


「……にゃぁ。流石にこれは、勇み足だったかにゃぁ?」


 晴人が恐怖で部屋を飛び出していった後。

 水着姿のまま、美雲はベッドの上にダイブする。

 そしてふぅーっと溜息を漏らすと、ベッドの下に声を掛けた。


「雨瑠ねぇねぇ、そろそろ出てきたら?」


「……ちょっと息苦しかった」


 ズリズリと、ベッドの下から這い出てきたのは晴波四姉妹の三女。

 彼女は服に付いた埃をパタパタ払いつつ、ベッドの縁に腰掛けた。


「かなり惜しかった。流石は美雲」


「えへへへっ。最後は失敗しちゃったけど、これでみぃは許して貰えちゃった」


「ずるい。というか、あんな方法は卑怯だと思う」


「えー!? なんでさー!?」


「……私がここでスタンバイしていた。だから、本気で死ぬ気なんて無かったくせに」


「……」


 確かに雨瑠の言う通り、彼女はずっとベッドの下にスタンバイしていた。

 というのも美雲が「みぃがにぃにぃに許してもらうところ、見せてあげるにゃ」と提案してきたからなのだが。


「仮に晴人兄が来なくても、限界がくれば私が助けていた。だから、首吊りなんて……」


「ううん、違うよ。雨瑠ねぇねぇは、間違ってる」


「どういう意味?」


「そもそも、みぃはにぃにぃが絶対に来てくれるって信じてたもん。だから、そういう意味では……確かにみぃが死ぬ事は無いって分かってたよ?」


 美雲はまっすぐな瞳で雨瑠を見つめる。

 その瞳には、ほんの少しの汚れも、嘘も秘められていないように見えた。


「それに……万が一、にぃにぃが来てくれなかったとしたら。みぃはね、本気で死ぬつもりだったよ。たとえ、雨瑠ねぇねぇが助けてくれたとしても」


 ガリッと、美雲は自分の首に出来た赤い筋に……爪を突き立てる。

 深く突き刺さった爪が肉を裂き、血を滲ませていく。

 その爪先をペロリと舐めて、美雲は嗤う。


「あはっ、だって。にぃにぃと結ばれない体なんて、要らないよ。それならさっさと死んで生まれ変わって、来世でにぃにぃと結ばれればいいでしょ?」


「……歪んでるね、美雲」


「はぁ? 雨瑠ねぇねぇにだけは言われたくないんだけど!」


「私は……この私自身を愛して貰えなきゃ嫌。この体の全てを、晴人兄に愛して欲しい。私は私で私の私が私なら私さえ私だから私だって私私私私私私私……」


 雨瑠の瞳が光を失い。どろどろと真っ黒に染まっていく。


「ねっくらぁ。そんなんだから、にぃにぃに嫌われるんだよ」


「晴人兄、次は私の番。私がすぐに……晴人兄の愛を勝ち取ってみせる」


 そしてそのままフラつきながら、雨瑠は部屋を出ていく。

 そんな姉の哀れな後ろ姿を見送った美雲はベッドから起き上がると、タタタッとドアに駆け寄って鍵を閉める。


「はわぁ、まだにぃにぃの匂い……残ってる。それにさっき、にぃにぃに抱きしめて貰えた感触も……んはぁ」


 その後美雲はスク水の肩紐に手を掛け……ズラしていく。

 そうして、水着すらも完全に脱ぎ去り、産まれたままの姿となった彼女は。


「……にぃにぃ、悪い妹でごめんね。こんなえっちな妹でごめんね。でもこれも、にぃにぃに愛してもらう為の予行練習だから」


 布団の中に潜り込む美雲。

 丸い山状になった布団がグネグネと動き出すのと同時に、ほんの少しの水音とくぐもった美雲の吐息と嬌声が漏れ始める。


「んぅっ……ぁん……にぃ、にぃ……もっと、もっといじめてよぉ……!」


 その日。昼食の時間になり、雪菜が部屋に呼びに来るまで……残り三時間。

 美雲の指が、彼女の体を休ませる事は無かったという。

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